保護なのか拉致なのか
まりかを連れ、プレハブへ避難。さおだけ屋はいったん休止するしかあるまい。
しかしまりかはいったい何を考えているのだろうか。普通なら俺のとこを頼ろうとか考えたりしないだろ。俺はもう
が、怒るのにもパワーってもんがいる。今はそんな気分でないことは確かだ。
「……」
まりかはプレハブ小屋に入るや否や、まるですみ〇こぐらしのキャラのように膝を抱えて片隅に座り込んだ。一言もしゃべりやしない。
そうして肝心のマリアさんはというと、まりかのおなかがすいているだろうという推測のもと、食料の買い込みに出かけていたりする。
「なあ、まりか。おまえ、俺たちに寄生しようとしてたんか?」
「……うん、ここに帰省したかった。まりかの帰る場所は義徳のところしかないの」
「ニホンゴムズカシイデーーーース!」
俺たちの間での意思疎通もできないとは。異世界の関係者との交流ってこんなに難しかったっけ? 思わず叫んでしまった。
いかんいかん、プレハブ小屋だから防音が甘いし、奇声は規制しなければ。
このままではオチも見えずラチがあかないので、俺はマリアさんが帰ってくる前に話を少しでも進めることにした。
「おまえさ、お金なくて済むところ追い出されたとか言ってたけど、甘えた考えすぎねえか? その気になればそれこそ即日体験入店できるようなバイトがレバニラ見ればいくらでも転がってるし、多分おまえなら即採用されると思う。そんなふうな生きるための必死の努力すら怠って、金がないどうすればいいとかいかにも俺たちを頼るような言い方して近寄ってくるとか、寄生する気満々じゃねえか」
「……長くてまりかに理解できないから、三行にまとめて」
「金がないなら泡落ちしてたくましく生きていけ。以上」
一行で済んだな。経済的、地球にやさしい自然派な現状説明。ボタニカル未来示唆だ。
「それをしたくないから悩んでるんじゃない!?」
ほわっつ、これは意外な発言。性欲と愛を分けて考えられるまりかであれば、泡姫って天職じゃないか、と誰でも思う罠。でも仕事はそっち方面だけじゃないぞ。
「じゃあまっとうに働け。ここに寄生しようとすんな」
「働きたくない。もう何もかもがむなしいの」
「……」
怒りを通り越して呆れた。
働かざるもの食うべからずって言葉を知らんのか。働くのも勉強するのもそれが自分のためだからみんな必死になってんだぞ。
俺だってできることなら一日中ウマ娘の育成してたいわ。グラス〇ンダーの育成しながら前が詰まって惨敗するむなしさを感じたいわけじゃない、決して。
「……むなしいんですか?」
と思うやすぐ、マリアさんが紙袋を携えてプレハブ小屋に戻ってきた。
不意に声があがったので、反射的にマリアさんのほうを見てしまう。
「うん、URA決勝でふさがれて惨敗して、目覚まし時計が溶けていくのがつらい」
「……はい?」
「あ、ごめん。俺にじゃなかったのね……って」
ちょっと待って。なんでデスバーガーの紙袋持ってんの。
まさかよりによって激辛バーガーをチョイスしてくるとは、この俺の目をもってしても見抜けなかったわ。俺に海のリハクレベルでも先を見通せる目があればよかったんに。
「いくらなんでもここで激辛バーガーはないでしょマリアさん」
「自暴自棄になってリヤカーの前で倒れこむほどに、むなしかったんですか、まりか様?」
華麗にスルーされた。というかマリアさん、俺のほう見てねえし。
「……」
「死ぬのって、つらくて苦しいですよ?」
「……」
マリアさんが発した『死ぬ』という言葉に、まりかが一瞬だけ顔を上げた。が、すぐ下を向いて、ぼそぼそとしゃべり始める。
「……生きてたって、どうせ……独りぼっちだし……性欲が満たされても、心が満たされなければ……むなしいだけだし……」
あれま。なんだ、サキュバスの血を引いてるくせに賢者タイムにでも入ったんか?
というか、まりかって確かにこういうところあったな。やたらとサカりまくってることもあれば、やたらと落ち込んだりすることもあり。
ハイテンションとローテンションのギャップが激しくて、付き合ってるときはそれはそれで魅力的だと思うこともあったけど、付き合いきれなくなりそうなときもあったことは間違いない。
しかし、今の状況は、えくぼもあばたである。いわんや今のまりかや。
こんだけ落ち込んでようが何しようが追い出したいこと最上級なんだけど、かといっていったん保護すると言い出したのはマリアさんで、ないがしろにすることもできず。
困ってマリアさんを見てみたら、困ったように頬に手を当てていた。
「ああ……やっぱり……まりか様、
またわけのわからない単語が出てきたので、思わず聞き返す。
「厭世期?」
「あ、はい。サキュバスハーフ特有の現象ですね……サキュバスハーフって実は短命なんですが、一番の死因ってなんだかわかります、義徳様は?」
「……はぁ? そうなの? 遺伝子的にかみ合わなくって、急激に老化するとか?」
俺の深く考えないテキトーな意見に、マリアさんはただ首を横に振る。
「一番の死因はですね……自殺、なんです」
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