隅の青春

@akkkkki73

隅の青春

時刻は12時15分。昼休みのはじまりを告げるチャイムが鳴る。

それを合図に、クラスの男子たちがぞろぞろと一箇所に集まる。

さあて、今日もアレが始まるぞ。僕は強く気を引き締める。運動部の何人かは上半身の制服を脱ぎ捨てる。女子生徒たちはスマホのカメラを構える。

「おかず争奪ラッセーラゲーム!せーの!」クラスの中心人物たちのさらに中心人物のその声で「ラッセーラッセーラッセーラ!」という掛け声と共に全員が踊り始める。なにやら、最近流行っているラッセーラゲームというものを多人数で出来るように改良したものらしい。失敗したら抜けなくてはならない脱落方式で、敗けた者たちは勝者に弁当のおかずを一品献上しなければならない。活字ではうまく説明がつけられないが、とにかくそれが信じられないくらいに盛り上がる。「ラッセーラ!」と声を挙げて踊っている彼らの姿はまるで青春の生き写しだ。10年後、青春という言葉から思い返すのはこの光景だろう。

さて、もうお気づきかもしれないが、僕はその輪の中に入っていない。ラッセーラ集団の左斜め後ろにある隅っこの席で、とっくに飽きたソーシャルゲームを起動させている。ログインボーナスは今朝の段階で取得済だ。

そんな僕のことなどお構いなくラッセーラゲームの模様はtiktokに乗って世界中へと発信される。「#アオハル」を引き連れて。

爆速で上昇する視聴数とイイネの数。寄せられる「こんな青春憧れる!」というコメント。

もう一度言う。僕はその輪の中に入っていない。

寂しいけど、寂しくない。混ざりたくないけど、混ざりたい。


僕の青春、リアルでしょ?

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