親殺しのパラドックス
@mohoumono
第1話 その少年は、僕だった。
10歳くらいの男は、
記者のフラッシュに背中を押され、
橋から落ちた。
男は、フラフラと包丁を片手に
街中を歩く。
ぐさっと人を刺した。
男は生きていた。
僕は、慣れた手つきで、
ラジオをつけニュースを聞く。
泣いた親の顔が出てくる。
そして、10歳くらいの子が泣いている。
その後、モノクロの大人の顔が出てくる。
僕は、テレビを消した。
ガサガサという音が部屋に鳴り響く。
その音から逃れるため、
40年前のヒットソングを聴きながら、
40年前に刊行された小説を読む。
ちなみに、僕の親は60歳だ。
親との会話を思い出す。
50年前くらいに
通り魔から救ってくれた恩人がいるんだよと
顔を真っ赤にして語っていた親を思い出す。
僕は、手紙の一つくらいないかと
家の中を漁る。何もなかった。
あるはずがなかった。
僕は、家を出る。
河川敷を歩く、あの橋を渡る。
僕は、その場に力無く倒れる。
涙を流した少年が僕を見ている。
僕は、少年の包丁を握った。
親殺しのパラドックス @mohoumono
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