第16話 絶体絶命

「君達は、ここで殺しておきましょう」


 ぬるりとリヴァイアサンは土の檻の中に入ってくる、頭にデイル博士を乗せながら。冒険者達は一様に恐怖を抱き、立ち尽くしていた。


「みんな! ここで戦うぞ! 戦い方は各々に任せる!! ジェイリー博士は巻き込まれねぇ所に移動してろ!」

「わ、わかりました!」


 その硬直を解いたのはドンキホーテの一言だった。ドンキホーテは馬を走らせ、リヴァイアサンを叩き切るべく剣を引き抜き、大蛇へと向かっていく。

 レーデンスもいち早くドンキホーテの後ろに続いた。


「ドンキホーテ策は!? あとお前は闘気が使えないだろう! 下がれ!」


 レーデンスが叫んだ。


「ねぇよ、そんなもん!! 突撃するだけだ! あと闘気は使えるようになってるから心配すんな!」


 それはどう言う意味だ、とレーデンスが言いかけた時、背後が光った。

 光の正体は冒険者が魔法光球であった。魔法使いはまず魔力の放出を第一段階に行い。魔力を外に出しそれから魔力を変化させるのだ。

 それがその出した魔力が魔力光球と呼ばれる

 魔法使いは三十人中十二名程度といったところか。十二個それぞれの、火、雷、水、風、土の魔法が発射される。

 紅蓮の火球、迸る稲妻、高出力ので放たれる水の剣、見えない真空の刃、巨大な土の槍、それは魔法使い達の全力の魔法だった。

 それらは全てリヴァイアサンの体に直撃する、当たった瞬間、煙幕が起こりリヴァイアサンの体を覆い隠した


「魔法使いの攻撃に続けぇ!!」


 冒険者の中のだれかがそう言うと、ジャック達そして、残る剣士、戦士達はリヴァイアサンに向かって突進し、弓兵達も後ろで弓を番える。

 ドンキホーテに続け、そう言わんばかりに戦士達は、彼の後ろにつき、魔法の雨に晒されたリヴァイアサンに突撃していく。

 あれだけの魔法が直撃したのだ、無傷であるはずがない、今肉薄し、攻撃すれば倒せるかもしれない。


 しかしそれは甘い考えだった。


 煙幕の中、キラリとリヴァイアサンの瞳が輝くそれは絶望の光だった。


「薙ぎ払え、リヴァイアサン!」


 無慈悲な博士の指示がリヴァイアサンに届く。あの数の魔法攻撃を受けてなお、リヴァイアサンとデイル博士は無傷であった。

 そして、薙ぎ払えというその命令の解釈をリヴァイアサンは行動で示した。

 大蛇の体が淡く光る。お返しだと言わんばかりに放たれたそれは、大規模な土属性の魔法だった。


 地面が盛り上がる、ドンキホーテ達の馬の足元の地面が。大地に数々のデコボコが生み出され、馬達の足がもたついたと次の瞬間。


 盛り上がった地面が爆発した。


「皆さん!!」


 ジェイリー博士の悲痛な声が響く。

 その天まで届くのではないかと言わんばかりの土煙を上げて、爆発した地面は、ドンキホーテやレーデンス、冒険達を馬ごと吹き飛ばした。


「うおおお!」


 戦士達は悲鳴をあげ吹き飛ばされていく。レーデンスもまた地面に叩きつけられた。しかし運がいいことに外傷は少ない、体を起き上がらせ、辺りを見回す。


「どうなった? 皆んなは……」


 土煙のせいで姿が見えにくいものの、戦士たちの姿は見えたが 。しかし、誰もが、腕を抑えたり、足を抑え、痛がっている。


「これでは……!」


 これではほぼ、負けに等しいではないか、レーデンスは歯を噛みしめる。そうだドンキホーテは、とレーデンスはあの少年を探した。

 しかしドンキホーテの姿はどこにもない。まさか、とレーデンスは最悪の予想をする。たがその不安を打ち消すように叫び声な聞こえた。


「ぎゃああああ!」


 徐々に、大きくなっていくその叫び声は上空からの物だと分かると、レーデンスは顔を上げた。

 ドンキホーテだドンキホーテが空から落ちてきているのだ、よかった無事だった。

 その安心をかき消すような叫び声とともに落ちる彼はちょうどよく、大蛇の頭の上にいるデイル博士の元へと落ちようとしていた。


「博士ぇぇ!!」


 剣を握り直し、デイル博士につきたてようとドンキホーテは空中で剣の切っ先を博士に向ける。


「良い的だ、冒険者」


 しかし何もせずに貫かれる、デイル博士ではない。デイル博士は再び、土の魔法を詠唱するように、紫色の石に語りかける。

 すると宙に浮かぶ円錐形の土の槍が、複数、蛇の周りに出現した。


「殺しなさい」


 その指示とともに身動きの取れない、空中にいるドンキホーテに向かって、槍は発射される。


「ジャックさんよぅ、逃げる時に使えって言ったが使いどきは今のようだぜぇ!」


 そう言ってドンキホーテが何かを掲げた途端、彼の姿は青い光に包まれて消える。


「何?!」


 デイル博士は困惑を口に出した。発射した土の槍達は何もない空間を貫き、彼方へと飛んでいく。ドンキホーテはどこに消えたのだろうか。

 博士は辺りを見回した。


「こっちだよ、博士!」


 博士がその言葉に釣られ振り返った時だ。

 デイル博士の顔面に拳が炸裂した。


「ぐっあああ!!」


 鼻血を吐き出しながらデイル博士は、大蛇の頭の上に倒れる。すかさずドンキホーテ馬乗りなってデイル博士を取り押さえた。


「さあ、さっさっとなにがしかをよこせ! デイル博士! あの変な石を渡すんだよ!」


 左手で胸ぐらを掴み、剣を博士の首筋に当てながらドンキホーテは言った。


「なるほど、テレポートか……それにしても全く、君は……ゴホ、甘いですね、こんなことをしなくても後ろから刺し殺せば、石を奪うなど簡単だっでしょうに」

「……うるせぇ!! 本当に殺してやろうか?! アァ?!」


 ただのハッタリをドンキホーテは言う。


「その甘さが、君の命取りだ! 冒険者!!」


 デイル博士は左手に隠し持っていた。何かを親指で弾く。それは空中で炸裂したと思った瞬間、衝撃波を発して、ドンキホーテを吹き飛ばした。


「ぐっなんだ!!」


 ドンキホーテはそう言いながら、蛇の頭の上から落ち地面に激突した。


「衝撃波の魔法が込められたルーン石です、君が甘いおかげでこうも易々と拘束が取ることができました。」


 拘束から解放された、デイル博士は蛇の頭の上から少年を見下ろした。ドンキホーテは舌打ちをする。


「さて、君は厄介だ、なぜかテレポートのルーン石も持っているようですしね、しかし実はですねそのルーン石、弱点があるのですよ」

「能書きはいいぜ、もう一回殴りに言ってやらぁ!」


 ドンキホーテはテレポートのルーン石を掲げるも、テレポートできない。


「な?! なんで」

「ルーン石では連続でテレポートできないのですよ」


「では、さよなら」と再び、デイル博士がリヴァイアサンに命令しリヴァイアサンの魔法を放とうとした時だ。


「ドンキホーテを援護しろぉ!」


 と後方で待機していた弓兵達が矢を放った。デイル博士を狙ったそれは、しかし目標の手前で勢いをなくす、まるで見えない壁に刺さったかのように。


「クッソ魔法障壁まで!」


 弓兵の一人が叫んだ。魔法障壁、魔法によって作られた、魔力の防護壁である、矢はそれに当たったのだ。


「邪魔ですね全く、しかし私の魔法障壁を破れる弓兵はいないようですね」


「今度こそ、さよならです」と、デイル博士は再びリヴァイアサンの魔法を放とうと命令を下した。ドンキホーテは感じる。まずいと。

 この感覚先ほどやった大規模な地面に爆発が起きる魔法を撃つ気だ。そう感じたドンキホーテは身を翻し逃げようとするも踏みとどまる。

 なぜなら、もしこの魔法が自分を中心に発動させるとしたら、逃げた先に仲間がいた場合巻き込んでしまう。

 ならばと仲間がいないと思われる方向にドンキホーテは走り出した。


「逃がしませんよ!」


 しかし逃げた先で再び、地面の隆起が始まる。


 ――まずい!


 だが走り出した体勢のまま、方向転換はできない、このまま魔法を受けるしかない。

 ドンキホーテがそう諦めかけた時。何かにドンキホーテは突き飛ばされた。視界の端、突き飛ばしたものの正体を、ドンキホーテは見た。


 ジャックだった、ジャックがドンキホーテを突き飛ばしたのだ。


 そして地面は爆発した。雲に届かんばかりの土煙を上げて。

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