第2話 成長

 慈花いつかは、朝起きるとまず境内の掃除を始める。それが終わると薪割り。とんっと軽く薪となる木に鉈を当て、少し刃を食い込ませると、もう一度、今度は強く振り下ろす。まだまだ慈花は幼く大きな薪を割ることが出来ない。それでも、神主が大きな斧を振りかぶり、一刀の元に薪を割る姿に憧れている。


 神主の所に預けられて、二年。慈花は七歳になっていた。


 神社の雑用をこなしながら、空いた時間に神主より剣術や体術の稽古を受ける。神主が、どのような過去を持っているかはわからないが、剣術、体術の腕だけではなく、色んな方面の事に詳しく、暇さえあれば、慈花へ教えていた。そんな事もあり、慈花は神主を師父と呼び、神主を慕っている。


 慈花の物事に対する知識欲は尽きる事を知らず、何か疑問を見つけると、「師父様、師父様」と尋ねに来たり、書物を漁っては調べ物をしていた。その様な事もあり、慈花へは、文字の読み書きを少し教えただけで、他の子達に比べ成長が早く、七歳にして専門書等を読み耽るまでとなっていた。


 それは学問だけではなく、武術においても目を見張るものがあった。生まれ持った勝負勘と才能、身体能力、そして打ち込む努力。それは神主も驚くべき事であった。


 元々、表情もとぼしく、ここに来るまでの五年もの間、笑顔の一つも乳母にさえ見せたことがなかった慈花は、最近になり、師父と慕う神主の前では、子供らしい姿を見せるようになっていた。


「師父様、師父様」


 神主も慈花からそう呼ばれる事に対して満更でもなく心より慈花を愛し、本当の子供のように接し、育てている。







 毎月必ず神主は仕事だと言い、五日程、神社を留守にする。そんな時は、神主の知り合いである女が神社と慈花の世話をしにやってくる。


 女の名前は京華。大変美しく、静かな女性であった。年の頃は、神主と同じか、それよりも若いと思われ、教養もあり、慈花へ色んな事を教えてくれていた。京華は、神主以外で慈花に唯一懐かれている人間である。


 慈花は、母親に抱かれた記憶以前に、母親の顔や声さえも知らない。しかし、母親とはこのような人の事を言うのかなと思う事がある。だからと言って慈花に母親への憧れというものはない。


 両親の顔や温もりなど知らなくても、慈花には師父と慕う神主と京華の二人さえいれば幸せだった。

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