第13話 殴ってみた結果

「ブベラァ!」


 ドンキホーテに殴られた、デイル博士はそう言いながら吹っ飛び、地面に倒れた。あんぐりと口を開けたレーデンスは、一瞬の間の後、口を動かし始める。


「なにを、いや、どうして、まて、それより博士大丈夫ですか!」


 考えがまとまらないままレーデンスはデイル博士に駆け寄る。


「いってええええ、ぐあああ、いてええええ!」


 デイル博士はそう叫び声をあげる。ジェイリー博士に至っては意味が未だに理解できず、時が止まったように動かない。

 ジャックとその仲間の剣士もなにが起こったかわからないようで、同じく氷のように固まっていた。


「ド、ドンキホーテこれはどういうことだ?! なんで殴った?!」


 レーデンスはやっと頭の中の混乱した思考をまとめることができドンキホーテに聞く。


「いや、殴った方がいいかなって」


 けろり、とドンキホーテは言う。意味がわからない、レーデンスはやっと落ち着いてきた気持ちを再びかき乱される。

 ドンキホーテ、その返答は、やっと形にできた粘土細工を再びグチャグチャにされるようなものだ。また振り出しに戻ったような感覚を覚えレーデンスは言う。


「すまない、ドンキホーテ、訳がわからん」


 レーデンスは再び、頭を抱える。するとドンキホーテが口を尖らせながら開く。


「だってよぅ、こいつデイル博士じゃねぇぜ」

「……どういうことだ?」


 ドンキホーテは未だに「ぎゃあああ」だの「いったああ!」だの言っている、デイル博士の顔に指を指す。


「デイル博士の顔じゃねぇ、服装も違うじゃねえか」


 その言葉を聞いた途端、レーデンスは突如頭痛に襲われる。レーデンスだけではないジェイリー博士も頭を抑え、ジャック達も頭を痛がる素振りを見せた。

 そして頭痛がやんだ瞬間、レーデンスはふとデイル博士を見た。



 そこにいたのはデイル博士とは似ても似つかない、禿げた男が横たわっていた。


「な、どう言うことだ!?」


 レーデンスは声を荒げる。


「あれ? デイル博士はどこに行ったのです!?」


 ジェイリー博士の時間は再び動き出したがさらなる疑問に意味が分からずにいる。この男は一体誰なのか


「こいつが最初から、デイル博士を名乗っていたぜ、だから意味が分からなくてよ、殴ればなんとかなるかなと思って殴ってみたがどうやら正解だったみたいだな」


 それは正解ではないだろう、レーデンスは心の中で突っ込む。


「いや、おそらくだがドンキホーテ。お前がこいつがデイル博士ではないと言った瞬間になにがしかの術が解けたようだぞ」


 ジェイリー博士はするとポンと手を叩いた。


「まさか認識変容の魔法……?!」

「博士、なんだいそりゃ?」


 ドンキホーテの質問にジェイリー博士は説明を始める。


「認識変容の魔法はですね、認識を変化させる魔法なのです。例えば壺を牛に見せたり、植物をドラゴンに……と、ある物体を別の物体に認識させるの魔法です。」

「詳しいな、博士」

「遺跡のトラップによくある魔法ですから、この魔法を使い、侵入者を同士討ちさせるのです。

 破り方もあってですね、難しいのですが。本当の姿をこの魔法にかかった人に教えると認識に不協和が生まれ魔法が解けるのです。

 というかそもそも、なぜドンキホーテさんはかかっていないのですか?!」

「さあ? なんかあれじゃねえか、普段から鍛えてるからよ」

「私も普段から鍛えているのだがな……」


レーデンスはそう言って肩を落とす。ジェイリー博士は「ま、まあいいです」と話を続けた。


「この魔法はなにがしかの方法で、使用者の魔力を、体内に入れない限り発動はしません、いったいどこで摂取したのでしょうか……」

「なあ、それってよ、その魔力ってよ、なんかこう空気に乗せることってできんのか? なんかこうお香の中に魔力を混ぜるとかよ」


 ドンキホーテは嫌な予感がしながら聞く。


「はい、可能です、というかそれが一般的ですね」

「おい! 村の中でお香の匂いプンプンしてたぞ!」

「ということは、村で匂いを嗅いだ瞬間から私たちはデイル博士の手のひらの上にいた、という訳か」


 レーデンスは舌打ちをした。


「じゃ、じゃあ俺たちのこと信じてくれるのか?」


 ジャックは恐る恐る聞いた。剣士の男も腰の抜かした魔術師も、助けを乞うようにこちらを見ている。


「ああ、信じるよ」


 ドンキホーテはそう言うと「そうと決まれば」と、痛がっている禿げた男の服を引っ張り引きずりながら歩き出す。

 男は「何しやがる! 離せ!」と対抗するがドンキホーテの握力は闘気により強化されており振りほどけない。


「ドンキホーテどこへ行くんだ?」

「レーデンス、まだ混乱してんのか? 早く広場にいって冒険者達の魔法をとかねぇとダメだろ、大蛇の対策も練らねぇとだしな」


 ぐうの音も出ない最善の行動に、レーデンスは「そ、そうだったな」と我に帰りドンキホーテについていく。

 その後ろをジェイリー博士が「ま、待ってください」とついていく。

 ジャック達も気を失っている仲間を抱えながら、「俺たちをわ、忘れんなよ!」とドンキホーテを追いかけた。





 村の広場に着いたドンキホーテ達、集まっている冒険者達の前にドンキホーテは名乗りを上げなら立った。

 わざわざ皆が見えるようにと、そこらへんにあったちょうどいい木箱に乗りながら。

 冒険者達の視線はドンキホーテに向けられる。側から見れば今の彼が作り出している光景は異常だ

 それもそうだろう、ドンキホーテは今、禿げた男(ほかの冒険者から見ればデイル博士なのだが)の胸ぐらを片手に木箱に立っているのだから。


「おい! 冒険者の皆! 俺はドンキホーテ! 皆に真実を告げるために俺はきた!」


 ドンキホーテの後ろにはレーデンス、ジェイリー博士、ジャック達が心配そうに見守っている。


「まずは……オラァ!!!」

「ぎゃあああ!」


 ドンキホーテは再び男の禿げた男を殴る。


「ドンキホーテ……!! 殴るプロセスは必要ないぞ……!!」

「あ、そうだった! こいつはデイル博士じゃねえ! なんか、素性のしらねぇ男だ! デイル博士が雇ったんだろう!」


 すると、冒険者達は頭を抑えて苦しみ出し、しばらくすると、痛みが治まったのか再びドンキホーテの方を何人かが見る。すると動揺が広がった。


「デイル博士じゃない?!」


 誰かがそう言うと、どよめきはさらに大きくなる。


「皆、落ち着いてくれ! こんな感じでぇ! デイル博士は替え玉を用意してた! それはなんでだろうなぁ! 答えはデイル博士が今回の大蛇を……多分なんかしてんだ!

 とにかくあの大蛇が復活したのは、デイル博士が関わってる可能性が高え!」


「そこで!」とドンキホーテは叫ぶ。


「皆の力を貸してくれ! あの大蛇を倒してぇ!」


 ドンキホーテはそう言った。しかし返ってきた返答は消極的なものだった。

 一人、男の冒険者が前に出てきて言う。


「待ってくれ、俺たちの依頼は遺跡調査だった筈だ! あんな化け物と戦うような力量はねえよ! 俺は降りさせてもらう!」


 他の冒険者達は沈黙を貫いている。逆に言えば反対するものもいない、つまりその冒険者の言葉はその場にいる冒険者達の言葉を代弁しているといってもいい。

 そう、ここに集まった冒険者達は初心者の者たち。遺跡の発掘作業の手伝いに来ただけの冒険者なのだ。

 一応、魔物が出てきたときのために全員が武装はしているものの、流石にリヴァイアサンに対抗できる武器を所有してはいなかった。


「な! でもよう! じゃあどうすんだ! ここの村だって破壊させるかもしれねぇんだぞ!」

「そ、それは……」


 そうドンキホーテが問い詰めた瞬間だ。



 甲高い金属音のような音が木霊した。


 ドンキホーテはこの後に聞き覚えがあった。


「あのリヴァイアサンの動きを封じる石が壊された音だ!」


 すると西に傾き始めていた、太陽が何かに遮られる。その何かは、山の中に未だにいると言うのに、遠くからでも、そしてその広場にいる誰もがわかった。


 あの大蛇が太陽を隠しているのだ。


 その蛇は山の斜面から顔を上げて、影になっているせいでよく見えないが、どうやら村を見つめているようだった。


「うわぁぁ!!」


 誰かが叫びそれにつられて、その場にいた冒険者達全員が叫び出した。逃げろ、どこに、なんて声がそこらか聞こえる。未だ遠くにその蛇はいると言うのに。

 ドンキホーテとレーデンスはじっとその影を見つめ、ジェイリー博士とジャック達は恐怖のあまり硬直していた。


 だが、蛇は村を一瞥した後、斜面を這いずり降りていった。


「助かった……」


 誰ががいった。しかしレーデンスは気づく。


「いや、まてまさかあの方角!」


 ドンキホーテも気づきレーデンスと顔を合わせ、同時に言った。


「「王都エポロ!」」

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