第20話:魔王の仕上げ

【魔王 百二十五日目】


「魔王様……五つ目の《復活の根》も破壊され……残すはこの屋敷の裏手にあるものだけになります……」


 歴代の魔王様の日記を見ていたら、シュラウちゃんが重苦しい空気と共にそんなことを報告しにきてくれていた。


 僕がこの世界にきてまだ半年も経ってないのにこれとは、魔王の名前に泥を塗った愚か者の名前として末代まで残りそうだ。

 いや、このままじゃ僕が末代になっちゃうんだけどね?


「魔王様が一生懸命にしていただいた人間の街への工作もそこまで効果が無く、勇者はドンドンとこちらに迫ってきております」


 僕的には大成功なんだけど、他の人からしたらダメに見えるか。

 まぁ勇者を倒すどころか、動きをほとんど止められてないからそう見られてもおかしくないか。

 ちなみに、シュラウちゃん以外の仲間達はどうなってるのだろうか?


「他の者達も暗く沈んでおり、自ら命を絶とうとする者も……」


 あ、それはいけないな。

 ちょっと僕が出て行って《権能》を使って自殺防止を命令しておくことにしよう。


「ですが……その……このまま勇者に滅ぼされるか、人間に辱かしめを受けるくらいならば、せめてその命を自分の手で終わらせたいと思うのも仕方がないのでは……」


 まぁ僕も生きたくない仲間に死んでも生きろなんて言いたくないんだけど、せめて最後を見届けてからでもいいと思うんだ。

 どの道、僕が死んだら《権能》の効果も消えるんだし、それまではなんとか生きててほしい。


 まぁ洗脳なりなんなりして頭をハッピーにしてしまえば楽なのかもしれないけど、そういうのって必要な時以外はやりたくないんだよね。

 ちなみに、シュラウちゃんも自殺したい派だったりする?


「いえ、私は魔王様にお仕えする身。最後の時までお供させていただきます」


 とか言いながら身体をちょっと震わせてるのを見ると、ちょっと罪悪感。

 まぁもっと伝説的な魔王様が来てればこんなことになってなかっただろうし、気が咎めるよ本当に。


「ですが……魔王様は我らのために最後まで抗ってくださいました。それだけで、私には勿体無いほど幸せなのです。我々のために命を掛けてくださった魔王様と共に過ごしたこの数ヶ月の月日は、歴代の魔王様にも負けないほど立派なものでございます」


 あぁ、そういえば歴代の魔王様で思い出した。

 実は《復活の根》が無くても地下に眠ってる魔神様って目覚めるみたいだよ。

 ただ、そのためには地上で多くの血を流させてそれを捧げないといけないみたいなんだよね。


「なるほど……それでは、《魔の草原》で散っていった者達の死も無駄ではなかったのですね」


 そうだね。僕が無駄なく命と戦力を使えるようにしていたから、さらにお得だったね。


「そういえば、魔王様はあの草原で何をされていたのですか?」


 それについてはシュラウちゃんが大人になったら話すことにしよう。今はまだ秘密ってことでね。


「そうですか……ですが、勇者が来るのも時間の問題。大人に……いえ、母になれずに生涯を終えることになるのは悔しいものですね……ウゥッ……」


 僕の前だからだろうか……気丈に振舞っていたようだが、彼女の未練があふれ出してしまったせいで、また彼女を泣かせてしまった。


 僕が勇者なら僕の力で守ってみせるとカッコつけられるんだけど、キミの隣にいるやつは兵士どころか子供と喧嘩しても負けるほどのクソザコなんだ。

 本当にごめんね?


 だけど、そんなクソザコだからこそ徹底的に戦うことをせずに嫌がらせばかりをできていたわけで……もしかしたら、もしかするかもしれない。


「あの、魔王様……? それは、勇者に勝てるかもということでしょうか?」


 いいや……勇者には勝てないし、この生存戦争もここから逆転する方法はない。

 僕はあまりにも無力であるし、僕一人の力じゃ世界は変えられない。

 世界を変えるのは個人じゃない……人の流れが世界を変えていくんだ。


 それじゃあ、最後の準備をしよう。

 最後の最後……人類が、今まで蓋をしていたものに直面できるのか、その試練を課すとしよう。

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