サキュバスハーフの謎

 ところで。


「マリアさん、ちょっと聞きたいんだけど。サキュバスハーフって、交尾しないと死んじゃう、みたいなことはないの?」


「え?」


 そこが知りたい。もしまりかがそうだったら。

 許せるかどうかはともかくとして、命のために仕方ないところはあるのだろうから、千歩ほど譲れば許せることもあるかもしれない。


 俺の質問を受け、しばらく考え込んでた聖女様だったが、答えはひとこと。


「死ぬかどうかはわかりません」


「あら、そう」


 ちょっとだけ残念だが、知らないのであれば仕方ない。マリアさんをウィキペドフィリア扱いしてた俺を許してください。


「というかさ、やっぱサキュバスには定期的な行為が必要になるっていうことなの?」


「いいえ、少なくともあちらの世界では、サキュバスがご無沙汰で死んだということを確認したことはありません」


「そうなん? こっちの世界ではご無沙汰で死ぬ人もいるんに」


「わたしが生きているという現実に喧嘩売ってます?」


「ごめん」


 でも、聖女というからには処女じゃないと認めたくない気もするので、それはそれで。


「まあ、吸精ってのはあくまでサキュバスなどの攻撃手段であって、必ずしも必要ではありませんでした。ですが、こちらの世界のように魔素が存在しない世界の場合。常に飢えている状態であることは間違いないので、人より性欲というものが強くなることは間違いないでしょうね」


「……」


 ふむ。

 つまりまりかは性欲が人より強いことは間違いないな。

 いちおう心当たりがないわけじゃない、というか明らかに、うん。


「……まりか」


「な、なに?」


 そこでいきなり俺がまりかのほうを向いてにらんだもんだから、まりかがひたすらおびえている。

 まあいい、やつも信也とアレコレすることが、こちらの世界では糾弾されるべきことであるとは理解しているんだろうから。


「おまえ、吸精できる男ならだれでもよかったんかーい!!!!」


「ちがうの! ちがうの!」


「違くないだろうが!! 俺じゃなくて信也とレッツエナジードレインしてればいいじゃねえか! なんで俺のほうにくるんだよ!!」


 今更ではあるが、まりかがなんかヘンな病気とかウイルスとか持ってるんじゃないか、という不安が秒速5センチメートルで押し寄せてきた。ああそういやあれもメリーバッドエンドだったな、俺の後悔待ったなし。


「ちがう! ちがう! まりかは義徳のことが一番好きなの!」


「サッポロだろうがラーメンだろうが一番とか自称するのは個人の勝手だがな、俺にそれが通用すると思うな」


「わたしは、塩ラーメン派ですね」


「マリアさん、待ってましたとばかりにそこで割り込んでこないで」


 俺はみそラーメン派なのでそこはスルーできなかった。

 空気を読まない聖女様にちょっと毒気を抜かれる。


「……まりかは、とんこつ……」


「うっせえよ! 今修羅場真っ最中だってわかってんのか!? とんこつどころかポンコツじゃねえかサキュバスのできそこないだよほんとによ!!」


「う、ううっ……」


 俺に怒鳴られ震えるまりかを見て何か思ったのか、マリアさんがそこで俺とまりかの間に身体を入れてきた。


「ポンコツラーメン……それはそれでどんな味なのか気になりますね」


「ラーメンの話から離れて!!」


「だって、おなかがすきましたもの。とにかく、このような話は、おなか一杯になってからにしませんか?」


「……」


「わたしが見る限りでは、まりか様は本当に悲しそうですよ。義徳様を裏切った罪はギロチンやレンチンに値しますが、まずはお昼ごはんにして、話だけでも聞いてあげたらいいんじゃないでしょうか」


「……」


 聖女様は俺の味方をしてくれるとばかり思ってた。

 が、マリアさんは悪くない。たしかにここで怒鳴っててもしょうがないといえばしょうがないもんな。


「でもさマリアさん。そんなこと言って、まりかの言い訳が到底認められなかったらどうすんの?」


「その時はその時です。このくらいの半魔、生殺与奪を握ることなんてわけないですし」


「ひっ」


「魔力の大半を失った今でも、浄化くらいならわけないですよぉ?」


「……あ、そう」


 一応納得しとこう。まりかがすっかりおびえきって、顔色がチアノーゼみたいな色だが。


 しかーし。

 振り上げたこぶしをおろすかどうか、話を聞いてからでも遅くはないけど、そのためにはもうひとりここに来てもらわなければならんやつがいる。


「……まりか。話を聞いてやる。だから信也を呼べ」


 というわけで、お昼だョ、全員集合。俺は交換条件よろしく、そうまりかに要求した。


 が。


「信也は……いま、入院してる」


「はぁ?」


 まりかがおずおずとそう言って、面食らった。

 ついこの前まで元気にまりかとハッスルハッスルしてたはずなのに、いつの間に入院してたんだ信也は。

 とはいっても、聖女もいてサキュバスハーフもいるこんな世の中なら、神がいたっておかしくねえわ。神罰くだったか?


「信也はこの前まで上も下も元気だったのに、なんで入院してんだよ?」


「あ、あの、極度の過労で……」


「……は?」


「お、お医者様が言うには、もう来世分の精力まで使い果たしたくらいの、いつ死んでもおかしくないレベルでの腎虚だったって……」


「な、なんだってー」


 俺の驚きもついに棒読みである。やっぱ吸精してんのかよ、このサキュバスハーフは。


 天罰覿面てんばつてきめん。もう来世に期待すらできないほどの精力吸われたとか、どんだけやったんだよ。吸精されて急逝しなくてよかったな。

 お見舞いじゃなくて、冷やかしに病院に行って確認したいくらいだ。ざまぁ。


 …………


 あれ?


 なんで俺、平気なの?

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