スターダスト ドリーム

ヘパ

第1話 スターダスト ドリーム

 ねぇ、アポロンちゃん、遅くない?


待ち合わせの時間、過ぎてるんだけど……って、思って、スマホを見たら。メッセージが来てた。



 『ごめん、ヘパ!オーケストラの合同練習、長引いちゃって!今日、ムリ!』



 えぇー!?ドタキャンなのー!?


ショックだった。でも、こうなるって、うすうす、わかってたんだ……。


だって、アポロンちゃん、明日、クリスマスのコンサートだもん。


ていうか、『ヘパイストス、服、見に行こうぜ!』って、さそってきたの、アポロンちゃんなんだよな。



 俺は、『24日も!絶対、忙しいでしょ!?』って、言ったんだけど。


『たぶん、大丈夫。俺だって、イヴくらい、遊びたいよ。』って、アポロンちゃんが言うから、待ってたのに……。



 まぁ、来れないもんは、仕方ない……。


せっかく、街に出たんだし!タピオカミルクティーでも飲んで、帰るか……。


って、考えてたら。空から。シャン、シャン、シャンッ……!って、鈴の音が、近づいてきた。



 トナカイが引くソリに乗ってるのは、赤い服を着た青年。


例の、あの人にしか、見えなかった。


「なんでー!?なんで、サンタが、俺のところに、来るのー!?」


わけがわからなくて、叫んでたら。


「それ!それのせいだよ!」って、サンタさんに、スマホを指差ゆびさされた。


「おまえ!ブルートュース、つけっぱなしだっただろ!だから、俺のトナカイが、宇宙船からの電波だって、間違えたんじゃん!なんだよ!業務ぎょうむ連絡かと、思ったじゃん!」


「いったい、なんの話ですか……?」


よく見たら、本物のトナカイじゃなくて、ロボ・トナカイだった。



 知らなかったけど。サンタさんは、クリスマスのシーズンに、地球に出稼でかせぎに来てる配送業者はいそうぎょうしゃの宇宙人だった。


今夜10時までに、ノルマを達成たっせいできないと、故郷こきょうのサンタクローせいに、帰れないらしい。



 バカー!って、俺は、サンタさんに、怒られた。


「あと3時間のうちに!本部の宇宙船にある荷物、配らないといけないのに!1分1秒が、しいのに!どうしてくれんだよ!」


「ご、ごめんなさい……!」


「許さない。責任を、とってもらう。」って、サンタさんに、つかまれて。俺は、ソリに引き上げられた。



「おまえ、名前は?」


「ヘパイストスです。」


「ヘパイストス、これ着て!」って、例の赤い服、わたされた。



 こうして、俺は、サンタさんの仕事を、手伝うことになった。



 ソリの操縦そうじゅうで、手が離せないサンタさんの代わりに、俺が、荷物にかいてある住所を読み上げて。


到着したら、はい!って、サンタさんに、荷物をわたして。


サンタさんが、サッ!って、プレゼント、置いてくる。


そんな連携れんけいプレーで、サクサク、こなして。仕事のめどが、ついてきた。


「やってみる?」って、サンタさんに、言われて。後半戦は、俺が、プレゼント、置いてきた。



 これで、最後の1個だ―!って、思ったからか。俺は、つい、気を抜いてしまった。


「サンタさん?」って、後ろで、子どもの声がした。


ふりかえると、パジャマ姿の子どもが、立ってる……。



 やばい!みつかっちゃった!


こんな時、どうしたら、いいんだ!?


落ちつけ!落ちつくんだ、ヘパイストス!って、考えた。


俺は、言った。


「コートを、とっておいで!いっしょに、オリンピアの星空を、ドライブしよう!」



 子どもを連れて、ソリに戻ったら。サンタさんに、は!?みたいな顔された。


でも、サンタさんは、事情をさっしてくれて。子どもの夢を、こわしちゃいけないからって、茶番ちゃばんに、つきあってくれた。



 俺たちは、子どもをつれて、イヴの夜空を、かけまわった。


夢みたいな体験に、子どもは、めっちゃ、興奮してて。


「これは、秘密だよ。」って、俺が、ふりかえった時には、はしゃぎ疲れて、寝落ちしてた。



 子どもを、家に帰しに戻ると。向かい側の家に、ロボ・トナカイが引く、同じソリがとまってた。


家の中から、めちゃくちゃ、知ってる声が、きこえる。


「約束したからね!お父さんと、お母さんの言うこと、きかないと!来年も、俺、おしおきに来るからね!」


って、お説教してる声、すっごい、聞き覚えあるんだけど……って、思ってたら。


家から出てきたのは、めちゃくちゃ、知り合いだった。


「サタンー!?」


海賊リヴァイアサンのキャプテンに、こんなところで、会うなんて、思わなくて、びっくりした!


「ヘパちゃんじゃーん!」って、サタンも、驚いてた。


「えー、なになに?ヘパちゃんも、サンタやってんの?」


「なりゆきで……。ていうか、サタンって、サンタだったの!?」


「手伝ってるだけ。サンタと、友達だから。見て見て!俺のサンタ衣装、なんで、黒でしょう?」


「かっこいいから?」


「はずれ。サタンクロ-スは、ただの色違いサンタじゃないんだよ。悪い子どもに、おしおきをする、ブラックサンタ。」


「へー。ブラックサタン。」って、言った後、俺は、あ!って、思った。



 話してるうちに、わけわかんなくなっちゃった!


サンタとサタンを、言い間違えちゃったー!



 サンタに、「今、ブラックサタンって、言ったよな?」って、つっこまれた。


「だって!ふたりとも、名前、似すぎー!」


うんうん!って、サタンも、うなずいてる。


「俺も、ゲシュタルト崩壊しそうだったよ。まぎらわしいから、俺は、サンタのこと、ニコラスって、呼んでるよ。」



 サンタの仕事を、がんばったからか、おなかが、鳴っちゃった……。


サンタのニコラスも、「腹減ったー!」って、星空に向かって、叫んでた。


サタンが、「ピザ、食べたいなー。」って、言ったから。このまま、3人で、"海のレストラン"に、寄っていくことにした。



 もう、10時だったし。さすがに、アポロンちゃん、家に帰ってた。


「ごめん、ヘパ!あとで、必ず、埋め合わせするから!」って、目が合った瞬間、アポロンちゃんに、言われた。


それから。


「つーか。おまえ。なんで、サンタの格好かっこうしてんの?」って、きかれた。



 さっきまで、サンタの仕事してたんだよー!って、話したら。


おねぇ系ウエイター・アルゴスに、「やだー!たのしそー!来年は、私も、さそってよ!」って、うらやましがられた。



 アルテミス料理長は、今、キッチンで、忙しくしてる。


「さて。姉貴あねきが、ピザを焼いてるあいだに、俺も、一肌脱ひとはだぬぎますか。」って、アポロンちゃんが、ピアノに向かった。


「アポロンちゃん?さっきまで、さんざん、弾いてたんじゃないの?」


「まぁ、そうなんだけどね。でも、サンタが来てるなら、サービスするよ。」


そう言って、アポロンちゃんは、ワルツの2番を、弾いてくれた。



 ショパンの軽快けいかいなメロディーを聞いて、たのしくなったニコラスは、笑ってた。


「メリークリスマス・イヴ!」

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