予選49
馬車が問屋街にさしかかったところで、俺とエドワードだけ先に降りさせてもらった。他のメンバーはそのまま『エンジェルズ』に向かう。
まずは大工のところに案内してもらい、ステージの設営を依頼した。言葉ではなかなか伝わらなかったので、俺は希望するステージのイメージを紙に描いた。ステージの高さは1メートルくらい。階段は左右と正面の3ヶ所。ステージの背後には高さ3メートルほどの壁を設置してもらう。他の3方向の壁はないが、屋根はつけてもらうことにした。
エドワードと相談し、設置する場所も指定すると、大工に前金を払った。一応、明日の早朝に、本当にその場所でいいか河川敷で打ち合わせもすることになった。
野外ライブが大がかりなものになってきたから、もっとグッズが必要だ。
エドワードと別れた俺は服屋に行き、無地のTシャツを大量発注した。塗った後にアイロンをかけると定着する、服用の油性インクも売っていたので、それも注文して孤児院に届けてもらうことにした。このインクでTシャツに判子を押せば、『1の3』の公式グッズに早変わりだ。何回か洗うとインクが落ちてきてしまうらしいが、それは販売時に注意すればいいだろう。
3日前に七海、有希、心愛のイメージカラーのスカーフを買った店で、全く同じスカーフをあるだけ購入した。これにもTシャツと同じように判子を押すことにする。
後は何だろう……缶バッジとかキーホルダーとかか? でも、この街で今からそういうのを作ってもらうのは難しいだろうし……。あ、ストラップならいけるか? 木製の判子を見せて、鍛治屋に金属製の判子を作ってもらおう。それを焼きごてにして、穴を開けた木片に焼き印を押す。穴に紐を通して輪っかにすれば、ストラップの完成だ。今は判子を持ち歩いていなかったので、1度孤児院に戻らないといけないが。
先に役場に行って、書類を見せ、領主から河川敷での野外ライブの許可が出たことを伝えると、職員を含めて役場にいた全員に驚かれた。それくらい、領主に何かの許可を貰うのは難しいことだったらしい。
その後、孤児院に戻って早めの夕食をとり、判子と団扇をリヤカーに載せ、鍛冶屋のところに行った。1番小さい判子を見本として渡し、焼き印用に金属でこれと同じものを作って欲しいと頼むと、快諾してくれた。「鍛冶」と聞くと、真っ先に武器の鍛冶を思い浮かべてしまうが、この店では農具や包丁など、金属の加工全般をやっているのだ。
そのまま孤児院には戻らずにリヤカーを牽いて『エンジェルズ』に移動した。
『1の9』への加入を希望する女の子達の審査をしているうちに、夜の公演の時間になった。
雨が上がったこともあり、店の前には昨日以上に長蛇の列ができていた。
七海達はドラマや映画やアニメの物語を披露し、観客は大いに盛り上がっていた。昼の客から、七海達が話す物語は面白いという話を聞いた大勢の夜の客が、夜の公演でも物語を披露して欲しいとリクエストをして、それに応えたのだ。その分、歌う時間は減ってしまうが、それでも構わないようだった。
週末の野外ライブの告知をすると、観客達から歓声が上がった。『1の3』が休憩中に無料ライブをやりたい人も募集しておいた。
グッズ販売で団扇をお披露目すると、客達は首を傾げた。
「これは何だ?」
オリヴァーが代表してそう訊いた。
「これは団扇というものです。こうやって扇ぐと、風が起きて涼しくなるでしょう? 暑い日に役に立つ実用品です。これも色紙と同じく、七海と有希と心愛がサインしてくれます」
『ペン』は七海と有希と心愛が個別にサインする仕組みにしていたが、メンタルの弱い心愛に気を遣い、団扇は3人セットということにしておいた。
新グッズの効果は絶大だった。すでに色紙も『ペン』も買ったからもういいや、という感じの表情でグッズ販売の列に並んでいなかった客も、新グッズとなると気になるのか、列に並んで団扇を買ってくれたのだ。
こんな感じで今夜の3回の公演は終わった。その合間にはオーディションも行なった。ただし、夜だということもあり人数は少なかったが。
「やっぱり、明日、最終オーディションもやった方がいいんじゃないかしら」
浅生律子は、『1の9』のメンバー候補の一覧を見ながらそう提案した。
「そうだな。後の方になると目と耳が肥えてしまって、最初の方より厳しく審査してしまっていた可能性もあるし」
俺は頷き、そう答えた。
俺の審査で誰かの人生が変わってしまうのだと思うと、恐ろしいものを感じた。しかし、全員を合格させることは不可能なのだから、ちゃんと選ばないといけない。
人数を15人にまで絞り、手紙を送ることになった。ただしオーディションを受けた『エンジェルズ』の女性スタッフには直接伝えるが。女性スタッフの中から最終オーディションに進むことができたのは、借金奴隷のミリアを含めて4人だけだった。
話し合いが終わると、ヘンリーに孤児院まで送ってもらった。
いつものように青山に簡単な夜食を作ってもらい、それを食べながら異世界対抗デスゲームについて話し合う。
「一気に順位が上がったね!」
七海が嬉しそうな声でそう言った。
「って言っても、まだ借金は完済できてないけどね」
心愛は冷めた口調でそう言った。
【 9位 230番 コロイレム星代表チーム :128500ゼン
10位 239番 地球代表チーム :-57683411ゼン
11位 227番 ソロガリオ星代表チーム :-63000000ゼン
12位 231番 ワーメウス星代表チーム :-69000000ゼン
13位 226番 ミンジャーク星代表チーム :-70000000ゼン
14位 236番 アッサリーム星代表チーム :-74000000ゼン
15位 228番 レイレイレオ星代表チーム :-88000000ゼン
16位 225番 サイジェリアス星代表チーム:-664000000ゼン】
ウィンドウ画面にはそう表示されていた。
俺達地球代表チームは、昨日から一気に3000万ゼン以上も稼ぎ、10位に浮上していた。
エドワード商会がリバーシとトランプのロイヤリティとして約1500万ゼンを振り込んでくれたのが大きいが、それを差し引いても躍進していた。
地球代表チーム内のプレイヤー別の所持金ランキングだと、俺がダントツの1位だったが、2位は約1000万ゼンを所持している鈴本
「この鈴本蓮ってやつ、知ってるか?」
俺はそう訊いてみたが、誰も知らなかった。ということは、この鈴本蓮が前髪眼鏡くんの名前の可能性があるな、と俺は思った。
株式会社の設立に時間がかかったが、今日からやっと稼げるようになったのかもしれない。
「……今ごろみんな、どうしてるかな」
七海が独り言のようにそう呟いた。
「みんなって、家族のこと?」
有希がそう確認した。
「うん。お母さんもお父さんも心配してるだろうな……。1クラス全員が集団失踪したんだもん。きっと大騒ぎになってるだろうね」
七海は弱々しい笑みを浮かべながらそう言った。やっと予選を勝ち抜ける可能性が見えてきて、そんなことを考える余裕も生まれたらしい。
「
俺は考えながらそう言った。
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