第5話:魔王、始動
【魔王五日目】
今日はシュラウに頼んで、ある種族を呼んでもらっていた。
それがブランチマンとボーンイーターと呼ばれる種族である。
ブランチマンは木の枝のような骨と皮が特徴的な種族なのだが、植物に詳しいので毒やら薬やらを作ることに長けているようだ。
「もしや、人間の街に毒をばら撒くつもりですか?」
もしかして、そういうのってダメな感じ?
「そういうわけではないのですが……人間の魔法で治療されると思います」
凄いな魔法……即死させるような毒でもダメだろうか?
「強力な毒はそれだけで目立つ色や臭いがするため、すぐに看破されて《浄化》されてしまうかと」
え、もしかしてその《浄化》ってのをされると毒が消えるの?
「はい、魔王様の世界にはそのようなものはありませんでしたか?」
浄水施設とかはあるけど、そういう魔法的なものはなかったかなぁ。
でも、それならそれでやりようはあるから問題ないかな。
というわけで、ブランチマンの一族に作ってもらいたいものは二つほどあるんだけど、大丈夫かな?
「AL……HAMB……TUBA…………」
ねぇ、シュラウ。僕の言葉通じてるのこれ?
「その、彼らは独特でして……意思の疎通は魔王様のお力で出来ているはずです」
あっ、本当だ。
断片的ではあるけど、言いたい単語がなんとなく頭に入ってくる。
けどこれ片言だからすっごい分かりにくい!
もっといい方法はないの?
「それでは、筆談はいかがでしょうか? 魔王様ならば、伝えたい意思をイメージして紙に文字を書けば、その意思が闇の種族に伝わるようになっております」
それは便利な能力だ、もっと早く知りたかった。
けど、せっかく話してるのに筆談で済ませようとするのって失礼にならない?
「相手に応じてコミュニケーション方法を変えるのは、普通のことかと」
現代だったらマナー違反だとかで怒られそうだけど、多様性のある闇の種族なら一つの法則に従うことがそもそも非効率って考え方なのかな。
まぁそれならお言葉に甘えて紙に書いて渡すことにしよう。
それじゃあ次に真っ黒なローブを纏っているボーンイーターの種族か。
「魔王様、彼らの黒衣を剥がさぬようにご注意ください」
もしかして、光に当たると灰になるとかそういう体質なの?
だとしたらここに呼んだのは悪かったなぁ。
「いえ、そういうわけではありませんが……その…………見た目に嫌悪感を覚える者も多いので」
そう言われると逆に気になるのが人の性質でして……ちょっとだけ見るのってダメかな?
「魔王様が見たいのであれば構いませんが、あまり見ていて気持ちのいいものではありませんよ」
それじゃあちょっとだけ失礼してちょっとだけローブを外してもらうことにしよう。
ローブの下には何かの粘液のようなものが張り付いており、体からぐちゅぐちゅと音がしている。
弾力がありそうな皮膚であり、顔の位置には触手のようなものが二本生えているのが見えた。
…………これ、ナメクジ?
「うっ……魔王様は平気なのですか?」
まぁ頬ずりしたいとは思えないけど、そこまでひどいものかな?
だっておっきなナメクジみたいなものじゃん。
……いや、でも女の子にナメクジは確かにキツイものがあるか。
「ナメクジ……というものが分かりませんが、魔王様の世界にはこのような造詣をした者が当たり前のようにいたのですね」
まぁ街中じゃ見ないけど、雨の日とかにちょっと町外れにいけば簡単に見つかるかなぁ。
物怖じしない僕に興味がわいたのか、彼はこちらに向けて触手のような触角をこちらに伸ばしてきた。
握手か何かだと思ってこちらも手を伸ばし、お互いが触れると触手が一気に縮んで引っ込んだのを見て、カタツムリの触覚を触った時とおんなじ反応だと思った。
「魔王 ニ 忠誠 ヲ 捧グ」
ローブを被り直した彼からは、片言ではあるが意思ある言葉が聞こえてきた。
認めてもらったという認識でいいのだろうか?
「凄いですね、魔王様……気難しい彼らに認められるとは」
僕、手を出しただけで何もしてないんだけど……こんなことで褒められるとか、もしかして凄い低レベルだと思われてる?
悔しい、でもそれを否定できるほどの力を持ってないんだよね。
「そ、そんなことはありません! 彼らは本当に気難しい種族でして、互いに協調しようとすることはできますが、敬意を抱かれるというのは本当に凄いことなのですよ!」
でも、僕は手を出しただけだよ?
なんならシュラウもやればできるよ。
「我 ガ 杖 意識 ヲ 察知。魔王 我等 劣悪 感ジズ」
杖……もしかして、あの触覚で相手の感情が読めるということかな?
それで、僕が彼に対して悪感情を持ってないから認められたということだろうか。
「是 也」
そういうことらしい。
まぁキスしてくれと言われたら嫌だけど、あれくらいなら見慣れてるし。
そういう人もいるよねって感じだったからね。
「渇望 ヲ 魔王」
そういえば聞きたいことがあるんだった。
シュラウから聞いたけど、キミ達はゾンビや亡霊を生み出すことができるってことは本当かな?
「是 也」
つまり、死体があればいくらでも人間のゾンビを作ることができるってことか。
「条件 《浄化》 不可」
《浄化》不可? どういう条件だろうか?
「実は一昔前に人間の死体や亡霊を利用して戦争に勝とうとしていたことがありました。ですが、人間はその対策として死体に魔法を使うようになったのです」
それが《浄化》ということか……こっちが考えそうな手は大体対策をとってるんだなぁ。
ちなみに死体がバラバラだった場合、パーツごとに動いたりするのだろうか。
「不可 亡霊 到ル」
ゾンビにするにはある程度体が残ってないといけなくて、そうじゃないと亡霊になるのか。
ちなみに、亡霊のほうが強かったりしないだろうか。
「僭越ながら、亡霊となったものはあまり戦いには向いておりません。人々を呪い、体調を悪化させたりすることはできますが、直接的に命を奪うことはできません」
それは残念。
うまく《浄化》されていない死体が人間の街にあれば一気に制圧したりできるかと思ったんだけどね。
「そもそも、人間の街には神官……《浄化》や《治癒》の魔法を使う者が常駐しているため、あまり効果はないかと」
人間側はマンパワーが有り余っているようで羨ましいよ。
こっちはありものでなんとかしないといけないってのに、ドンドン押し込まれている状況だから力も策もないからね。
けど、基本的な方針はこれで決まったかな。
もしかしたら、もしかすると、一泡吹かせられるかもしれないよ。
「本当ですか! どのような方法でしょうか?」
そこら辺はここにいる二人次第だけど……闇の種族のために頑張ってもらえるかな?
「我等 命運 魔王 信託」
ボーンイーターの種族からの返答はOKのようだ。
それで、ブランチマンはどうだろうか?
「…………」
何も言わずに彼がかざした紙には、僕が求める答えが書いてあった。
これでようやく僕も魔王らしいことができるというものだ。
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