第15話 博士の野望

 集まった冒険者達はドンキホーテ達含めて総勢30名ほどだった。その中から土地勘がある冒険者の先導の元、ドンキホーテ達は王都エポロに向かうため街道を走る。


「こっちだこの森を抜ければ早く着く!」


 先導していた冒険者の一人がそう叫んだ。ドンキホーテ達の目に広がったのは街道から外れた薄暗い森である。

 たしかにこの森を抜ければ、早くはつけるだろうしかし一つ問題がある。


「魔物がでやぁしねぇか?」


 ドンキホーテはそう先導した冒険者に言った。


「だがここを進まないとあの大蛇を追い越せないのもたしかだ、私がともに先導しよう」


 レーデンスが先導役に買って出た。ドンキホーテが聞く。何か案があるのだろうか。


「どうするつもりだレーデンス?」

「私のアビリティを使う」


 アビリティ、それは闘気に目覚めた者が得ることのできる特殊能力のことである。基本的にアビリティは一人一つだ。

 レーデンスは集中し、目を瞑るすると彼の体から淡い光の波紋がレーデンスを中心に広範囲に広がった。


「なにをやったんだ?」


 ドンキホーテが不思議そうに聞く。


「「感知」のアビリティだ、今辺りの情報が私の頭の中に入ってきた。ここ付近に、魔物はいない行くぞ」


 その言葉を聞いた先導役の冒険者はレーデンスとともに、森の中に入っていく。大量の馬達が森の中を抜ける。

 幸運だったのはこの森はちょうどいいぐらいの馬車も通れるぐらいの道(といっても舗装はされていない獣道だったが)があることだった。

 その道を時折、レーデンスが「感知」のアビリティを発動し安全を確認しながら確実に、そして迅速に、ドンキホーテ達は歩みを進めていく。


「もう少しだ! もう少しで森を抜けるぞ!」


 先導役の冒険者が森の出口を指差す。西に傾きかけた陽光が差すその出口に向かい、冒険者達は馬にさらに拍車をかけ急いで森を抜けようとした。

 そして彼らはついに森を抜ける。


 しかし森を抜けたドンキホーテ達の目の前に広がったのは絶望だった。


 森を抜けた先、待っていたのはあの大蛇だ。まるで来るのをわかっていたかのように首をもたげ冒険者達を見下ろしていた。

 蛇の頭の上には、デイル博士が立っており、紫色の石を片手に蛇ともに冒険者を見下している。

 ドンキホーテはその大蛇を視認した瞬間、「止まれ!」と他の冒険者達に叫び、馬を止める。

 他の冒険者達はドンキホーテの指示に従い、リヴァイアサンに恐怖を抱きながらも立ち止まった。

 リヴァイアサンと冒険者達は相対す、距離にして百メートルは離れている。

 そのままにらみ合いが続くかと思われたその時、ドンキホーテ達の目の前に一枚の紙が舞い降りてくる。

 紙は空中で静止し複雑に折りたたまれ、形を変えてまるで口のような形に変化した。


 紙の口はデイル博士の声で喋り出す。


「これは、折り紙手紙と呼ばれる、東洋の魔法です、便利でしょう? こうして離れた相手にも肉声を伝えられるのですから」

「何の用だ? ていうか聞こえてんのか、耳も用意しなくてよかったのかい? デイル博士よぉぉ〜!」


「必要なら耳元で怒鳴りにいくぜ」とドンキホーテは皮肉げにいう。しかしデイル博士は返答する。


「必要ありません、聞こえていますよ、ここにあなた方がくるのはわかっていました「替え玉」からの定期連絡が途絶えましたからね、そして街道を通るより、この森を通る方が速いでしょうからね」


「それはまあいいとして」とデイル博士は続けた。


「こうして話をしにきたのは、あるお願いをするためです、私を追う又は、エポロに行くのをやめていただきたい、私の夢を果たすために、少々危険を知らせられると厄介なものでしたね。最悪復讐の対象が逃げかねない」

「やっぱり、エポロが目的か、なにをするつもりだアンタ」


 デイル博士はさらりと


「虐殺ですよ、まずはエポロの民を、ゆくゆくはソール国全国民を、とね。だからあなた方はここで私を見逃してくれるのなら殺すのは後にして差し上げます」


 それを聴くとレーデンスは顔を険しくし、ジェイリー博士は「そんな」と、呟き言った。


「どうしてですか! デイル博士! あなたはそんな人ではないはずです!」


 デイル博士は答えない。

 冒険者達にも動揺が広がる。その動揺に終止符うったのはドンキホーテだった。


「オイオイオイオイ、デイル博士! 逆に言えばよぉ!! こうしてお願いしねえと俺たちがそのリヴァイアサンを追い越しちまって、テメェのちっぽけな夢を潰しちまうからから、こんなしちめんどくさい事やってるんだろう、だったらよぉ〜!

 俺の答えは一つだぜ!」


 ドンキホーテは宣言する。


「全力で、俺たちはエポロを目指す! テメェをぶっちぎってなぁ!!! お前ら散開してくれ! それぞれの方法でエポロを目指すんだ! 馬の脚はその蛇より速いことが証明されだぜ!!」


 その言葉に冒険者達も、賛同し各々が、別々の方向に走り出した。誰か一人でもエポロにつければいい、数の力で押す作戦にドンキホーテ達は出た。

 デイル博士は心の中で思う。


 ――愚かな……。


 ならば、しょうがあるまい、片手に持つ紫色の石にデイル博士は語りかける。


「土魔法の詠唱を開始、閉じ込めろリヴァイアサン」


 瞬間、大蛇の黒い瞳が黄色く輝き、冒険者達を阻むように地面が隆起し始める。地面は形を変え巨大な壁となった。

 その壁は散開しようとしていた冒険者達を囲むように、展開され、さながらコロシアムのような形になった。

 デイル博士がため息をつきながら言った。


「君達はここで殺しておきましょう」


 逃げ道のない土の檻の中、リヴァイアサンとの戦いが始まった。

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