第2話:闇の種族とは
【魔王二日目】
さて、昨日は大きなことを言ってしまったせいであんまり眠れなかった。
僕が持つ力は闇の種族を服従させる《権能》と地図の場所に分身を生み出す《遍在》の二つだ。
なんとかこの二つを使って、もしくは使わずに人類に史上最悪の嫌がらせを行わなければならない。
「あの、魔王様……本当に戦われるおつもりですか?」
それを含めてちょっと聞きたいことがあるんだけど、あっちの勇者の祝福がどういうものか分かるかな?
「はい、街に潜らせているドッペルゲンガーから情報を受け取っております」
ドッペルゲンガーってのがいるのか、話を聞く限り人間に化けて諜報活動できるってことかな。
「はい。ドッペルゲンガーは化けた人間の見た目だけではなく、一部の記憶や強さも模倣します」
ふと思ったんだけど、ドッペルゲンガーが全員で勇者になれば楽勝で勝てるんじゃ。
「勇者は……あれは規格外なので不可能です。それにドッペルゲンガーは珍しい種族なので個体数も少なく、強さも完璧に模倣されるわけではないので、そこまで強くはなれないのです」
残念、まぁそんな簡単に戦力を増強できたならここまで追い込まれてないか。
「勇者の祝福についてなのですが、《打開》と言われるものだそうです」
打開? どういう能力だろうか?
「我ら闇の種族でも最高の硬さを誇る皮膚を持つエレファン……最初こそ勇者を圧倒しておりましたが、《打開》の力でその皮膚を切り裂く力を手に入れた勇者によって敗れました」
うんうん……うん? ごめん、ちょっとその祝福よく分からない。
「他にも空を飛ぶ者を打ち落とす武器を手に入れたという報告もあり、恐らくピンチの時にそれを解決する力や道具が手に入るのかと」
それはちょっと卑怯すぎやしないですかね?
こっちがどれだけ追い詰めてもその《打開》で何かを授かって逆転されるじゃん。
「はい……その通りです……」
よし、勇者には極力近づかないようにしよう。下手に手を出したらまたパワーアップしそうだし。
そういえば、闇の種族の戦力ってどれだけあるのだろうか?
号令をかけたら百万の軍勢が出てくるとかだと、かなり楽になるんだけど。
「闇の種族の総数だけならばおおよそ二万ほど。その中で我らのような知能を持つものは五千ほどでしょうか」
つまり、一万と五千は動物程度の知能しかないのね。ちなみに人間はどれくらいかな?
「一つの王国と複数の都市、そして無数の村……おおよそ、戦える者だけでも六万は確実かと」
ハハッ、こっちの総数よりも多いとか繁殖力凄いね人類。
この戦力差でなんでまだ闇の種族が負けてないのか不思議なくらいだよ。
「人類は少しずつこちらの領土を切り取り、そして征服しながら進んでくるのです。その慎重さ故に、我らは徐々に押し込まれる形となってしまい……」
慢心してくれよ人類……手柄がほしくて独断専行するとか、他の人の足を引っ張るとか、そういうのが人間だろう?
なんか聞けば聞くほど絶望的になっていくんだけど、シュラウはよくこんな状況で戦おうと思えるね。
「いえ、魔王様ほどでは……。あの、魔王様は人間が嫌いだったりされるのでしょうか?」
え? 別に嫌いじゃないよ。
自分だって人間だし、どうしようもない生き物なんだなぁとは思ってるけど。
「ならば、何故ここまで我らのために戦おうとしてくださるのですか? 人間が憎いからではないのですか?」
いや、別にこの世界の人たちには恨みはないよ。だから本当はこんなことする理由は全然ないんだ。
「ならば―――」
だけど、彼らは僕やキミよりも幸福だ。
だから僕はそんな幸福な人達が少しでも僕らのように不幸になればいいのになぁと思って何とかしようとしてるだけだよ。
「それだけの理由で、魔王様は人類の敵に……?」
あぁ、あとそれだ。その魔王っていうのも理由だ。
僕が最初に《遍在》を使った時、僕は人に殺された。
僕が魔王じゃなく、一個人であれば殺した人にコンチクショーって思いながら復讐でもしたことだろう。
だけど、それで終わりだ。
人類全員に敵対するなんてことはしない。
けれども、あの時の僕は魔王で、人はその魔王に牙をむいた。
僕はそれを宣戦布告として受け取った、人類に敵対するには充分な理由だと思うよ。
僕が殺されたんだ、他の人も[平等]に殺されてしまえばいい。
まぁ、絶賛絶滅寸前の危機的状況なのは変わらないんだけどね!
「よく分かりませんが……魔王様が戦われるというのなら、我々はそれに従います」
ありがとね、シュラウ。
ところでそろそろご飯食べないと餓死しちゃうんだけど、なにかご飯ないかな。
「それでは用意してきますので、少々お待ちください」
そう言って部屋から出て行ったシュラウは、しばらくしてから料理を持ってきた。
最初は闇の種族というのだから、やばいゲテモノ料理でも出てくるかもと焦っていたのだが、普通にパンやら野菜が出てきた。
まぁあまり美味しくはなかったが、それでも食べられないほどではなかった。
それにしても、闇の種族もパンを食べるとは意外だった。
なんか人の生き血をすするようなのを想像していたんだけど。
「もちろん、そのような種族も存在しております。ですが、そうでない者の方が多いんですよ」
じゃあ普通にパンだったり肉だったりも食べてたりするのか。
もっとこう……人を食べないと生きていけないから対立してるもんだと思ったけど、そうじゃないとなると何で人間と戦争することになったのだろうか。
「それは、我々が人間と違うからです」
人間と違う?
どういうことだろうか。
「そのままの意味です。彼らと姿も生活方法も違うが故に、我らは争うことになったのです」
まぁ僕の世界でも肌の色が違うとかで何百年も争ってたりするから、それも当たり前か。
というか、闇に種族がいなくなってもどうせ差別は発生するから意味ないだろうに。
「初代魔王様は、そんな闇の種族を引き連れて大陸を横断し、我らの国を作ってくださいました」
初代魔王様、凄くいい人じゃん!
「ですが、人も大陸を開拓していき……互いの領地が隣接してぶつかり合い、戦争となりました」
あぁ、うん……そうなるよね。土地は有限だもんね、仕方ないよね。
「最初は人間よりも強くて逞しかった我らのほうが圧倒しておりました。しかし、人間は神の御業を模倣し、それで他の世界から勇者を……祝福が与えられた者を呼び出し始めたのです」
なるほど、それが余りにも強力だったからこっちも同じ方法で対抗しようとしたということか。
「初代の魔王様は最後までその手段を取ろうとしませんでした。ですが自らの後継者が居らず、自分が死んだ後に種族が団結できずにバラバラになることを恐れて、後継者として魔王を呼び出すようになったのです」
それが魔王と勇者が召喚される理由なのね。
けど、別の世界から引っ張ってくるのってどうかと思うんだ。
「それについては大変申し訳なく思っておりますが……魔王として召喚される方にはそれに相応しい資質と別の世界に来ることを望まれている方が選ばれております」
うん、それについては僕も同意する。
別の世界で冒険とかしてみたいとか思うお年頃だもの。
だけどね、こんな末期戦の後始末をさせられる場所だとは思わなかったよ。
「も……申し訳ありません……」
あぁ、ごめん。別にイヤミじゃなくて開き直りだから気にしないで。
そういえば、魔王を召喚しまくるってことはできないんだろうか?
「召喚の儀式は太陽が黒く染まる日……皆既日食の時でなければいけませんので」
そうなると、僕が召喚された時に勇者も召喚された感じなのだろうか?
「いえ、あちらは皆既月食……月が食われる時でなければいけませんので、若干のズレが生じているのです」
皆既日食と皆既月食か……もしかして、闇の種族がここまで負けてるのって……。
「はい……こちらの世界では皆既月食の方が多くあるため、勇者が誕生する回数はあちらの方が多いです」
不公平すぎて泣けてくるね。
まぁ嘆いてもどうしようもないし、それじゃあ《遍在》を使って色々と調べてみるとしよう。
「情報が必要でしたら、ドッペルゲンガー達に調べさせますが」
こういうのって自分の目で見た方が色々なことに気付いたりできるから、そのドッペルゲンガー達は普通に情報を集めてくれているだけでいいよ。
あぁ、でも僕が街に入った時にちょっと手引きしてくれると助かるかな?
「かしこまりました。それでは魔法で彼らに共有しておきましょう」
魔法もあるのかこの世界。
あとでそういうのも勉強しないといけないな。
まぁそれはそれとして《遍在》を使って小旅行でも楽しむとしよう。
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