第33話 再会

「ぬあああ!」


 突然、席から立ち叫ぶドンキホーテ、レーデンスは何事かと思い、「どうした?!」と言う。しかしその叫びの意味をレーデンスは理解できないだろう。

 繰り返しているのだ、この世界は、その事に確信に至ったドンキホーテは、今まさに頭がこんがらがり、爆発しそうなのである。

 しばらく、彼は頭をかき回した後、再び座り直す。そして、あたりを見回した。予想ならばこの時間帯、もしかしたらアイツが、ロランが、くるかもしれないと。


「ド、ドンキホーテ、大丈夫か?」


 様子のおかしいドンキホーテにレーデンスは、些か不安を覚え、そう尋ねる。

 当の本人は「ああ」と生返事をするだけで、ロランを探している。

 するとガチャリと音をたてて、冒険者ギルドの扉が開かれた。

 中に誰かが入ってくる。その姿にドンキホーテは見覚えがあった。彼は走って近寄るその、入ってきた人物に向かって。


「おい! ロラン!」


 ロランは唐突に呼び止められた事に驚く、まるで予想を裏切られたようなそんな顔をして、ドンキホーテの顔をみる。

 そして、ドンキホーテは言った。


「頼む、助けてくれねぇか! 活版印刷みてえにおんなじ景色が繰り返してんだよ!」


 ロランはその言葉を聞くとさらに驚き目を見開いた。




「さて、じゃあ、情報を整理しようか」


 ロランはドンキホーテに連れられ、レーデンスと共に勉強会を開いていたテーブルに座り、そう喋り始めた。


「ドンキホーテ、君は確かに繰り返しの記憶があるんだね?」

「ああ、そうだぜ」

「まて、ちょっと待ってくれ、状況が飲み込めないんだが、まず君は誰なんだ?」


 混乱するレーデンス、それもそのはずだ、ドンキホーテに唐突に連れられてきた、謎の少年が、場を仕切り出したのだから。

 ロランは言う。


「はあ、困りものだな、なぜかドンキホーテ、君だけが記憶を保持しているらしい、レーデンスにはまた話さなければならないようだ」

「な、何をだ?」


 困惑するレーデンスを見て、ため息をつきながらロランは再び説明をした。

 花クジラのこと、時が繰り返していること、そしてそれを止めるために力を貸して欲しいことを。レーデンスは頭を抱え戸惑いながら言う。


「にわかには信じられないな……」

「いや、本当のことだぜレーデンス。俺も繰り返しを経験してる」

「まて……では今まで様子がおかしかったのは……私の考えを予測したのは……まさか、イタズラだと言われた方がまだ、信じられるぞ」


 するとドンキホーテは、「わかった」と言い、あたりを見回す。


「いた、見つけたぜ、見てみろレーデンス、あのパーティ、左の男、飲み物倒すぜ」

「いや右の男だよ」


 ロランからの訂正に、「そうそう」と言いながらドンキホーテは手を叩く。するとその通りに右の男がグラスを落とした。

 ドンキホーテは「どうだ見たか!」とレーデンスに詰め寄る。レーデンスは面をくらっていた。そしてさらにドンキホーテが畳み掛ける。


「他にもあるぜ、次の掲示板に張り出される、依頼の内容も知ってんだ! 

 えーと確か、サール村のサラマンダー退治に、ガルゲ山の山菜採取に、なんとか森林の……なんかだ」

「全然違うよ、サール村の畑の収穫、ガルグ山のサラマンダー退治、ソリオ森林の薬草採取だ」


 ロランの訂正に「そうそれ」とドンキホーテは言う。

 聞かされた、レーデンスはそれを聞くと早速、見に行き、そして驚いた顔をしながら急いで、席に戻ってきた。


「あ、当たってたぞ、どう言うことだ、依頼書の内容を事前に知れるのはギルド職員だけのはずだ!」

「だから繰り返してんだよ、レーデンス、時間が繰り返してるんだ」


 ドンキホーテの言葉にレーデンスは驚愕を隠せない。


「これで信じてもらえたかな?」


 ロランはレーデンスにそう語りかけた。


「少し考えさせてくれないか……あまりにも突拍子がなさすぎる」


 ロランはレーデンスに詰め寄る。


「そんな時間はないんだ、レーデンス、一刻も早く、力を貸してもらいたい」

「そうだぜレーデンス、協力してくれよ! 俺からも頼む!」


 レーデンスは二人から詰められついに根負けし、


「わ、わかった、協力しようドンキホーテもそう言うならな」


 と了承した。

 そうと決まればと、ロランは言う。


「いろいろ明らかにしたいことがある、なぜドンキホーテは繰り返しの影響を受けなかったのかまずそこが知りたい、どうして?」


 ロランは単純な疑問をドンキホーテにぶつけた、しかしドンキホーテ自身は呆けたように言う。


「しらね」

「……本気で言ってる?」


「まて」とレーデンスが遮りレーデンスが代わりに続ける。


「この男には、「不変」というアビリティに目覚めている。常時発動型の精神に影響する攻撃を防ぐ、アビリティだ」


 ドンキホーテはレーデンスの説明を聞いて、合点がいったのか、「あ、そうか」と掌を叩く。


「そういや、そんなのもあったな」

「ドンキホーテ、お前……忘れていたのか……」

「だってよぉ〜レーデンス、一応、不変のアビリティを持ってるなんて言われてもよぉ〜、俺のはまだ中途半端に覚醒したせいで、常時発動できてないって、お医者様に言われたんだぜ?」


 そうドンキホーテのアビリティは半端なものなのだ。

 しかも、珍しいアビリティのせいで誰も使い方の指導できるものがいないという、完全に持て余している状態なのだ。


「じゃあ今回の巻き戻しの時はたまたま、不変が発動したってことか」


 ロランはそう結論づける。ドンキホーテもその結論に賛同した。


「確か、花クジラが光を放った時咄嗟に、闘気のバリア張ったんだよ、その時についでに発動してたのかもな」


 ハハハ、とドンキホーテは笑う。ロランはその能天気な笑いを聴きながら呆れていた。


「全く、運が良いのか悪いのか……でも、正直に言って同じ、記憶を保持しているものがあるのは助かる」


 ロランの言葉にドンキホーテはニヤニヤしながらこう言った。


「なんだよ、随分と素直じゃねぇか!」

「これだけ長い時を繰り返してきてはじめての仲間になるかもしれないのだからね。素直にもなるさ」


 その言葉を聞いてレーデンスは嫌な予感が頭をよぎる。

 このロランの妙に大人びた性格といい、立ち振る舞いといい、疑問が線と線でつながっていくような気がした。


「まて、そういえば君は一体、何回、いや何年繰り返しているのだ?」


 レーデンスはそう聞いた。ロランはさらりと答える。


「三十年だけど?」

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