第50話 レンガ広場へ

「もう、いいのか?」


 教会の入り口、ドンキホーテは目の前に立つロランにそう話しかける。


「心配をどうも、誰かさんの激痛の走る、回復魔法のお陰で、治りが早かったみたいでね、思ったより早く帰れるみたいだ」

「けっ! まだ根に持ってるのかよ……」


「嘘だよ、感謝してる」とロランは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 朝日が空を焼く、早朝、そんな快晴の空の下二人は笑い合う。



 ロランが、手紙の主に会いに行こうと、決断してから四日が経った、ロランの怪我は無事、回復魔法によって完治しちょうど今日、教会から出るというわけだ。


「まあ、正確には、三日目ぐらいには、完治してたんだけど、修道女の人が心配症でね、子供なんだから最低1週間は、安静にしなさいなんて言っててね。

 交渉してなんとか今日、抜け出すことができたよ」


 やれやれ、とでもいいたげに少年は、ドンキホーテにそう言った。


「しかしよぉ、その修道女さんの言うことも一理あるぜ、子供の体に回復魔法はきついだろ、俺たちみたいな闘気使いなら別だがよぉ〜」


 心配そうに言うドンキホーテにたいして「大丈夫だよ、ご心配なく」と皮肉げにロランは返した。

「へ、可愛くねぇやつ」その皮肉のこもった返しをドンキホーテは癪に障りながら言い返す。

 二人がそんな会話を続けていると遠くから、レーデンスが遅れてやってきた。レーデンスは二人を見ると申し訳なさそうな顔をして駆け寄る。


「すまない、回復薬などを買い足していたら、遅くなってしまった」


 申し訳なさそうに言うレーデンスに、ドンキホーテは「別に大丈夫だぜ」と労う。ロランも、同じく、と言うように頷いた後、宣言した。


「じゃあ行こうか、エクリ区に」


 ドンキホーテ達は、そうして歩き始めた、全ての元凶を知ると言う、手紙の差出人に会うために。





 エクリ区、王都エポロの中でも中流層が多く集う区である。

 場所はエポロの端の端、もっとも城壁に近く、エクリ区に住んでいれば、エポロの巨大な城壁が嫌でも目に入る。

 そんな区にドンキホーテ達は足を踏み入れる。開口一番にドンキホーテは言った。


「相変わらず、この街の城壁はゴツイな」


 その言葉を聞きロランはため息を吐く。


「全く……観光に来ているんじゃないんだよ?」


「わかってるよぉ〜」とドンキホーテはわかってない様に言う。

 そんな二人の様子を見て、レーデンスは苦笑しながらも、冷静に発言した。


「それでどうする、ロラン。こんな朝早くから来たのは意味があるのだろう」


 ロランは頷いた。


「もちろん、この街の構造を見たくてね、確か、レンガ広場に集合だよね、それまで時間があるから、作戦を練っておきたいんだ」


 ロランは辺りを見回す。家、家、家、辺りを見回せば家ばかりだ。

 先日の機械人形事件のせいか、衛兵が多い、だが一般人の人通りはまだ少ない、しかし午後、一の刻の時間帯になれば恐らく、人通りが多くなるだろう。

 ロランは辺りを見回しながら歩みを進める。ドンキホーテ達はそれについていった。

 黙ってロランはエクリ区の街並みを観察し続けた。どこからが強襲を受けやすいか、逆にしやすいかを、考える。


「はあ……ここは、結構入り組んでいるね、しかも家が高いせいで 死角が多い」


 ロランはそうぼやいた。そのぼやきを聞いたドンキホーテは、改めて街を見回し、「確かにな」と呟いた。


「じゃあ、俺たちってめっちゃピンチ?」


 呑気に言った、ドンキホーテの疑問に、レーデンスは気が抜けそうになりながらも答える。


「それならば、心配ないだろう、未だに機械人形の時間から、衛兵達は警戒態勢を取っている、見ろ」


 レーデンスは指を指した、人差し指が指す先は城壁の上だ。

 城壁の上には、ドンキホーテの目には遠くてよく見えないが人影が見える。


「ありゃあ……衛兵か」


 目を細めるドンキホーテ、遠くてよく見えないが、城壁の上にいた衛兵達はエクリ区を、見下ろしていた。


「先日の機械人形事件は、かなり王都に衝撃を与えた様でな、図書館の襲撃事件の件もあったから、かなり衛兵達がピリついているらしい」


 レーデンスの説明に、ドンキホーテは頷いた。


「はぁ、なるほど、衛兵の皆さんは見回りしてくれてんのか、それにしても城壁から見回すってことは、あれか千里眼のアビリティを持ってる衛兵か?

 すげえ力入れてんだな」


 ドンキホーテの言葉に「そう言うことだ」とレーデンスは言う。


「それだけ危険視されていると言うことだ、あの事件は、一応無差別銃撃事件という風になっているからな。

 民を安心させるためにもこうしているのだろう」


 無差別銃撃事件という風になっているのは、ドンキホーテ達にも責任があった。

 怪我をした後、事態を異常だと判断した、国家憲兵の役割もつ、第二騎士団の団員により事情聴取を受けた。その際、ロランと口裏を合わせたのだ。

 どうせ、真実を言ったところで、信じてもらえるわけがない、事件に巻き込まれたという事にしようと。

 結果、事件はこの様な筋書きになった。


 突如、空に現れた謎の一つ目の化け物、それは事件の犯人が呼び寄せたものであり、たまたまドンキホーテ達が召喚の現場を目撃。

 そのせいで、召喚は失敗、激昂した犯人達は機械人形を駆使し、無差別銃撃を行い、ドンキホーテ達を殺そうとした。


 こんな内容になったため、国民達は恐怖に陥れられ事になった。あの化け物はなんだったのか、犯人の目的は、銃撃事件は再び起こるのか。

 恐怖は坂道を転がる雪玉の様に巨大化しようとしていた。

 その恐怖を沈静化しようと、騎士、および街の衛兵達は巡回を強化、半ば街全体を監視に近い形で、見守っているというわけである。


「はあ、申し訳無い気持ちがいっぱいだぜ」


 ドンキホーテは、肩を落とす、真実を隠しているというのが、どうもドンキホーテの罪悪感を煽る。

 しかしほかにどうしようもない。

 時が繰り返しているなど、そうそう信じてもらえるわけではないからだ。

 万が一そんなことを言えば信じてもらえないどころか、不自然な目で見られるのは確かだろう。

 だからしょうがないと言えば、しょうがないのだ。


「ドンキホーテ、そろそろ着くぞ」


 上の空なドンキホーテにレーデンスは気づいたのか、ドンキホーテを、思考の海から現実に引っ張り出した。

「おう」とドンキホーテは返事する。改めて、周りを見回してみると、進行方向の先に、開けた広場が見えた。


「もしかして、もう着いたのか」


「そうだよ」とロランが言い、続けた。


「ここが、レンガ広場だ」

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