場違いな歯車はカラカラ廻る

碇屋ペンネ

プロローグ

 空が近い。

 手を伸ばせば届いてしまいそうな、そんな気がした。


 僕はなぜ、生まれてきたのだろう。

 いまだにその答えを知らない。

 知らなくてもよかっただなんて、稚拙な言い訳をするつもりはなかった。

 ずっと知りたかったのだ。なぜ、僕がここにいるのか。

 たくさんの努力をしてきたけれど、ついに報われなかったという、きっとこれはどこにでもある話なのだろう。

 才能がなかったのかもしれない。

 あるいは運がなかったのかもしれない。

 姉貴に言われたことがある。

「あんたの努力は的外れなんだよねー。探しているうちは見つからないよ。そういうもんなの」

 姉貴は確かに僕とは違っていた。生きるということを、肌で理解していたのかもしれない。

 それなら、教えてくれたらよかったのに。

「まぁね、あんたは人とは違うから、あんたのやり方でやってみなさいな」

 姉貴がくれた言葉は、たったそれだけだ。

 人と違うことに、誇りなんかなかった。

 人と同じということにも、興味なんてなかったけれど。

 だからかもしれない。

 死を覚悟したとき、僕の心には爽やかな諦めが広がった。

 これでよかったんだと、心から思う。

 望みはしなかったけれど、これでよかったんだ。

 さよなら世界。

 もし僕が、

 次にヒトを生きることがあるのなら、

 その時は何かにつながることを願う。

 誰かを、救えることを願う。

 

 視界の端で、水の香りの少女が振り向いた。

 僕はそっと瞼を閉じる。

 

 空が遠い。

 もう、届かない。

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