【番外編】ほんと、俺最初から不利だよね〜

ひよこ🐣

「ほんと、楽しみだなぁ〜」


「……ふ〜ん、ふふ〜んっ」


他の部員は全員帰ったその日、俺は部長らしく鼻歌を歌いながら美術室の一角で新入生の数枚の入部届けを軽〜く見ていた。今年は去年より少しだけ入部希望者多い。…相も変わらず男は少ないが。俺、悲しい。


……何か面白い事はないかなぁ〜…。


「……あっ。あったわ」


「何がです?」


俺の横で(俺がやるべきはずの)書類をまとめている頼れる副部長─長瀬 栄一(ナガセ エイイチ)─がこちらを見て声をかけた。

そんな栄一くんに俺はとある入部届けを差し出す。


「見てよ、この子。やばいよ!」


笑う俺を他所に栄一くんはその入部届けを見るなり、ハッ、と目を見開いた。


「え、もしかして知り合い? 栄一くんの幼なじみ、とか?」


「いえ…。高校見学会で美術室に清水部長はいなかったので知らないと思いますが」


…なぜか“いなかったので”の部分に物凄く悪意が見えた。…ただ面倒だったから一足先に家に帰ってゲームしてただけなのに。


「とある子を美術室へ案内したんです」


「へぇ。……それで、この入部理由?」


俺はそう言ってその子の入部理由のところに指を指す。そこには枠にはみ出してしまうのではないのだろうか、と思うほど大きくこう書かれていた。


【ながせえいいちセンパイがいるからです!!!!!!】


文面なのに引くほど圧力を感じる。栄一くんの名前が平仮名なのは恐らく漢字を知らないからだろう。


「みたいですね」


栄一くんは少し眉をひそめながらそう言う。


栄一くんも変な子に魅入られちゃったなぁ…、なんて思いながら俺は頬杖をついて栄一くんに見せていた入部届けをペラッ、と指でつまみ再度見る。


「へぇ…。この子が…」


俺はそう言いながら入部理由欄から名前へと視線を移す。


“結城 優良”


結城優良ユウキユウラちゃん? …かぁ」


「清水部長、優良ユウラさんではなく優良ユラさんですよ」


「優良ちゃんか! どんな子?」


「…………………。……元気な子ですね」


「何その間」


俺はそう言いながら優良ちゃんの入部届けを他の入部届けと合わせて栄一くんに渡す。


「はい」


「…“はい”、とは?」


「顧問のセンセーに渡しておいて♡」


「…はい。かしこまりました」


少しため息を吐かれたけどラッキー! これで(面倒な)職員室に行かないで済む〜〜!


なんて思いながら俺は席を立ち上がり、栄一くんにお礼を言う。


「ありがとうね!」


「これも副部長の務めなので」


栄一くんはそう言うとポケットから鍵を出して「閉めますよ」と俺を急かす。


「はいはいは〜い」


俺は横の椅子に置いてあった自分のバッグを片手に持ち、美術室を出る。カチャッ、と美術室の鍵を閉める栄一くんに俺は口を開く。


「ねぇ、栄一くん」


「はい?」


「その優良ちゃんって子、入部理由が栄一くんなんだよね?」


「そう、みたいですね」


「可愛がってあげなよ〜」


ツンツン、とからかうように栄一くんの肩をつつく。しかし栄一くんはそんな事は気にした様子はなく「はい」と首を縦に振った。


「それよりも清水部長は面倒になって新入生の説明やらなんやらを僕に丸投げしないでくださいね」


「う、うん! もちろんだよ〜」


実際、徐々に栄一くんへ仕事を丸投げをしようと思っていた俺はドキリ、と胸を高鳴らせながら返事をする。


………でも、まぁ。


俺は入部届けに書いてあった名前を思い出す。


結城 優良ちゃん…ねぇ。


「………………栄一くん」


「なんでしょう」


「ボッ! キュッ! ボンッ! だった?」


「清水部長、あなた最低ですね」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る