第48話 手紙

「よう、ジャック……」


 目の前に現れた男に向かってドンキホーテは力なくそう言った。どうやら射出された、弾丸は全てジャックが防いだようだ、パラパラと弾丸が地面に落ちる。

 機械人形達は、新しく現れた、敵に対し経過しているのかじっと観察している。

 そんな機械人形に目もくれずドンキホーテにジャックは話しかけた。


「お前が、屋根の上でどんちゃんさわぎをしてたのをたまたま見てな、助けに来たってわけさ」


 ジャックはそういって、眼前にいる三体の機械人形を見渡す。明らかに闘志を持ち、戦おうとしていることをドンキホーテは理解した。


「ジャック……一人じゃ……無理だこの数……! こいつを連れて逃げてくれ……!」


 ドンキホーテは抱えていた気を失ったロランを、ジャックに向けて差し出し、そう言う。彼は半ば諦めかけていた。

 たとえジャック一人が来てくれたとしても、三体の機械人形相手になにができるのだ。機械人形は機関銃の銃身を回転させ始める。


 ――さあ攻撃が始まる前に、早く逃げてくれ、俺を置いて、ロランなら抱えやすいだろう。


 だがジャックはニヤリと笑って言った。


「俺がいつ一人で来たなんて言った?」


 その言葉をジャックが言った瞬間、機械人形の一体の鉄の皮膚に矢が突き刺さった、闘気を纏い強化されているのだろう。しかし一体どこから。

 そう思考を巡らす前に、ドンキホーテの視界外から、多数の人影が一斉に鉄の人形達に飛びかかった。


「喰らいやがれぇ!」

「反撃の隙を与えるな!」


 そんな叫び声をあげながら、鉄の人形達に襲いかかったのは多数の武装した、冒険者達だった、しかもドンキホーテにはその者達に見覚えがある。


「お前ら……リヴァイアサン事件の時の……」


 ドンキホーテは思わず、そう呟いた。


「おうよ、集めてきたんだよ、俺の自慢の足を使ってな!」


 ジャックはそう自慢げに言う。

 機械人形達は最初は単発式の銃や機関銃を用いて、有利なよう見えたが、突然、襲われたことに加えて、数の暴力により押されている。

 そしてついに、人形達の四肢は屈強な戦士達によって砕かれ、胴体は魔法使いの魔法によって貫かれていった。


「おいおい、こりゃ俺の出番なんて無いかもな」


 ジャックは半笑いでそんなことを言う。そんな、数の暴力に押され破壊されていく機械人形達を見てドンキホーテは安心からかついに意識が遠のいていく。

 ジャックの心配する声が聞こえるが、しかし意識が飛ぶのに歯止めがきかない。

 そのうちドンキホーテは気を失った。





 ドンキホーテが次に目を覚ました時、目に映ったのは見知った天井だった。


「ここは……」


 いつのまにか仰向けで寝かされていたベットの上で思考を巡らせる、確かここは王都エポロの教会だ、怪我人を治療するための部屋だとドンキホーテは思い出す。

 それにどうやら治療を受けていたらしい、服は脱がされ平服に着替えさせてられており、今までつけていた装備はどこかにいっている。

 ここにくるのはリヴァイアサン事件以来かドンキホーテは懐かしむ。だが直後にそんな思い出に浸っている場合では無いことを思い出す。


「そうだ、ロランは!!」

「大丈夫だ、ドンキホーテ、急に起き上がると傷に響くぞ」


 飛び起きたドンキホーテを、いつのまにか(いや元々いたのをドンキホーテが気づかなかっただけだろうが)いたレーデンスが諌める。

 ドンキホーテと違ってレーデンスは完全武装だ。どうやら治療などは受けなかったらしい、ホッとしてドンキホーテは喋り出す。


「レーデンス……助かったんだな俺たち……」

「ああ、なんとかな……」

「そういえば、ジャックは?」


 それを聞くとレーデンスはフッと笑う。


「ジャックと冒険者達なら、ロランとお前をこの教会に届けた後、みんな仕事に行ったぞ。

 皆、一つ貸しだぞなんて言ってからな」


「恩着せがましいぜ全く」とドンキホーテは笑った。釣られてレーデンスも笑う。

 ひとしきり笑った後、「さてと」とドンキホーテはベットから出て立ち上がろうとする。


「まて、しばらく安静にしていろ、ドンキホーテ」


 レーデンスは心配するが、


「なあに、そんな体も痛くねぇし、回復魔法の使える修道女様か誰かが治療してくれたんだろ?」


 とレーデンスの心配を振り切って彼は立ち上がった。「イテテ」と、言いながらもドンキホーテは歩き始める。


「よし歩けるな! レーデンス! ロランのとこに案内してくれ! お見舞いに行くぜ!」


 レーデンスはため息を吐く、がまあいいかと、諦めの境地に至る、どうせ止めても動き回るだろう。


「ついてこい、こっちだ」


 レーデンスはドンキホーテを先導した。

 彼の寝ていた病室から出るとちょうどその隣にも病室がある。その病室の中にレーデンスは入っていく。

 ドンキホーテもそれに続いた。

 病室の中は、先ほどのドンキホーテの病室とは異なっており、ドンキホーテの病室は計六床だったの対し、ロランの病室は一床、つまり個人部屋となっていた。

 そのたった一つのベットにロランは横たわり目を瞑っている。

 ドンキホーテ達はそっとロランに近づき、ベットの横にある、あらかじめ病室に備えてあった二つの椅子に座る。


「ロラン……」


 ドンキホーテは少年の名を呟く、しかし、当の本人は応えてはくれない、瞳は閉じて、寝息を立てている。


「容体はどうだって?」

「早めにお前が応急手当てをしたおかげで、大事に至らなかったらしい、だが、今は傷のショックで気を失っているそうだ、そのうち目を覚ますとは医者が言ってはいたが……」


 だが、目を覚まさないと心配が募っていくのは事実だ。そこはドンキホーテとレーデンスは一緒だった。


「そういえば、俺はどれくらい眠ってんだ?」

「もう夕暮れ時だから数刻は眠っていたことになるな」

「結構寝ちまったな、まあいい、まだ二日目、時間はある、しかしここにいたら危なくねぇか? 暗殺者達もここにいることぐらい嗅ぎつけているんじゃ?」

「その必要はない、ドンキホーテ、現在、今朝の機械人形の騒ぎがおこったせいで夜景と衛兵が街を巡回している。

下手には動けんだろう」

「そうか、だったら……」


 だったら問題はロランがいつ起きるかだ、しかしそれも懸念すべき点ではないとドンキホーテは不安を消すためにそう考えた。

 ロランが起きるのはそう遅くはないはずだ、焦るか必要はない。


「とにかく、今は、私たちもダメージを回復しておこう、いつでも戦えるようにな」

「そうだなぁ、それじゃあ、元気になるために飯でも食うかな! レーデンスどっちが買いに行くか、ジャンケンで決めようぜ!!」

「お前は……フッ、望むところだ」

「じゃあ行くぜ、一、二の三、ジャンケン――」


 そう言いかけた時だった、病室の窓にカタン、と何かが叩きつけられる。


「なんだ?」


 ドンキホーテが窓から外を見ると、鳥の形を模した紙が窓の外に張り付いていた。レーデンスはその紙に見覚えがあった。


「折り紙手紙か?」


 折り紙手紙とは、文字を書いた折り紙という東洋の紙を折たたみ、鳥の形(と言っても模しただけだが)にした後、魔法かけ本当の鳥のように飛ばし遠くの相手に手紙を届けるという魔法である。

 しかしこんなタイミングできたのか、何か嫌な予感を感じ取ったレーデンスは警戒する、折り紙手紙に見せかけた何か知らない危険な魔法かもしれないと。

 そんな彼とは対照的にドンキホーテはなんの警戒心もなく、窓を開け放った。


「おま、ドンキホーテ、危険だ!」

「えっ、あっ、そっか!」

「急にバカになるな! 驚くから!」


 そんなレーデンスの注意も虚しく、ふわりとその折り紙手紙は部屋の中央に落ちる。


「やべえ!」


 そんな声を上げながらドンキホーテは咄嗟にはロランに覆いかぶさる。レーデンスは剣を引き抜き、落ちた折り紙手紙を睨みつけた。

 何かくるか、とレーデンスとドンキホーテは緊張のまま固まる、そしてなんとも言えない沈黙の間が続いた。

 やがてその沈黙に耐えきれずドンキホーテはレーデンスの顔をみる。レーデンス頼む、とドンキホーテはアイコンタクトをした。

 レーデンスは頷き、恐る恐る剣の切っ先で折り紙手紙をつついた。しかしなんの反応もない。大丈夫か、ドンキホーテがまた瞳で訴えかける。

 レーデンスは意を決して、折り紙手紙を摘み上げた。それでもなんとも、ないためレーデンスはさらに危険だと思いつつ折り紙手紙を開いた。

 レーデンスの目に飛び込んできたのは文字の羅列だった。


「これは……」


 呟いたレーデンスを見て、ドンキホーテは恐る恐る聞く。


「だ、大丈夫だったか?」

「ああ、どうやらただの手紙だったようだ、私たちの深読みだったな」


 ドンキホーテは安堵の息を肺から放出し、緊張が解けたのが引き金となり喋り始めた。


「ああ、よかったぁぁぁ! マジでヤベェと思った! たくっ! なんか動きを感知して発動する系の魔法だったりしたらどうしようとか思って動けなかったぜ

 で? 誰からの手紙なんだ? もしかして誰かの恋文が間違ってここにきたのか?!」

「ドンキホーテ、想像力豊かだな……」


 呆れるレーデンス、しかしただの手紙というなら確かにドンキホーテの言う通り、誰かが間違って送ってきてしまったのかもしない。

 折り紙手紙を誰かに届けるには二つの方法がある

 届けたい相手の体の一部、例えば血などを魔法に組み込んで飛ばすという方法。

 体の一部を持っていない場合は魔法で地点を指定して、飛ばすという方法だ

 大体の場合、血液なんてものは一般人はもっていないことの方が多いので、大体は後者の方法になるということをレーデンスは聞いたことがあった。

 そのため恐らく指定地点を間違えたのだろうと結論づけ、ふたたび手紙を見た。


「参ったなどうすべきか?」


 悩むレーデンスにドンキホーテは尋ねた


「なあ、何、悩んでだ?」

「折り紙手紙というのは、普通、宛先などを書かない、なにせ自動的に届けたい場所に届くのだからな、だから誰に届けたいのかが分からん、加えて名前がどこにも書いていない……」

「本文に名前があるんじゃねえか?」

「ドンキホーテ、それはいいのだろうか……そのプライバシーというやつが……」

「でもよぉ、これはしょうがなくねぇか、いつまでも俺たちが手紙持っててもよぉ。どうしようもねぇだろ、なぁに、ちょろっとだけだぜ!」


 まあ仕方ないか、とレーデンスは改めて本文に目を通すことにした。多少の罪悪感を抱えながらも先ほどは文字の羅列としか認識していなかった本文に目を通す。すると出たしはこう書かれていた。


 繰り返す時に抗うもの達へ。

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