第45話 人形
「クソ!」
ドンキホーテは悪態を吐き、弾丸が射出されたであろう方向を見る。ここは森林公園、背の高い木がそこら中に群生している、その木々の葉っぱの中から弾丸が発射されたようだ。
ドンキホーテは言う。
「どういうこった、監視されてないんじゃなかったか!? レーデンス気配は感じ取れるか?!」
「分からん! 相手に私のアビリティをレジストする、アビリティの持ち主がいるのかもしれん!」
「まじかよ」と冷や汗を垂らしながらドンキホーテは、ロランの近くに立ちいつでも彼を守れるように、あたりを見回す。
レーデンスもドンキホーテに続き、ロランの周りに立ち防御体制を取る。
「どうするロラン、一旦引くか?」
「いや、君たちには悪いが続行するよ、おそらく彼らが僕たちの居場所がわかったのは、僕たちがルーオ・オホースの退散させるつもりだということを、見透かされたからだろう。
ルーオ・オホースの退散の呪文は、場所が重要になってくる、そして退散呪文に適した、場所は多く見積もってこの王都エポロに三十はある。
その三十箇所全部に、刺客を派遣したんだ」
それを聞いてドンキホーテは舌打ちをした。
「んで今、銃を撃ってきたやつがたまたま正解の場所にたどり着いた奴ってわけか、つーか何人いんだよ! 刺客!」
おまけにその暗殺者は、レーデンスの感知のアビリティから逃れる術を持っているときたものだ、運が悪いとしか言いようがない。
周囲は木々に囲まれ、その木々の中に敵は紛れ込んでいる。
「ヤベェな、援軍でも呼ばれる前にササッと倒さねぇと」
「同感だドンキホーテ」
レーデンスはそう言い頷く、しかしどうする、このままでは拉致があかぬ。しびれを切らして相手が出てくるのを待つか、こちらから仕掛けるか。
そう思考するドンキホーテとレーデンス、それを見て最初に動いたのがロランだった。彼は再び地に手をつき、言った。
「ここの大地から、魔力を吸い上げるまで、時間がかかる、全力で守ってくれ、僕を」
「ヘッ」ドンキホーテは口角を上げた。
「任せておけよ、坊ちゃん!」
「誰が坊ちゃんだ」ロランはそう半笑いしながら、呪文を唱え始めた。
その時だ、木々の葉の中から、何かが飛び出してきた。
「ドンキホーテ!」
レーデンスが叫ぶ。
「わかってる!」
木々の間から飛び出したその物体は球体に、筒が付いたものであった、他にも球体のそれは地面に二つの板が取り付けられており、おそらくそれが足の役割をしているのであろう。
なんだ、ドンキホーテがそう言いかけた瞬間、その球体に黒いラインが入りそこから球体は裂け、変形し始める、それは順序を立てながら徐々に人型へと変化していった。
滑らかな真鍮色の鎧のような肌、関節の部分は球体、そして胴体には剥き出しの歯車を持つ立ち上がったそれを見てレーデンスは目を見開いた。
「なるほど、感知のアビリティに引っかからないはずだ、機械は感知できん!」
そう言って、その人型を見つめる。
「機械人形か……」
呟くロランに対して、ドンキホーテが問う。
「知ってんのか?」
「古代兵器だよ、歯車のゴーレムとも呼ばれてる、遠隔魔法で操作できる、便利な殺戮兵器だ」
ロランの説明に「チッ物騒だな」とドンキホーテは剣を構える。
すると機械人形の腹から唐突に何かが生えた。それは鉄の筒を何本も円形に並べたものだった。
ドンキホーテとレーデンスはそれが何か今までの経験から予測できる。
そしてロランが叫んだ。
「多砲身型機関銃だ!」
円形に並べられた鉄の筒、銃身が回転し、そして銃口から弾丸が射出される。今までの機関銃とは比べものにならないほどの連射速度だ。
「レーデンス!」
「わかった!」
ドンキホーテはレーデンスは特に会話することもなく通じ合い、二人とも左手に装着していた小型の円盾を構える。
そしてドンキホーテの体は一瞬にして青く光り青い光の膜を、レーデンスも同じく、赤の光の膜を前方に展開する。
弾丸はその光の膜に遮られた。
「よし」ドンキホーテは思わずそう呟く、二人が展開したのは闘気によって作られたバリアだった。
「銃はもう対策済みだぜ!」
不敵に笑うドンキホーテ。しかし、安心するのはまだ早い、徐々にではあるが二人が力を合わせて展開した二人分の強度を持つバリアが破られかけている。
弾丸は未だに衰えない。
このままではジリ貧だとドンキホーテとレーデンスは感じていた。
そこでドンキホーテはレーデンスにこう言った。
「レーデンス、行ってくる」
それだけでレーデンスは意図を察し、フッ、と笑う。
「無茶はしてくれるなよ」
レーデンスは口を綻ばせながら言った。それにドンキホーテは親指を立てて答え、闘気のバリアを解除した。
そしてそのまま彼は、赤のバリアを回り込んで、バリアの外に行き、機械人形に向かって突っ込んでいく。
「行くぜ!」
ドンキホーテは踏み込み、機械人形に向かって肉薄していく。
時間をかけるわけにはいかない、レーデンスのバリアは今一人分の強度しかない、長くは持たないだろう。それに闘気のバリアは消耗も大きい、貼り直しはできない。だからこそ一瞬も無駄にはできない。
最適に足を運び、機械人形との距離をドンキホーテは縮めていった。そして、ついに剣のリーチに機械人形が届く。
「喰らいやがれぇ!」
剣を水平に構え、機械人形に向かって、斬撃を放つ。剣は完璧な弧を描いて、機械人形の胴体の部分を切断するべく向かっていった。
間抜けにも人形は未だに機関銃を放っている。
――決まった!
もうここまでくれば剣は止められないドンキホーテはそう思った。
が、それは甘い考えだったと言わざるを得ない。
相手は機械人形、通常の人間の体ではない、人形は機関銃の連射を中止すると同時に、腕の関節が異常な角度で曲がらせ手で白刃を受け止めた。
「何!?」
驚くドンキホーテを横目に機械人形の無機物な頭部はガチャリと開かれる。中から現れたのは大口径の銃口であった。
バン。
銃声が鳴り響く。ドンキホーテの血が宙を舞った。
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