第9話 二柱の竜神
竜のウロコとは、岩のようにゴツゴツしているかと思っていたが以外にも滑らかだった。
肌ざわりもツルリとしており、どうにも心地よい。
おかげで
『【
「レイでかまわないよ」
竜のウロコはみなこのようにスベスベなのだろうか? もしくは、きめ細かい肌のような感触を持つのは【
他の竜たちのウロコにもぜひ触れてみたいものだ。
『では、レイ殿。あまりそのように触るのは……我も一応は人間でいうところの
「……こ、これは失礼しました」
竜にも性別という概念があったのか……。
風を切る、どころか風を消し飛ばす勢いで大空を自由自在に猛進する【
だが、この竜はそんな空気を敏感に察してか、新たな話題を振ってくれる。
『レイ殿。我の乗り心地はいかがか? 振り下ろされないように静かに飛んでいるつもりなのだが……』
そう、私は今、竜の背に乗り空を駆けているのだ。
打ち付ける風は寒いを通り越して痛いが、形容のし難い爽快感に歓喜せざるえない。
なにせ生身で空を飛ぶ体験など、
「ものすごく、絶景だ」
『ならば良きかな』
私は竜たちに案内される形で、彼等彼女らの『神々』が座す場まで運ばれている。
どうやらその神々とやらは【
「そういえば、さっきの
『1人に重傷を負わせた途端、逃げの一手を取られてしまったようだ。奴らのせいで若い幼竜が1匹、修復不可能となった』
「修復不可能、というと亡くなったのか?」
『人間の言葉でありていにいえば、そうだな』
『キュゥゥオォォォオオオオオオオオオオオン』
『クゥォォォオオオオオオオオオン』
キュアーレスが同胞の死を言い切ると、後についてくる竜たちが形容しがたい声で鳴き始めた。それらはまるで山びこのよう反響し、次々と発生してゆく。しばらくしてその正体が、他の竜たちが上げている慟哭なのだと気付く。
深い悲しみを帯びた声音は【天骸】中の竜が発しており、失った同胞を見送る鎮魂歌のごとく天空に響き渡る。
……どうやらリヒテス様たちは数匹の竜たちを相手取り、見事に逃げおおせたようだ。
そこは腐っても強大な力を継ぐ【
「……他に、他の
『忌まわしき稚児たちとレイ殿以外にも、数人は感知していた。しかし、そちらの群れは我等と遭遇した途端、早々に【天骸】を離脱したようだ』
【第五血位】が率いるパーティーは、さすが判断が早い。
慎重なプリシラらしく、双方の犠牲者を出すことなく【天骸】から撤退したようだ。
そんな風に元同僚たちの動向に想いを馳せていれば、いつの間にか【天骸】の頂上に到達していたようだ。
「ここが……竜の神々がおわす場か……」
『レイ殿、
「失礼した」
【
【天骸】の頂点は世界樹の枝に匹敵しそうなほどの太い水流が、いくつも螺旋状に天へと延びていた。さながら水でできた天然の宮殿のような有様で、感動せざるを得ない。
そんな水柱が何本も立ち並ぶ中央に、【天骸】を管理する神々はいた。
「お初にお目にかかります、二柱の神々よ。私は星の記憶を辿り、その力を解放する者。【錬星術士】のレイと申します」
一柱は純白の雪のように白く、全体的に細いシルエットの優美な竜だった。
もう一柱は夜の闇より深い黒で、刺々しい角が身体のいたるところに見受けられる竜だ。
『ほう、我等を二柱と呼ぶか。心得ておるな人間』
『
『そう荒ぶるでない。早計じゃよ、クラノカミ』
『なに、タカノカミよ。もう数百年も動いてないものだから、つい身体がなまってないか心配での」
『ぬしが動けば川が壊れ、人里が呑まれ、多くの
どうやらタカノカミが白竜で、クラノカミが黒竜らしい。
亡くなった竜がいるからなのか、元々持っているオーラのせいなのか――
二柱の竜神からは、真冬の凍てついた空気よりも張り詰めた冷たさを感じる。
『して、リンリとキュアーレスが言うには、この人間は【星遺物】を知る者らしい』
『ほう……我々の
やはり、と言うべきか。
私の予想通り、【竜の巣】と呼ばれるここ【天骸】は、竜を生みだすための【
『なればこそ、礼を欠いてはならぬな』
『さようか』
『『我等は【
そうして白竜が頭を下げる。
『【風水龍タカオカミ】である』
続けて黒竜も礼をしてくれる。
『【暴水龍クラオカミ】ぞ』
『して【錬星術士】のレイよ。そなたは、どのような力を持つ?』
『リンリらからは、【星遺物】の研究のために我らが【天骸】に来たと聞いたが……そなたの成果を目に見える形で、我々にも証明してほしいぞな』
『しかと【星遺物】を扱えるのであれば、この【天骸】での滞在を許可しよう』
『万が一にも、ここの数ある【星遺物】を暴走させられては困るからの』
『『さあ、そなたの力を見せてみよ』』
いつの間にか数十頭の竜たちが集まるなかで、俺の存在価値を示してみせよと宣う竜神。
なるほど。
互いに【星遺物】を敬う者同士、通ずる物を感じてはいるが安全面を考慮してのテストか。
なにせ集まった竜たちの中には『グルゥゥゥ』と喉を鳴らして明らかに敵意を向ける個体もいれば、喪に伏すようにして悲しみに濡れた瞳を向ける個体もいるのだ。
【星遺物】が持つ偉大な力を理解しているからこそ、私が手を加えて暴発した際の危険性を懸念しているのだろう。そもそも、信用に足る存在であるのかも吟味する必要がある。
その上で私の存在価値を証明するにわかりやすい方法は力の披露に尽きる。
であれば、私は【
「何か、不要な物があれば……【
私は静かに竜たちへと告げた。
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