史上最弱の魔王として召喚された高校生は人類種のガンとなる
@gulu
第1話:最弱最悪の魔王召喚
光あるところに闇があるといった言葉がある通り、勇者が存在するならば魔王が存在するのがお約束というものだ。
そして自分達では解決できない問題を他の人に任せるというのもよく分かる、出来ない人がどれだけ時間をかけたところで、出来ないものはできないのだ。
だが、この件については担当違いとしか言いようが無い。
「お願いします、魔王様。どうか我ら闇の種族をお救いください」
屋敷の広間のような場所で、ローブを被った人……声の高さからして僕より少し年下の女の子だろうか?
ローブの人が祈るかのような姿で僕に懇願している。
無理だよ、僕を誰だと思ってるんだよ……宇宙船地球号の現代高校生よ?
下手すれば子犬と喧嘩しても負けるよ。
どうやって断ろうかと考えていたけれど、あちらが勝手に状況を説明してきた。
彼女はシュラウ、衣服か何かに包まれていなければ存在を保てない種族らしい。
他にも色々な種族がいるが、シュラウのような者は闇の種族と呼ばれているのだとか。
闇の種族が何かというと、昔はこの世界に色々な神様達がいて、大昔に戦争していたけど相打ちになったらしい。
その時の戦争で色々な種族が生み出され、人間とは違った姿をしている者を闇の種族と呼ぶらしいのだが、数百年前から人間と戦争しているようだ。
よくも何百年も戦争してられるなぁと思ったが、日本も小さい島国なのに戦国時代を百年くらいやってたんだし、そこまでおかしなことでもないのかもしれない。
というか四十分で終わった戦争に比べれば全然マトモだ、王道すぎて何か落とし穴がないか心配になってくるくらいだ。
ちなみに、そんなにダラダラした戦争なのにどうして僕なんかをこの世界に引っ張り込んだのだろうか聞いてみる。
「人間側が祝福されし者……勇者を呼び出し、そのせいで我ら闇の種族は追い込まれているのです」
あぁ、創作でよくある特殊な力を持った人が援軍に来てしまったと……それは大変だ、すぐに和平交渉に取り掛からないと。
「そんなものありません! このままでは、我らは滅ぼされてしまいます!」
じゃあそこまでの運命だったってことだよ、諦めよう。
ウチの世界でもそうやっていくつもの人種が淘汰されていったんだし、ここもそうだったってだけだよ。
「そんな言葉で諦めきれるわけがありません! どうか、どうか魔王様のお力で我らをお守りください!」
いや、お守りくださいと言われてもどうすればいいのかさっぱりな状態でして……そもそも、なんでクソザコナメクジな僕なんかを呼び出したのかが分からない。
あっちが祝福された人を呼び出したのなら、こっちもそういうのを呼び出せばよかったんじゃないだろうか。
「もちろん、魔王様にも祝福がされております。その使い方もすでに分かっておられるはず」
そう言われると何か使えるような気がする、自分の知らない力がいつの間にか使えるようになっているというのは漫画でもよく見る展開だが、実際にそういう場面に直面するとなんか怖いと思うのは僕が小心者だからだろうか。
「魔王として召喚された方は我ら闇の種族を服従させる力と、もう一つ何か別の力が与えられるはずです。魔王様はどのようなお力を手に入れられましたか?」
えーっと、とりあえず地図はないかな? できれば大陸地図みたいのがあればいいんだけど。
「もちろんございます。こちらをどうぞ」
手渡された地図を広げると、山脈や川なども精密に記載されている精巧な地図であった。
地図の適当な場所に指を置いて念じると、僕の意識は全く別の場所へと飛ばされた。
辺りを見渡すと自然豊かな森の中であり、遠くには城のようなものが見えた。
自分の体を確かめると、五体満足ではあるものの、どうにも感触が違っていた。
というよりも、嗅覚や触覚が鈍いせいで何か着ぐるみに入っているような感じなのだ。
とりあえずは遠目に見える城壁を目指して走ってみたのだが、普通に息苦しくなってきた。
祝福による能力だというのに、身体能力は元のクソザコのままであるらしい。
それでも近づくにつれて色々なものが見え、作業をしている人の姿なども確認できた。
情報などを聞くためにもその人に近づこうとしたのだが、お腹に違和感を感じて視線を下ろしてみると、矢じりが腹から飛び出ていた。
「お、おい! なんで弓を射ったんだ!」
「そいつは何も持たずに黒煙の森からだけで出てきたんだぞ! こんな怪しい奴、射つに決まってるだろ!」
徐々に体から力が抜けていくのを感じながら、人の会話を聞き取る。
「武器を持たずに出てくるなんて異常だ!」
それだけの理由で矢を射られたのか、それだけの理由で人を殺せるというのか。
そんなことを思いながらもこれから死ぬのかと思ったのだが、不思議と恐怖は全く感じなかった。
血が出ておらず、痛みも無いせいで、まるで自分のことのように思えないのだ。
体に力が入らなくなり、意識も遠く暗い場所へと落ちていく。
目が覚めると、自分は先ほどまでいた部屋に戻っていた。
使ってみてよく実感できたが、あれが自分の祝福と呼ばれるもののようだ。
自分の意識を地図の場所に分身のようなものを作り出して、それを操作できるというものらしい。
身体能力は今の自分と同じで、死ぬと分身は消滅して意識が戻される。
分身はいま着ている服と汚れたマント、そしてフードを身に付けているのだが、服の中に入っている小物までは再現されていなかった。
なんというか、あまりにもしょぼい祝福のようにしか思えない。
「いえ、地図に指定した場所に現れられるというのであれば、暗殺などが出来るのでは!」
そうは言っても人が近くにいる場所には送れないし、身体能力がモヤシだから力ずくってのも無理だよ。
しかも武器も何もない状態だから自爆テロすらできないし、顔も変えられないから最終的には顔を見た瞬間に殺されるだけになる。
あと、これ一日に一回しか使えない感じだから何度も挑戦するってのも無理だね。
ちなみに、他の魔王様の祝福ってどういうのがあったんだろうか。
「えっと、その地図を作られた魔王様は全てを見通す千里眼をお持ちでした。そのおかげで、人間との戦争において勇者がいない場所を執拗に狙って攻めておりました」
凄いじゃんかその人! ちなみに、いまその人が居ないのは何故だろうか。
「いくら勇者のいない戦場で勝ったとしても、勇者が真っ直ぐ魔王様の場所まで来たら意味ないですから……」
ちょっと勇者強すぎない? どうやって勝てばいいのさ。
「実は十三代目の魔王様が、そのお力で《復活の根》と呼ばれるものを六本お作りになりました」
そう言うとシュラウは僕を屋上に案内してくれた。
どうやらかなり大きな屋敷の中にいたらしく、遠くまで見渡すことができた。
彼女が指差した方向を見ると、天を衝く大きな枝のようなものが生えているのが見えた。
それはまるで、空に根ざした大きな大樹の根のように見えた。
「《復活の根》は天空にあるマナ……自然の力を吸収して地底で眠られている魔神様を目覚めさせるために作られたものです」
魔神様というと、大昔に死んだとかいう神様か。
その魔神様が目覚めれば、闇の種族の勝利という認識でいいのだろうか?
「はい、ですが復活には膨大な時間が必要でして……おおよそあと三百年ほどの猶予が必要です」
ダメじゃん、今まさに死にそうって時なのにそれじゃ手遅れだよ。
「ですが、我らに残された希望はもう魔神様に託すことしか……」
じゃあ時間稼ぎとして和平交渉を……。
「いいえ、不可能です。彼らとの話し合いは、とうの昔に失敗しております。我らは滅ぼすか滅ぼされるかでしか戦争を終わらせることができません。」
そうなったら消耗戦を仕掛けるしかないのではなかろうか。今の勢力図ってどんな感じか聞いてもいい?
「先ほどの地図にて、青いインクで書かれた場所は我ら闇の種族の領地でした」
おぉ、大陸の三分の一を握ってるとか凄いじゃん! これなら国力の差でなんとかなるんじゃない?
「それは、あくまで地図を書かれた魔王様の時代の話です。今はもう、元の半分ほどしか……」
人類やばいな、正確には勇者か……勇者やばいわ。
種族として追い込まれ、時間を稼ぐこともできず、頼りにするはずの魔神様は今もお昼寝の最中。
和平の望みも無く、種の滅亡は目前まで迫っている……最後の賭けである魔王も、勝利に貢献できそうにない能力で、中身も戦争を経験したこともない現代日本のクソザコナメクジを引き当てる始末。
いや、本当にもう同情しかできないよ。今なら世界で一番不幸だって叫んでも許されるくらいだ。
「無理……ですか…………魔王様のお力を以ってしても……」
魔王様って言われたところで、僕は本当に不幸しか自慢できないもやしっ子だ。
肝心の祝福で手に入れた能力だって、肝心の僕が弱いせいで何の役にも立たない。
僕は頭がいいわけではないが、この戦争には絶対に勝てない……それだけは分かる。
「そうですか……」
あぁ、シュラウが項垂れてる……悲しんでいるのかもしれないけど、布に包まれていないと存在を保てない彼女の顔は見ることができない。
「無理なことをお願いして、申し訳ありませんでした。魔王様は人間と同じお姿です、どうか近くの街までお逃げください。そうすれば、なんとか戦争には巻き込まれずにすみます」
あれ、逃げてもいいの? そしたらキミ達はどうするの? 黙って滅ぼされるわけ?
「そんなわけありませんよ。我ら闇の種族、最後の最後まで戦い抜いてみせます!」
シュラウは僕よりも小さいのにしっかりしてるなぁ、ほんと芯が強いよね。
「ただ……」
ただ……どうしたの?
「できることなら、私も子供を産んで……お母さんみたくなりたかった……ッ!」
最後の最後まで意地を張っていたかったんだろう。
だけど、最後の頼みの綱も髪の毛よりも細くて千切れそうなものだったせいで、堰が切れたように彼女は涙をこぼしていた。
顔は見えないが、地面に落ちているその涙の数が彼女の悲しみの深さを表していた。
そういえばシュラウちゃんや、実は僕とっても悲惨な人生を歩んでるんだ。
原稿用紙で書いたら十枚は軽く書けるくらいにね。
「ど……どうしたのですか、急に……?」
まぁ聞きなって。
昔、母さんが悪いことをしたって報道……まぁ世界中に言いふらされたんだ。
そのせいで僕と父さんは執拗に世間様から叩かれまくってさ、それでも父さんは母さんを庇ってた。
そんで母さんは刑務所……牢屋の中で心を病んで自殺したんだ、真犯人が捕まる数日前にね。
ほんと、あと数日捕まるのが早ければ、僕はこんなことになってなかったのにさ。
その後どうなったと思う?
周囲の人達は態度を一転させて優しい顔してこっちに近づいて来るんだ、もう凄く怖かったよ。
あれだけ人様を叩いていたくせに、どうしてそんな顔してこっちに近づけるのかって。
おかげで僕と父さんの心はボロボロだよ。
それでも僕と父さんは頑張って立ち直ったんだけど、そしたらどうなったと思う?
『周囲の人の優しさによって立ち直った悲劇の子供!』って報道されてさ。
絶望したよ。
言葉の暴力を浴びせた側が何も悪びれず、あたかも自分達のおかげで子供が立ち直ったって主張して、世間がそれを受け入れていることにね。
そんな人生の悲惨さを一身に浴びた僕の大好きな言葉が[平等]って言葉でね。
僕が悲惨な目にあっていたとしても、他の人も[平等]に同じ目にあっていたなら、僕は納得できた。
だけど、世の中はそんなことおかまいなしに、僕らみたいな弱い人達ばかり叩いてくる。
だから僕はよくニュースをよく見る習慣が身についた。
僕よりも可哀想な人がいる、僕はまだまだ全然恵まれているんだって自分で自分を慰めていたんだ。
そして、この世界で一番可哀想なのは恐らくキミ達なんだろう。
つまり、僕は生まれて初めて僕よりも不幸な人を目の当たりにしている。
ニュースのような遠くの出来事ではなく、吐息すら感じられるくらい近くに不幸な人がいるのだ。
「あの……魔王様……?」
まぁ、つまり……僕の心の平静を保つためにも、僕は僕よりも可哀想な人の味方になりたいんだよ。
だけど、僕の力じゃ勝つなんてことはできない……だから意地悪く生きていくことにしよう。
どうせ滅ぶっていうのなら、生き恥晒して足掻いてみっともなく悪あがきをしてやろう。
そしてキミや僕よりも幸福な人類に対して僕らと同じ気持ちを少しでも理解してもらおう。
ほら、学校でも人の気持ちを分かる大人になりましょうねって言われたからね。
人類みんなに、僕らが味わう絶望の一割でもいいから[平等]に味わってもらおう。
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