第10話 覚醒②
青い炎を纏って立ち上がったドンキホーテは冷静に状況を俯瞰した。ここまで追い込まれているというのになぜこんなに冷静なのかドンキホーテにもわからない。
ただ一つ確かなのは、この胸の奥から滾るように溢れ出る、謎の力がドンキホーテを使うがしているということだけだ。
両手斧の戦士がジェイリー博士についに斧の射程内に収め斧を掲げ、振り下ろそうと力を込める。
その一瞬がドンキホーテにとって数十秒長く引き延ばされるように感じた。
ドンキホーテは近くに蹴り飛ばされても離さなかった。剣を握り直し、地面を蹴った。
ドンキホーテは弾丸のごとく加速し両手斧の戦士とすれ違い様に斧の刃の部分を柄から切断した。
その一瞬の出来事は戦士が斧を振り下ろすタイミングとほぼ同時に起こった。
戦士は手応えに違和感を、感じた斧を振り下ろしたというのに、博士の頭をかち割る感覚がない。
ふと戦士は視界の端に斧の刃が地面に突き刺さっているのを確認した。
「な……何が起こった!」
一瞬の出来事だったため戦士はもちろんその場にいた誰もが何をしたのかわからなかった。剣士が叫ぶ。
「おい! グリズ後ろだ!」
グリズと言われた戦士はゆっくりと後ろを振り向く。そこにいたのは――
頭から血を流し、両腕を力なく垂らした、青い炎を纏ったドンキホーテだった。
「よう……!」
ドンキホーテはそう言い、ニヤリと不敵な笑みを戦士に向けた。
ちょうどマジックライトと、青い炎のせいで顔に影ができ、闇の中に白い歯の三日月だけが浮かんでいるように見えるその笑みは、この世ならざるものにしか見えない。
「こいつ! 闘気に目覚めやがった!」
剣士がそう叫ぶと、ジャックの仲間たちは一斉にドンキホーテを警戒し始め、殺す標的をジェイリー博士からドンキホーテに変える。
ジャック一味はドンキホーテを取り囲んだ。
「てめえら何ビビってやがる! さっさとやっちまえ!」
痺れを切らしたジャックがそう叫んだ。その言葉を皮切りに攻撃が開始された。
まず最初に動いたのは魔術師だった。
「アースブレイド!」
そう叫ぶとドンキホーテの近くの地面が盛り上がり、円錐形の尖った大地が彼にに向かって、伸びる。
ドンキホーテは自分を串刺しにしようとするそれを、蹴りで破壊する。
続いて畳み掛けるように弓兵が矢を放った。
「遅え……!」
そう言いながら、ドンキホーテはその矢を体の軸を少しずらして避ける。
闘気に目覚めたおかげでドンキホーテの反射神経は、常人のそれとは比べものにならない。
矢を避けたドンキホーテに対して、さらに追撃をかけたの剣士と戦士だった。戦士は刃の失った斧で剣士は剣でドンキホーテに襲いかかる。
「死ね!」
そう叫びながら剣士の剣は弧を描きながら、ドンキホーテの首に向かっていく。それをドンキホーテは自身の直剣を防ぐ。
同時に戦士の刃のなくなったもはやただの鉄の棒とかした斧の攻撃を盾で防ぐ。
そのままドンキホーテは体を回転させ剣と斧を弾く。
「うお!」
剣士は思わず叫び体勢を崩した、その隙をドンキホーテは見逃さない、彼は剣をとっさに持ち直し、回転しながら、剣の刃の無い部分で平打ちを剣士に繰り出した。
平打ちは剣士の男の腹に直撃した。そのまま男は吹き飛ばされ、地面に受け身をとれぬまま着地した。
続いて同じく体勢を崩された戦士をドンキホーテは標的にする。
ドンキホーテは剣を逆手持ちにしそのまま、再び平打ちを戦士に繰り出した。
戦士の顔に剣の平打ちが直撃しそのまま戦士は気を失い、地面に倒れた。
前衛のいなくなった、パーティにもはや未来はない。
ドンキホーテは弓兵に向かって突進する。矢が飛んでくるがその一本一本が彼の目には遅く見えた。
全ての矢を剣ではたき落とし、盾の装着した左腕でボディブローを弓兵に決める。弓兵もまた、この一撃で気を失い地面に倒れ伏した。
残る魔術師の男は仲間が倒れたことにより恐怖にかられ、魔法を連発する。
「か、火球! サンダーボルト! ウインドスラッシュ!」
その全ての魔法をドンキホーテは歩きながら避け、ついに魔術師の目の前にまで迫る。そして剣を上段で構え、魔術師に向け振り下ろした。
――切られる!
そう思った魔術師は、目を瞑り両手を頭の上に守るように構えた。迫り来る痛みを魔術師は覚悟したが。一向に痛みはやってこない。
男は目を見開くとドンキホーテは剣を寸止めにしていた。
白刃が目の前に晒されているのを目の当たりにした魔術師の男は腰を抜かし、尻餅をつく。完全に戦意をがなくなったのを感じ取るとドンキホーテは言った。
「俺の……勝ちだ!」
しかしその言葉に水を差す、男がいた。
「それはどうかなぁ! 野郎ども! 結界は解除したぜぇ!!」
ジャックだ。下卑た男は、紫色の宝石につかもうと手を伸ばす。それを見てジェイリー博士が叫んだ。
「いけません! ここの遺物を勝手に触っては!」
そうここはリヴァイアサンと何かしらの関係がある場所なのだ。迂闊に触れば一体どうなるか分かったものでは無い。
しかし遅かった。ジャックは紫色の宝石を右手で取った。
「ボス、やったぜ宝石を手にした!」
ドンキホーテはそうテレパシーで話しているジャックを取り押さえようと、地面を蹴り、魔術師の男を飛び越え向かったが、邪魔をする者がいた。
「まだ、俺は終わっちゃいねぇぞガキ!」
剣士の男だ、男はドンキホーテの横から突進しタックルを彼に食らわせる。
「くっ……!」
常人ならば恐らく、意識が飛んでいたほどの衝撃をドンキホーテはもろにくらい、地面に跡を残しながら後ずさる。
安全はこれで確保された。ジャックの頭の中に声が響く。
(ではあらかじめ渡した、テレポートのルーン石を使い、私の元へ飛ばしてください)
「了解、ボス!」
ジャックは紫色の宝石を左手に移すと、青い光とともに紫色の石が消える。
「てめえ! 石をどこにやりやがった!」
ドンキホーテが吠える。
「へっオメェには教えねぇよ! どうせここで死ぬんだ!」
ジャックがそう返した、その時だ。地響きが起こったのは。
「な、なんです?」
ジェイリー博士が困惑の色を示す、ジェイリー博士だけではないこの場にいる誰もが同じく、困惑していた。
明らかに偶然に起こった地響きがではないように感じられたからだ。
するとバキィという音とともに壁の一部が割れる。割れた隙間から黒い何かが顔をのぞかせた。
巨大な真っ黒いそれは円形の形をしており鏡のようにこの広大な空間の風景を映し出していた。ジャックが呟く。
「なんだありゃあ……黒曜石の鏡か?」
マジックライトの輝きを反射するその真っ黒な鏡にドンキホーテ違和感を感じいた。
鏡だというのによく見ると円形の模様のような物があるのだ。すると突如模様が動き出し形を変えた、鏡の円形の模様は縦筋へと変わる。
ドンキホーテは気づくその鏡の正体に。
「あれは、鏡じゃねぇ!」
ゴクリと息を呑みドンキホーテは叫ぶ。
「目だ!」
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