一本道

@10171029

アイツから始まった

 ポーン

『当機はまもなく離陸いたします。今一度シートベルトをご確認ください。』

 私は機内アナウンスによって覚醒した。左腕につけた腕時計を確認すると午前5時30分を指している。アメリカはボストン行きの飛行機の窓から外を眺めると薄暗い空と滑走路が見える。私はいつも思い出す。明朝の飛行機にのると、アイツのことを。決してはっきりとは見えない道に猛スピードで走る姿が私がこんなことをしている理由をくれたアイツに似ているのだ。


今日ももう終わる

高校時代から変わらないなんとも言えない心地になる。強いて言うなら、虚無感や倦怠感あるいは無意に一日を終わらせてしまったという自己嫌悪だろうか。決して一流とは呼べない大学の単位を取り尽くし、かといって就職活動するでもなく、無気力にバイトをする日々だ。どうして俺はこんなのになっちまったんだ。そこそこの環境に生まれ、そこそこの教育を受けて、そこそこの大学に入った。この先もきっと、そこそこの会社に入社して、そこそこに良い人に恵まれて、そこそこの年でしぬ。そこそこだらけの惰性に満ちた人生を送るんだろさ。ここまで考えてふと自分にかえりまた、自己嫌悪に陥った。

 バイトも終わり肌寒くなってきた夜空を家路に急ごうとした時だった。ブーブーと携帯が揺れる。

「もしもし?、どうした?」

『いやぁ 早く仕事終わったからさ、どこかで飲まねぇ?』

「いいぜ。どこにする?」 嘘だ。俺はアイツと飲みたくない。会いたくない。顔さえ見たくない。

『それじゃあ、ーーーーーーーー』


 アイツが指名したのは駅近のちょっといい焼肉屋だった。

「悪りぃ ちょっと遅れた。 それにしても良い飯食ってんな、社長は」アイツに会いたくないがための遅刻の謝罪と共に、皮肉ってやった。

「茶化すなよ。肩書きだけでそんな偉くないって。何皿か頼んだいたから、まずは生で乾杯しようぜ」

俺の目の前に座るコイツが俺は嫌いだ。実家が隣で幼馴染だったが嫌いだ。中学まではまだ嫌いじゃなかったが、高校からどんどん嫌いになった。勉強だって運動だって俺の方ができるのに、意欲に溢れ、エネルギーに溢れ、人望に溢れていて、俺にとって心底うざったい奴になった。そういえば生徒会長でもあったっけ。大学を中退し、今はベンチャー企業の社長だ。学生の頃から期待されそれ以上を示し続けたアイツに嫉妬していた。自ら自分でやりたいことを決め、人を集めるアイツを、自分の行動に自信と誇りと楽しみを持つアイツを、前人未到に足を踏み出すアイツを羨んでいた。輝きに満ちたアイツを。何より醜いと思うのは幼馴染さえ嫌ってしまう、誇ることのできない自分だった。アイツの近く、それこそ隣ともなればアイツの真っ直ぐさに自分が嫌になる。自分の怠惰を、惰性を、傲慢を、受け身を見せつけられているようで。






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