「ほんと、楽しくなくちゃね!」
「ねぇ、これも俺がやらなきゃダメ〜?」
午後の授業も終わり、部活が始まった。まだ新一年生は来ていなく、部長である俺と副部長である栄一くんだけが先に来て新一年生を迎える準備をしていた。
といっても人数分の椅子を出すだけだが。それは栄一くんがやってくれていて、俺は黒板の前にある大きな机に頬杖をつきながら資料を見る。これから来る新一年生のものだ。
「“これ”、とは“新一年生に自己紹介を頼む事”でしょうか?」
栄一くんはそう言うとやや闇を抱えてそうなにこやかな笑顔をこちらに向けてきた。めちゃ怖い。
「でもさ〜、俺、部長の仕事できないよ〜」
「部長が座る席にドカッ、と座り、部長という肩書きがあるのになんて事言っているんですか」
栄一くんの言う事は最もである。というか俺自身、部長になったのにはワケがある。
「“部長”って、なぁんも面白くないねぇ…」
「面白さで選んだんですか…?」
「うん。だってただの部員よりも面白そうだと思ったからさ〜」
俺はそう言うとペラッ、とある一枚の資料にもう一度目を通す。そこにはやはり大きく書かれた【ながせえいいちセンパイがいるからです!!!!!!】という文面。
「まぁこれから面白い事が起こればいいんだけどね!」
「その兆しはあるんですか?」
そう言って栄一くんは隣に座ってくる。
いいね、普段は(栄一くんが仕事で忙しくて座れないため)一人だから、栄一くんが座っているとなんだかいい気分だ。俺、部下従えてる感じしてる。
「うん、あるよ。ほら」
俺はそう言ってさっきまで見ていた資料を渡す。
「結城さん、ですか」
「そ! この子の入部理由が面白くて〜! いや〜楽しみだね!」
「部長はその…、楽しそうですね」
「うん! 早く来て欲しいなぁ」
ニコニコと笑顔を浮かべながら俺はその子の到着を待つ。“早く来て欲しい”といってもまだ一年生はクラスでこの高校の説明でも受けているだろう。
そろそろくるのは三年生から二年生だけ。
一年生がくるのはまだ遅いかぁ、なんて思いながら俺は隣で読書をし始めた栄一くんの肩を揺さぶる。
「ねー、暇! 遊ぼうよ〜」
「それでしたら美術部部長らしく僕でも描いてください」
「えぇ…、まぁ…いいけど…」
暇なこの状況がどうにかなるなら、と俺は部室に置きっぱなしにしている道具箱の中からスケッチブックと鉛筆を取りだした。
「じゃー描くから〜。動かないでね〜」
「はい」
栄一くんを描くためにスケッチブックに鉛筆を滑らそうとした時。そういえば、と俺は思った。
───あの子は絵はどんなものなのだろうか
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