65 新しいお友達


「おまたせ泉君。ごめんね」

「香月さんとはうまくいった?」

「うん、仲良くなれたと思う。それに羽田君ともきちんと話すって」

「そっか。氷南さん、ありがとね」

「?」


 私は彼女と羽田君を見かけたあと、泉君と一緒に家に向かう途中もずっとモヤモヤしていた。


 そんな私を見て、「一緒に行く?」と言ってくれた泉君に対して「一人で行きたいから、待ってて」と言って私は香ちゃんのところに向かったかんじ。


 結果として、友達になれたし羽田君とのわだかまりも彼女なりに頑張ろうと前を向いてくれた様子だったので、行って良かったと思う。


 でも、かなり緊張したせいか疲れてしまい、本当は泉君ともう少しイチャイチャしたかったのだけど家まで送ってもらったところでバイバイした。


 部屋に戻って寝ようと思ったけど悶々として眠れない。

 泉君の腕の中ならすぐにすやすや眠れるのになあ……


 なんかモヤモヤムラムラする気持ちをおさえながら、私は香ちゃんとのことを報告しようと、あいちゃんに電話してみた。


「あいちゃん、私香ちゃんと友達になったんだよ!」

「な、なによいきなり大声出さないでよ。で、香と仲良くなったってどういうこと?」

「香ちゃんとお話しして、お友達になろうって話したの」

「そ、そう。あの香がそんなことを……でも、ほんとに向こうもうんっていったの?」

「言ったよ!それに子犬に似てるからマルちゃんだってあだ名もつけてきたし」

「そ、それはいいのあんた的に?」

「?」


 私はテンションが上がりすぎてずっと喋っていた。

 もともと心の中ではお喋りな私だけど、こんなに気兼ねなく誰かに話すなんて経験は初めて。


 泉君は……彼氏だし可愛い彼女でいたいからちょっと素の自分を隠そうと思ってる自分がいるけど、あいちゃんの前では随分素直になれる。


 やっぱりこの夏休みで色々変わってきたなあと、我ながら感心しているとあいちゃんが、少し気になることを言う。


「まあ、香と仲良くなるのはいいけどあの子、女子の中では嫌われてるから気をつけなよ」

「え、どうして?だって人気者だって」

「表面上はね。本当は香のあの態度にムカついてるやつばっかだよ。だからみんなうわべの付き合いしかしない。取り巻きのやつらもそうだろうね」


 もしあいちゃんの言っていることが本当だとしたらなんて寂しい話なんだろう。

 

 昔、お母さんに裸の王様という本を読んでもらった時のことを思い出した。


 香ちゃんはあの本に出てくる王様そのものだ。

 でも、それだったら余計に誰かが手を差し伸べてあげる必要があるんじゃないか。


「私は、香ちゃんと仲よくするもん。だからあいちゃんも仲良くして」

「まどかがそこまではっきり言うのも珍しいね。でも、いいよ。私も別に敵対したいわけじゃないから」

「うん。ありがと」


 そんな話の流れで、明日は急遽あいちゃんと会うことになった。


 亜美さんは羽田君と遊びにいくそうで、泉君もちょうど明日は昼間におうちで用事があると言ってたから寂しいなと思っていたところだったので私はテンションが上がる。


「ねえ、それなら香ちゃんも呼ばない?」

「え、まどかと香と三人?気まずくないかな」

「大丈夫、私がいるから」

「それが一番不安なんだけど」

「?」


 あいちゃんは何か心配なことがあるようだけど大丈夫。

 だって私は香ちゃんと友達だから!


 じゃあねと電話を切ってから、ラインで待ち合わせの時間を決めて、それを香ちゃんにも連絡してみる。


 するとすぐに返事がきた。


 いいよという不愛想なものだけど、でも来てくれるんだとわかると嬉しくなった。


 みんな仲良くして、友達いっぱいになったらいいなあ。



「おすー、まどか」

「あいちゃんお待たせ。香ちゃんは?」

「まだ来てないみたい。てか本当にくるの?」

「うーん」


 いいよと言われてから、返事したのに何も応答がないし少し心配だったけど、でも香ちゃんは約束を無断で破るような人には言えないけど……


「お待たせまどか。愛華、あんた早いわね」


 そんな心配をよそに香ちゃんは来てくれた。

 でも、あいちゃんとはどこか空気が重い。


「香、あんたの私服ってちょっと古いよね」

「愛華の靴、それ三年前に流行ってた奴よね?中学校から靴のサイズ変わってないの?」

「あんたなんて何十年前から時代止まってんのよ」

「ああ?」

「なによ」

「もー、二人ともやめて!」


 目が合っただけで喧嘩に発展しそうな二人の間に入り、私はちょっと怒った。


「ねえ、今日は三人で遊ぶんでしょ?喧嘩しないの!」

「はいはい、わかったわよ。香、今日はよろしく」

「まどかに免じていいわよ。こっちこそ、今日はよろしくどうぞ」

「うんうん。……うん?」


 握手を交わす二人はギリギリと、歯を食いしばって相手の手を握りつぶさんとばかりに力を込めていた。


 私は思わず「いい加減にして!」と大きな声を出すと、さすがの二人も冷静になった。


「もう、次喧嘩したら怒るから」

「いや、怒ってんじゃん」

「いいの!」

「はいはい。それで、今日は何するつもり?」

「うーん。私、泉君に隠れて色々できるようになりたいんだ。だから、ボウリングの練習を」

「いいねえ。香、勝負するわよ」

「望むところよ。でもまどかの投げ方って腰痛めたおばあちゃんみたいだもんね。あれをどうにかしないとね」

「わ、わかってるもん!」


 今日はあいちゃんと香ちゃんと三人でボウリング。

 

 前に香ちゃんたちと行った時は最悪な感じだったけど、泉君に隠れて特訓だ!

 

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