02 恥ずかしいから見ないで
♥
私の朝は早い。
朝六時には起床して、朝からゆっくりとココアを飲んでほっこりする。
まぁ本当は、寝起きの自分の目つきが死ぬほど嫌いなので早く起きて目を覚ますのが目的なんだけど。
でも、高校になっても全然友達できないなぁ。
みんな会話が続かないし、すぐに逃げて行っちゃう。
うーん、やっぱり目つきが悪いのがいけないのかなぁ。
泉君も私を見てそう思ってるのかも……
うっ、そんなこと考えると気が重くなってきた……
今日、お弁当作るとは言ったけど、大丈夫かな?
泉君戸惑ってたけど迷惑じゃなかったかな……
で、でも私から言いだしたことだし彼がお昼持ってきてなかったらかわいそうだし、仕方ないけど作ってあげないと、だよね!
あ、そういえば今日も一本早い電車に乗るんだったっけ?
急がないと泉君に置いて行かれちゃう!
♠
今朝、少し早く駅に着いた俺は電車の乗る時間を氷南さんに合わせるために一本乗り過ごす。
そして次の電車でいつもの車両に乗ったのだが彼女は次の駅で乗ってこなかった。
場所を間違えたのかと思い他の車両も探してみたが彼女がいない。
うろうろして迷惑な客だったと思うが、それくらい俺は動揺していた。
そして学校前に到着。すぐに電車を降りると、ホームに彼女が立っていた。
頬をぷくっとさせている……怒ってる?
「あ、おはようどうしたの今日は?」
「一本早いのって。あれ、今日もそのつもりだったのに」
「え?」
昨日、確認しなかった俺が悪かったのだが、氷南さんは毎日いつもより一本早い電車に乗ろうと、言ったつもりだったようだ。
「ごめん、昨日だけかと思ってたんだ……それで、何もなかった?」
「何もなかった」
「そっか、よかった。いないから心配したんだよ」
「こっちの方が心配した……」
「え?」
「……学校、行こ」
氷南さんはそう言って俺の横を歩く。
今日はどうやら一緒に学校に行ってもいいようだ。
「あのさ。今日は何冊か本持ってきたから読んでみてよ」
「持ってきちゃったんだ……」
「え、まずかった?」
「バカ……もういい」
怒らせてしまった。
氷南さんがまたぷくっと頬を膨らませている。
どうしてかはさっぱりだが、本を持ってくるのがそんなに悪いことなのかな?
せっかく一緒に登校しているのに気まずくなるのは御免だと、俺はもう一度勇気をだして話題を作る。
「そ、それと部室の掃除とかしない?ほこりっぽいし」
「……他に聞くこと、ないの?」
「え?ええと……うーん」
「いい。これ、勝手に食べて」
言われて渡されたのはお弁当。緑色の布に包まれたそれを、とても不愛想に渡された。
本当に作ってきてくれたんだ……。
「あ、ありがとう。あの、よかったら今日も一緒に」
「部室」
「え?」
「昼休み……部活するから、部室集合」
「う、うん」
「それじゃ」
氷南さんはさっさと行ってしまった。
結局、途中まで一緒に登校出来ていたというのにバラバラに教室へ向かうこととなってしまった。
もっと話したかったなと、授業中も休み時間もずっと氷南さんの事をみていた。
静かで、聡明で、でもどこか影がある彼女はいつもと変わらず綺麗だ。
昼休みになると、彼女はさっさと教室を出て行った。
追いかけるように急いで氷南さんの作ってくれた弁当を持って追いかける。
「氷南さん」
「……なに」
「ええと。部活ってお昼は何するの?本棚の整理とか?」
「ニブチン……」
「え?」
「知らない。とりあえずお昼、食べてから」
職員室で鍵を預かってから部室で二人きりで食事。
机を引っ付けて向かい合わせになり彼女の正面で弁当箱の蓋を開けた。
氷南さんの作ったお弁当はとても色どりがよく、美味しそうだ。
「いただきます。うん、美味しい」
「そう。ならよかった」
「氷南さんって料理も上手なんだね」
「別に。家で家事するだけ」
今日も彼女は無表情。小さな声で淡々と、俺の言葉に最低限の受け答えをしてくれるだけ。
それでもこうして二人でいることが嬉しくて、俺は頑張ってもう少し話を振る。
「放課後、せっかくだから何か読書以外に活動とかしてみない?」
「買い物……」
「え?」
「買い物、行きたい」
氷南さんはそう言うと、箸を止めて俯いた。
「買い物……うん、行こうよ」
「無理にはいいけど」
「そんなことないって。俺も行きたかったし」
「ほんと?」
少しだけ。ほんの少しだけ俺を見るようにその顔をそっとあげる。
頬が燃えるように真っ赤だ。少し唇も震えている。
「うん、もちろん」
「よかった……」
「え?」
「……早く食べないと、時間なくなるから」
彼女はまた。黙々と弁当を食べ始めた。
しかし卵焼きを掴んだ箸が震えている。
そしてご飯の上にぽとり。
もう一度拾い直すとまた震えてぽとり。
何回かそんな光景を黙って見ていると彼女がこっちを睨む。
「見ないで」
「ご、ごめん」
「……バカ」
「え?」
「何でもないバカ!」
バカと一喝されて、俺はしょんぼりと黙り込む。
彼女もまた、静かに黙々と、淡々と食事を終えて、そのまま部室を出て行ってしまった。
……何か悪いことでも言ったのだろうか。
いや、そんな会話はなかったと思うけど、でも放課後に一度謝ろう。彼女、怒ってたわけだから。
教室に戻ると彼女は既に自分の席に座って外を見ていた。
昼休みが終わるまでの数分の間だったが、それでも数人の男子生徒が懲りずに声をかけに行って玉砕していた。
放課後。
せっかくだから一緒に学校を出ようと氷南さんの方へ寄っていくと、逃げるように先に教室を出ていった。
慌てて追いかけて声をかけるが、氷南さんは無言だ。
「氷南さん、どうしたの?やっぱり怒ってるの?」
「……」
「氷南さん……?」
彼女の顔を見ると、少し目に涙を浮かべながら顔を強張らせている。
そして俺を振り切るように段々と早足になっていき、最後には走り出した。
「あっ、」
彼女は走ってどこかへ行ってしまった。
……え、買い物は?
一人取り残された俺は急いで彼女を追う。
そして正門を出たところに氷南さんの姿があった。
申し訳なさそうに、下を向いてじっとしている。
「氷南さん!よかった、帰ってなくて」
「……怒らないの?」
「え、なんで?」
「だって。逃げたし……」
照れくさそうにそう言うと、左の頬をポリポリかいて、そのまま人差し指で髪をクルクルと巻いている。
仕草がまた一段と可愛い。
「お、怒ってないよ。それより氷南さんの方こそ。俺、何か変なことした?」
「した」
「え、ほんと?じゃあ謝るよ……ごめんね」
「……嘘。してない」
「あ、あれそうなの?」
「(恥ずかしいから目、見ないで……)」
「え?」
「何でもない。それより、買い物」
彼女は。そう話してからくるっと振り返った。
そして歩き出す彼女について行こうとすると、少しだけこっちを見て
「こっちこそごめんなさい」
と小さな声で言った。
何の事だろうと、首を傾げながら彼女を見るとまた目を逸らすように下を向いてしまった。
ずっと顔が真っ赤っかだ。
二人で並んで歩く間、今日も彼女は無言だった。
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