第4話 婚約破棄は一日にしてならず

「……で、あるからして……ここは……」


 退屈な薬草学の授業を聞き流しながら、考える。今後、円満に修道院行きを勝ち取るにはどうしたらいいか。

 ローザをいじめる手はもう使えない。あの様子だと今までのやり方は通用しそうにないし、かといって怪我するレベルの深刻ないじめは、僕もマルグリットも好ましく思わない。

 チャールズのあの剣幕だ、まだまだ婚約破棄の芽はあるとはいえ……向こうにも立場がある。こっちの明確な非を突きつけられない以上、婚約破棄を推し進める事は出来ないだろう。


「でも、明確な非かぁ……」


 言うは易いが行うは難し。なるべくマルグリットに罪悪感を持たせずに、婚約破棄に至れるほどの非を起こすには……。


「……いっそいじめのターゲットを変える、とか……」


 現状、それが一番手っ取り早い気はするけど、問題は相手だ。ローザレベルで突っかかりやすい生徒なんて、この学園にいたっけ……?


「……あ」


 と、そこまで考えた時に思い出した。いた。おあつらえ向きなのが、いた。


 ローザの大親友、フローラ・アルベンス。


 下級貴族の出の彼女は、この学園でローザに初めて出来た親友だ。控えめで大人しい彼女は、ローザの学園生活を陰ながら支えていく名脇役として読者に親しまれている。

 そんな彼女に手を出されれば、ローザの目も覚めるに違いない。婚約破棄の障害は、なくなるも同然!


(待っててね、マルグリット。僕が必ず、君を自由の身にしてあげるから……!)


 今はどうしているのか解らないマルグリットの意識に向けて、僕はそう固く誓った。

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