ま、カツ丼食えよ。だから詳しく事情を話せ。
さて、香奈子さんの肩コリも癒えたところで、サービスドリンクタイム突入。
「ここに、ウンコの力とヘバリーゼがあるんだが、どっちを飲む? マリアさん」
「あ……えっと、いいんですか? こんな高価なものを」
高価かなあ? 硬貨で買えるんだけど。
でも無一文で異世界からやってきたマリアさんならそう思うのかも。
「香奈子さんの肩コリまで直してくれたのに何を言いますか」
「そ、そうですか……ありがとうございます。じゃあヘバリーゼで」
「りょ」
ウンコの力もヘバリーゼも酒飲みには付属品みたいなもんだ。
ヘバリーゼは滋養強壮剤として売られているので体力回復にも役立ちそうだが、名前からして飲むと余計にヘバりそうな気がするのじゃ。
あとウンコだろうがウコンだろうが、どちらでも色は一緒。
ヘバリーゼの瓶を渡されるや否や、マリアさんはふたを一気に開け、腰に手を当てながらそれを一気飲みした。風呂上がりのフルーツ牛乳みたいな扱いである。
「はぁぁ……魔力が回復していくぅぅぅ……」
五臓六腑に染み渡るような声を上げるマリアさんだが、まさかのマナポーション扱い。肝臓の回復じゃなくて魔力の回復なのか。栄養ドリンクにそんな効果があるとは思わなかったわ。
ま、世の中には栄養ドリンクだけで生きてる方々も確かにいるけど。マスターアップ前のソフトウェア開発者とかな。
海の男の艦隊勤務どころでなくアレは地獄だ、月月火水木金金ケロンパ。シャボン玉くらい命が儚い職場で、腐乱死体があたりに散らばってたもん。ゾンビの素材収集が選り取り見取りう〇み宮土理。
バイトで行ったときは世界の終わりかと思ったわ。
「そんなんで回復するならユソケルとかいくらでもあるぞ。なんならキノーレオピンも飲むか?」
そして薬局経営だけに滋養強壮剤には事欠かない香奈子さんがそう割り込んできた。また肩こりを治してもらおうという魂胆が見え見えである。
これは決してギブアンドテイクではない。本当に聖女をいいように扱う皇帝そのものだけど……まあでも香奈子さんはこの家の
「……マラーピンピン? なんですかその飲み物?」
「空耳にもほどがある。いや確かにそういう効果もありそうだけどさあ」
聖女は性女も兼ねてた。空耳エロさレベルがいちご1234%(当社比)くらい。パンチラどころの話じゃねえ。
「おう、まあ腎虚にも効果はあるだろうな。だが
ボケに全力でツッコむスタイルは結構疲れるのでほどほどにしとくか、なんて思ったそばからまたもや聖女様の爆弾発言が飛び出しやがった。
「えっ? 女性にも勃つものがあるじゃないですか? B地区とか栗と──」
「黙れ性女!!」
思わず口をふさいだ。なんなん、この下ネタの嵐は。
ひょっとしてマリアさんがいた異世界って、下ネタの概念がない世界だったの?
―・―・―・―・―・―・―
「ところで、腹減った。食いもんある?」
残念ながら性の宴はやがて賢者タイムを迎える。
ゲロ吐いてシャワー浴びて少しだけ身体の調子が戻った俺は、香奈子さんにそう訴えた。
「なんだ義徳、食欲が戻ってきたのか? 晩飯の残りでいいなら、ヒレカツくらいあるぞ」
「ふーん、リッチじゃん。ならカツ丼でも作ろうかな」
そう呟いたら。
「!! カツ丼!! ですか!!」
思わぬところから食いつかれた。聖女様が飢えた野獣になっておるよ。
いやあんた、さっきまで具合悪そうにゲーゲー吐いてたじゃん。
「マリアさんさ、そんな状態でカツ丼食って、また戻したりしないの?」
「大丈夫です! 魔力が戻ったので、身体も楽になりました!」
「そういうもんなのか……」
ゲームとか異世界ラノベとかあまり読まないからようわからんけど納得しとこう。処世術だいじ。
まあおまけに、カツ丼と聞き、顔の前で両手を組みながら目をキラキラさせるマリアさんが愛くるしいと同時に、少々気の毒に思えてきたってのもあるし。
「じゃ、せっかくだしマリアさんもカツ丼食う?」
「いただきます!!」
おおう、まさに1フレームも隙間のないリバーサル返事ですね。わかってたけど。
コクコクとうなずくマリアさんがかわいいので、ちょっとだけ台所で作業しましょ。
………………
…………
……
「どぞ。味の保証はしないけど」
久しぶりにカツ丼なるものを作った。
香奈子さんはさっき食べたばかりなので、二人分だけ。
マリアさんの前にどんぶりを置くと同時に、背景に花が咲いたのは気のせいだろうか。
「わああああ……湯気が、湯気が勃ってます……」
「落ち着いて。聖女じゃなく性女モードのままになってるから」
感字間違いってやつだな。それを察せるのが小説のいいところだ。
しかし、カツ丼から湯気が立ってるのに感動するってことは、普段あったかい食事をしていないんかいな?
「つかぬことを聞くけどさ。マリアさん、普段どんな食生活してんの?」
「え? ええとですね、朝は百円で売っている五個入りのバターロールを……」
「意外とまともだった」
「一個だけ」
「前言撤回。ちょっと待った、じゃあ残りの四個のバターロールはどうすんの?」
「もちろん食べますよ。昼は二個、そして夜にも二個。これで一日百円生活の出来上がりです!」
「……」
それを聞いて不覚にも涙がちょちょ切れた。泣き上戸なのかな俺。
まりかを
「……足りなかったら俺の分も分けてあげるから、好きなだけカツ丼食って」
「ありがとうございます! いただきます!」
俺が思わず自分の空腹ぶりを忘れてそう言うと、この世の春ともいわんばかりの満面の笑みで、マリアさんはカツ丼にかぶりついた。
こんなほほえましい光景が哀愁を誘うという矛盾。
「……あ、でも」
半分ほど一気食いしてから、とつぜんマリアさんがピタッと止まる。
「カツ丼をいただいたからには、わたし、なにか吐かないととならないんでしょうか……?」
「ゲロならさんざんさっき吐いただろ」
「そっちじゃなくて、秘密のほうです」
「……」
異文化のことをなんでそんなに知ってるのか聞きたいもんだわ。まず思ったのはそれだった。
そしてゲロの話をしてもマリアさんの食欲に影響はないということは理解したけど、そっちはわりとどうでもいいこと。
「……じゃあ、のどごし嬢。異世界転移に関することを聞きたいのだが。悪いが、なにせこんな事件が現実にあると知ったのが初めてでな、もしそれが真実ならばいろいろ聞いてみたいことがある」
俺がくだらない思考を巡らせているうちに、香奈子さんに先に追及された。
けどそれはそれでナイス質問。
「あ、はい、そんなことでいいならいくらでもお話しますけど……でも、大学内に結構異世界からやってきた人、いますよ?」
「な、なんだってー!!!?」
カツ丼とともに始まった尋問は、のっけから恐怖の大王が異世界転移してきそうな爆弾発言だった。
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