第14話 竜継ぎ


「タカオー! クラオー! こっちの修理は終わったから、約束通りお前らのウロコを一枚くれ!」


『レイ殿、我らが神、【風水龍タカオカミ】様と【暴水龍クラオカミ】様をそのように呼ぶのはいささか不躾かと……』


 私が【爛々とチロ踊る炎竜の舌ランタン】の修理を終えたのを報告しようとすれば、お目付け役のキュアが渋い声を出す。

 

『キュアーレス。よいのじゃよいのじゃ、レイとは旧友であるからな』

『そうじゃ。そも、我々がレイにそのように呼んでくれと言ったわけだしの』

『しかし……せめてみなの前では……』


『みなの前でこそじゃよ。我々とレイは深い友誼を結んだ間柄であると』

『みなにもしかと知ってほしくての』


 私が【竜の巣】と呼ばれる【天骸】に来てから二カ月が経った。

 竜たちに【星遺物アーティファクト】の使い方を教えたり、一緒になって研究に励む日々は充実している。【英雄神アキレリア帝国】にいた頃と比べ、小さな【星遺物】の修理1つで竜たちにかなり感謝されるのだから、やり甲斐がものすごくある。


「【爛々とチロ踊る炎竜の舌ランタン】は、このガラスの中に炎竜の好物である【酸草さんそ】を入れてやると、チロチロよく燃えてくれるぞ」


『む……それは【天骸】の下部に植生している雑草かと思っていたが……幼竜たちが言うには、その草を食むと牙が溶けると言っておったが……』


「酸が多分に含まれた草だからね。でもこいつは酸素って魔力を発生させたりもして、んーここは水と風系の竜ばかりで、炎系の竜がいないから理解しがたいのかもだけど。火っていうのは酸素って魔力があると大きくなるんだよね」


『では、その魔力が過分に含まれているのが【酸草さんそ】だと』


「そういうこと。それと【炎竜の舌タン】と言っても、火種ひだね部分は実際の舌をそのまま使った代物じゃなくて、とある鉱物と混ぜ込んで創った【星遺物】らしい。薄い白色と鈍い輝きからして、陽の光を吸収して暗がりで光る性質を持つ【夜の太陽石サンタレッタ】だろう。これは強い酸性にも溶けない特徴がある」


『日中はなるべく陽光に当てるようにすればよいのだな?』


「いかにも。そうすれば【酸草】の量が少なくても、夜の闇も照らし続ける灯として長時間の使用が可能だ」



『それはそうと、レイよ。この【歩く大地の人形ギガントアース】についてだが……』


「そっちはこの間、素材カードにして融合してみたら私の方でいくつか『生物フレンドカード』化に成功したから、それを参考に修復方法を模索してみるよ」


『ありがたい。これで【天骸てんがい】に侵入してくる稚児どもを踏み潰す同士ができるというもの』

「いやいや、こちらこそ様々なデータが収集できてすごく嬉しいよ」


 竜たちの手助けをすると同時にデッキのラインナップも豊富になりつつあり、今では50枚超えだったりする。



『では、我らがウロコを一枚やるとしよう』


「助かる」


 二柱からもらったウロコはすぐに素材マテリアカードとして転用し、俺は自分の能力を上げるために自分をアップデートする。


:素材カードにより人体への遺伝子強化、融合を図ります:

:【風水の龍燐りゅうりん】をアップデート:

:【暴風の龍燐りゅうりん】をアップデート:

:同調に成功しました:


仮想紙幣のカード・オブ・決闘者デュエリスト】によって視界の隅に標示されたウィンドゥをチェックし、私は自身の強化のほどを確認する。


神無戯かんなぎ れい(人間ヒュラ 男):

:【生命力ライフ20 → 22】:

:【筋力パワー30 → 34】:

:【魔力マギ(鬼力) 90年 → 96年】:

:【頑丈ガード90  → 100】:

:【速度スピード16 → 18】


 ふむふむ。

 やはり二柱の竜神からいただくウロコは全ステータスが強化できて美味しい素材だ。

 私は元々、身体能力がかなり低い部類の人間だった。なので、私が【天骸】に来た当初のステータスよりやや上回る数値が人間の平均的なステータスだと判断すれば、飛躍的な成長を遂げただろう。


仮想紙幣のカード・オブ・決闘者デュエリスト】に記録しておいた初期ステータスを見返してみても、驚愕すべき事実である。



神無戯かんなぎ れい(人間ヒュラ 男)【2カ月前】:

:【生命力ライフ7】:

:【筋力パワー6】:

:【魔力マギ(鬼力) 58年】:

:【頑丈ガード7】:

:【速度スピード5】


 2カ月前と比べ、特に【頑丈ガード】が100を超えたのはやはり驚異的で、今では竜の一撫でにも余裕で耐えてしまう。初めのうちは少しジャレたり、不用意に竜に近づくだけで死の瀬戸際を彷徨う重症を負っていたのに、今では強い肩パンをくらう程度の感覚になってきている。

 無論、竜たちが本気を出して襲い掛かってくれば、私など紙ペラの如く切り裂かれてしまうが、それはそれ。

 人間として間違いなく、神に対抗できうる肉体を手にしつつある。

 度重なる強化により、今や下位の【血位者デウス】と同等レベルに達しているのではないだろうか?


「ふぅ……」


 竜たちとこうして様々な【星遺物アーティファクト】に触れる日々は、非常に幸せである。

 だが、それでも脳裏に巣食う根深い闇は決して晴れはしない。私の巻き添えで死んでしまったメモリア。彼女を救うためにここで色々な話を聞き、様々な星遺物を触らせてもらった。おかげで彼女を蘇生するに足る、最高峰の素材が集められたと自負している。

 すでにこの【天骸】で作れた素材カードを使い、何枚もの生物フレンドカードを生成はしている。

天骸てんがい王子リンドブルム】や【天柱の守護者ハリケーン】、【空を背負いし巨兵マナリア】など人型に近い半人半竜種も多いのだ。


 それでもやはり、不安はぬぐえない。

 生物フレンドカードではなく、物質アイテムカードや魔法マギカードになってしまったら……メモリア復活は叶わなくなってしまう。


『レイよ……不安が残るのであれば、まだこの【天骸】でゆるりと模索してもよいのじゃぞ?』

『大事な者を復活させる、それもまた大義じゃが……わしらと共に在る日々もなかなかに良いじゃろう?』


 二柱の竜神は私の懸念を機敏に察知し、メモリア復活はまだ先でもよいのではと促してくる。

 私はメモリアを復活させたら【天骸】を出ると、二柱にはその胸を伝えている。だからこそ別れを惜しみ、まだここにいても良いと優しい言葉で引き留めてくれるのは嬉しく思う。

 

「ああ、そうだな……」


 しかし、ここでやれる限りの事は全てやり尽くし、知り尽くしてしまった。

 これ以上の答えを知るには、この安全な【天骸】を出てゆかねば手にする事はできない。無論、ここを出れば【血位者デウス】に殺されかけるぐらいだから、私はいつ死んでもおかしくない。


 そんな不安定な状況下で、メモリアを復活させる前に私の命が潰えてしまったら……故に、私は【天骸】にいるうちに、確実に生物カードとしてメモリアを蘇生させると誓っていた。


『もうしばし我らと在ろうぞ』

『ここにおれば安心じゃ』


「……だが、断る」


 もうこれ以上、ぬるま湯に浸っているわけにはいかない。


「この【天骸】で作れた素材カードで完全なる復活ができなくても、生物カードは強化もできる。進化という手段がある以上、希望は消えない」

 

 逆に言えばここで立ち止まり続ける限り、メモリアの完全復活は成しえない。

 そう自分を鼓舞してえりすぐりの素材カードを手元に手繰り寄せる。



『ならば、我等は祈るのみよ』

『ならば、我等は信ずるのみよ』


『風は吹き、なんじの行く先の障害を吹き散らさん。風は友、汝の背中を押すだろう』

『雨は吹き、其方そなたの行く先に恵みをもたらさん。水は友、其方を潤す活力となろう』


【風水龍タカオカミ】と【暴水龍クラオカミ】は、私の不安を取り除こうと竜なりのやり方で声援の言葉を贈ってくれる。


「ありがとう、大切な友たち」


 礼を言い、万感の意を込めて素材カードを見つめる。



素材マテリアカード:竜生みの砂時計】

『竜を生むための巨大な砂時計。あらゆる物質やエネルギーをブラックホールの力を転用して吸収し、ホワイトホールの力で吐き出す。その際に発生する莫大なエネルギーに調整を加え、神をも殺す生物兵器【竜】を生成する【星遺物アーティファクト】』


【素材カード:遠雷を吹雪く竜シュトルムの死骸】

『嵐と雷を呼べる幼竜の死骸。その身に宿る魔力は、幼き竜でありながら計り知れない。どの部位も武具の素材にすれば一級品以上の品質になるのは間違いない』


【素材カード:竜継ぎの粉雪】

『【天骸】がもたらす狂った重力によって、舞い漂う歴代の竜たちの鱗。数々の鱗群は、次代の竜の糧となるため【竜生みの砂時計】に吸収されてゆく』



 このうち、【素材マテリアカード:追憶とメモリア竜鳴ドラクールの生首】と融合できるのは最大で2つまでだ。


「さて、あと2つ。どの素材カードを選ぼうか」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

古代帝国【日本】を知る最強の錬星術士~「ペテン師」と馬鹿にされ竜の巣に捨てられるも、究極カードスキルに目覚めたので神罰少女を錬成しまくります。ん? 星遺物が暴走して国が滅ぶから戻れ? だが断る~ 星屑ぽんぽん @hosikuzu1ponpon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ