壊れたキャンドルライト
高山 詩葉
第1話 始まりの序章
彼、智行と付き合って7ヶ月。
同棲を始めて半月。
それは突然の出来事だった。
私は今、警察の取調室にいる。
身体と頭が離れている感覚。
これは抗うつ薬・睡眠薬・精神安定剤を20錠近く飲んだせいだ。
それでも私は正常を保とうと女性警官と順を追って話をしている。
いつ警察署に来たのかも分からない。
でも私が通報したのは確かだ。
―――― 私の「先にお風呂入るね」の一言で始まった。
智行が忙しそうに在宅で仕事をしていた時の事だった。
「おい、待て。なんだその言い方は?」
私は知らない間に彼の地雷を踏んでいたのだ。
「智行、忙しそうにしてるから先にお風呂入っちゃおうと思って・・・」
その時、彼の目の色が変わった。
怒っている時は少しグレーがかった目の色になる。
こうなるとアレが始まる。
彼は私に近づき睨む。
「てめぇ、もう一度言ってみろ!!」
こうなったら止める事が困難。
「ごめんなさい・・・」
私は謝る事しかできない。
何か一つでも反論するとすぐ揚げ足を取る・その言葉で反応すると思ったなどと言われる。
私の話は全く聞いてくれなくなる。
「てめぇ、俺に喧嘩売ってんのか?」
もう止まる事がない。
彼は自室に戻り、裁縫バサミを手に取る。
それを私の顔の前に向ける。
これは前にも一度あった。
「目ん玉えぐるぞ!」
「本当にごめんなさい。私が全部悪いです。」
謝っても彼はもう止まらない。
裁縫バサミを投げると今度はキッチンに行き包丁を手に取る。
「てめぇ、殺されたいのか?」
私の首元に包丁があてられる。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい。」
彼は包丁を振り回しはじめた。
止めようと思っても足がすくんで動けない。
私はその場で泣き喚く事しかできない。
「みんな、俺の事を馬鹿にしやがって!!てめぇもそうだろが!!俺はキチガイなんだよ!!」
「キチガイではないです。」
私は否定した。
「俺はキチガイ、お前は馬鹿なんだよ!!」
同棲を始めてから口論の度に「お前は馬鹿だ」と言われ続けてきた。
そう言われたそうなのだと私は思うしかできない。
「お前は付き合った中で一番馬鹿だ!話を理解できない馬鹿だ!!」
「はい、私は馬鹿です・・・ごめんなさい。」
もう私の中で何かが麻痺していた。
すくんでいた足がやっとの思いで動いた。
私の中で「ここに居てはダメだ」と思い急いで玄関へ走った。
彼は追いかけてきて私の腕を掴む。
その力が尋常ではない。
次の瞬間、彼は私の首に手をかけた。
何が起こったか分からない。
気づいた時には私は床に押し倒され、彼は私の上に馬乗りになっていた。
私の首元に包丁を突きつけられている。
「てめぇは俺の事をなめすぎなんだよ!」
首元の包丁が私の皮膚をかすめた。
―――― 殺される。
私の脳裏にその言葉だけが過ぎる。
恐怖により私は泣き喚き発狂した。
――――殺される。どうにか逃げなければ・・・
彼が包丁を持っている手を掴み、近くにあった掃除機で彼を叩きつけた。
彼は痛さで蹲っている。
「てめぇ、やりやがったな!」
彼はまた私の腕を掴みリビングへと戻した。
「お前は頭がおかしい!!これでも飲んどけ!」
渡されたのは彼が常用している抗うつ薬・睡眠薬・精神安定剤。
薬のシートが空になっていく。
これらを飲まされたのは始めてではない。
だが、今回は量が尋常ではない。
彼は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。
「本当はグレープフルーツジュースの方がいいんだけど、オレンジジュースしかないからそれでその薬全部飲んで。」
彼は笑顔で言った。
私は空のシートを見つめ何錠あるのか確かめる。
その数、見た限りで20錠。
「それ飲んで頑張って6時間起きてて。」
また彼は笑顔で言った。
時計を確認すると夜中の2時46分。
6時間後は8時46分。
明らかに抗うつ薬・精神安定剤と比べると睡眠薬の量の方が多い。
口に無理矢理押し込められる。
その後にオレンジジュースを流し込まれて口を塞がれる。
私の記憶の中での時間では2時46分が最後になった。
彼の笑顔と共に・・・
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