第2話
初めての夜会の会場は何もかも煌びやかで、まるで夢のようです。
私はお父様とファーストダンスを踊った後は、お母様とお姉様に挟まれるようにして色々な貴族の方にご挨拶をさせていただきました。
だいたいの挨拶を終えたところで、例の御方の声が聞こえてきました。
「貴女、婚約者はいらっしゃるの!? えっ! 子爵家? まあーっ! 伯爵令嬢が子爵家に嫁ぐだなんて!」
ああ。どこかのご令嬢が早速突撃されてしまったようです。
「同じ伯爵家に嫁ぐ方が絶対に幸せになれますわ! 私がいいお相手をご紹介しますわ!」
「いえ、娘は婚約者と相思相愛ですので」
「ええ。娘本人が婚約を誰より喜んでおりますの」
ご令嬢のご両親が、がっちりと娘を庇うように前に立っております。
あら。婚約者様も駆けつけて参りました。
周りの皆様は「また始まった……」という目で、被害者となられた令嬢を気遣わしげに見ておられます。
そう。これが私が——というか、未婚のご令嬢が初めての夜会の前に急いで婚約を整える理由でございます。
「まあ! 私はよかれと思ってお勧めしましたのよ! 後悔などなさらないように」
この御方——ルドメール公爵夫人は、未婚のご令嬢に一方的に縁談を押しつけようとなさる、困った御方なのでございます。
まだ婚約者のいないご令嬢に釣り合った殿方をご紹介されるのであれば、お節介とはいえ善意の申し出と受け取ることが出来ますが、ルドメール公爵夫人の場合は、婚約者のいるご令嬢にも御自分の考えた「ふさわしい相手」を押しつけようとしてくるから皆様から憎まれておいでです。
というのも、公爵夫人が押しつけてくるのはたいてい問題のある方ばかりなのです。
侯爵家の御次男が婿入りすることが決まった伯爵令嬢へ、三十すぎてもご実家住まいで遊び人と噂される侯爵家の四男を紹介してきたり、
幼馴染の男爵家の御嫡男との婚約に頬を染める子爵令嬢へ、四十も年上の離婚歴のある伯爵様を勧めてきたり、
一番おぞましかったのは、まだ七歳の伯爵令嬢へ、奥様を亡くされて独身の三十九歳の侯爵様をご紹介しようとなさったことです。
これは流石にお相手としてお名前を上げられた侯爵様の方が慌ててお話を打ち消しましたわ。当然でございます。非道を通り越して鬼畜の所行ですわ。
このように、視界に未婚の令嬢がいれば見境無く「ふさわしいお相手」を紹介してくる御方なのです。
公爵夫人の持ちかけてくる縁談をお断りするのは、普通であれば下位貴族には難しいものですが、幸いルドメール公爵様は温厚で良識ある御方で夫人の蛮行を諫めてくださいます。
また、国王陛下も正式に認められた婚約に横やりを入れて壊そうとなさる行いを許すような御方ではございません。
ご令嬢の家族や婚約者は結婚するまで令嬢を守ることに心血を注いでおられる方々ばかりです。
ですので、公爵夫人の勧める縁談が整ったことは一度もなく、不幸になったご令嬢はいないことが救いです。
それでも、公爵夫人は諦めることなく、ご令嬢がいる家に目を光らせていらっしゃるようです。
我が家も、お兄様とお姉様の婚約が整った時に突撃されました。
無論、そんなものに屈するような我が両親と兄姉ではございません。かなり粘着されましたが、なんとか諦めていただきました。
ちなみにその際、私は領地へ送られほとぼりがさめるまで滞在していました。家族の奮闘により私の存在はなんとか隠し通されましたわ。
そんな訳で、両親と兄姉は、デビュタントを迎える私に、必ずや公爵夫人が突撃してくるだろうと警戒していたのでございます。
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