第9話 覚醒①
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デイル博士の言葉がそうジャックの脳内に響いた。その脳内で響いた言葉にジャックは「了解」と口に出して返事をする。
そんな独り言を言っているようにしか見えないジャックをみてジェイリー博士は呟く。
「もしかして、テレパシー……?」
その言葉でドンキホーテはハッと気づく、ジャックは独り言言っていたのではない、テレパシーと呼ばれる離れていても喋ることのできる魔法をつかっていたのだ。
「お前、誰と話してやがった!」
ドンキホーテは何か嫌な予感を感じ、ジェイリー博士の前に立ち、腰に差している魔物が出てきたときのため護身用の直剣に手をかける。
ジャックはニヤリと笑い言った。
「さあ? 何だろうな?」
ジェイリー博士はその言葉を聞くと、胸元のお守りが震えていることに気づき取り出した。
「冒険者さん! この人、私たちに対して敵意を持っています!」
「わかってる! 博士、俺の後ろに!」
ドンキホーテは剣を引き抜く。ジャックはニヤリと笑い一味に指令を出した。
「お前らこいつらを殺せ、俺は祭壇にある紫の石を取ってくる」
ジャックの四人の仲間のうち一人の男が、「わかった」というとそれぞれが武器を引き抜く。
両手斧を持つ戦士が一人、剣を引き抜いた剣士が一人、杖を構える魔術師が一人、弓を構えた弓兵が一人。
それぞれが役割の被らないバランスのとれたパーティがドンキホーテの目の前に立ちふさがる。
対してこちらは、戦えないであろう博士と、闘気の使えない荷物持ち、どう考えても絶望的だ。
――逃げるか? いやどう逃げる! 相手はおそらく闘気だって使えるし魔法使いも弓兵もいる、逃げられねぇ!
だとすれば答えは一つだ、ドンキホーテは覚悟を決めて剣を引き抜く。
「俺が、相手だ!」
その言葉にジャックの仲間達は笑みを浮かべた。その笑みは笑い声に変わる。お前に俺たちが叶うわけない、という意味のこもった屈辱的な笑い。
その笑いが突如終わったかと思うと魔術師が杖を天に掲げる。
「マジックライト!」
花火のように、杖の先から光が打ち上がり、天井付近のところで止まりまるで太陽のように、広大な空間を照らし始める。
これで暗闇の中に逃げるという手段は潰された。
そしてそれが狼煙がわりと言わんばかりに、斧を持った戦士がドンキホーテに肉薄してくる。
ドンキホーテは博士を後ろに突き飛ばす、せめて巻き添えにならないようにと。
ドンキホーテは剣の切っ先向け、左手に装着していた盾を構えて男を迎撃する体制を取った。
戦士からの一撃を警戒するドンキホーテ、しかし、そのせいで後ろにいた弓兵が弓に矢をつがえているのに気づかなかった。
弓兵の頭を狙った一撃がドンキホーテを襲う。
ドンキホーテはそれに間一髪で気づき、盾で頭を守った。しかしそのせいで胴がガラ空きとなる。
そこの胴に闘気で身体能力を強化された、両手斧の一撃が迫ってくる。
その横なぎの攻撃をドンキホーテはバックステップで紙一重で躱す。
――よし!
心の中で思わず、感嘆の声を漏らすドンキホーテ、だがそれが、一瞬の油断につながる。
戦士は躱されたと見るや再び、踏み込みドンキホーテに弾丸のように距離を詰めた。
「しまっ――!」
ドンキホーテはそこからさらに追撃が来るとは思わず、反応が遅れてしまう。
戦士は斧の柄でドンキホーテの頭を殴った。
「ガッ……!」
ドンキホーテの頭から流血が起こり地面を血が濡らす。「冒険者さん!」とジェイリー博士が叫ぶ、がそれはドンキホーテの耳に入るも認知はできない。
ドンキホーテは膝をついた。
そのままトドメだ言わんばかりに斧を振り上げる戦士。そこに待ったの声がかかる。
「俺にやらせてくれ、コイツには玉を蹴られた恨みがある」
剣を持った剣士がそう言った。「いいぜ」と戦士は剣士と場所を代わり、剣士はロングソードを上段に構える。
「じゃあな坊や」
その一言とともに剣が振り下ろされた。後ろにいたジェイリー博士は思わず叫ぶ。
「冒険者さん! 起きて!」
その言葉に覚醒したドンキホーテは、剣を横に構えて剣士の剣を受け止める。十字に剣が噛み合った。
「このガキ!」
剣士は苛立ちドンキホーテを、この前のお返しとばかりに蹴り上げた。
「……!」
ドンキホーテは声も上げられず吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「そ、そんな、冒険者さん……!」
ジェイリー博士の心が絶望に染まっていく。
「おい、ジャック! こっちはだいたい終わったぞ! そっちはどうだ!」
戦士が声を張り上げ、祭壇にある紫色の石を取りに行った。ジャックに声をかけた。
ジェイリー博士はもはや標的とすら見ていないらしい。
「こっちはまだだ! ご丁寧に結界が張られてやがる! て、おい! 博士も殺しておけよ!」
ジャックはそう言い返した。博士は血の気が引き、背筋が凍り、腰を抜かしてしまう。
ジリジリと斧を持った戦士がジェイリー博士ににじり寄っていく。その光景をドンキホーテは薄れゆく意識の中でじっと見つめていた。
――体が動かねぇ……
その刹那だドンキホーテは思い出す自分の父のことを、父の死ぬ瞬間を。
ドンキホーテの父ロレンはソール国の片田舎の村に住む猟師だった。また元冒険者であり、同じく元冒険者の魔法使いのドンキホーテの母、アリアーナと結婚したのだ。
そんな両親の元に生まれたドンキホーテは、当然ように冒険に憧れ、本の中に出てくる英雄に憧れた。
毎日、庭を駆け回っては、剣を振り鍛錬というの名のごっこ遊びに励む毎日。
ドンキホーテの両親はそんなドンキホーテを微笑ましく見ていた。のちにその冒険心が悲劇を生むことになるとも知らずに。
ある日ドンキホーテは両親に何も言わずに、入ってはいけないと言われていた、森の中に入っていった。
当の本人はその無謀な行為を冒険と称して。
森の中に入っていったドンキホーテはなぜかの森の中に入ってはいけないと言われていたのかを身をもって知ることになる。
その森は魔物が出るのだ。
当然のように魔物に出くわしたドンキホーテは、叫びながら逃げた。走って走って魔物に追いつかれないようにと。
しかし子供と魔物の脚力には、残酷なまでの差があった。
すぐさま魔物に追いつかれたドンキホーテ。迫り来る魔物の爪。子供の彼にはもはやどうしょうもなかった。
ドンキホーテは目を瞑る。鮮血が宙を舞った。
しかし痛みはやってこない、目を開けるとそこにはドンキホーテの父ロレンがいた。父が魔物の攻撃から庇ってくれたのだ。
父は血を流しながら言った。
「イヴ! 逃げろ!」
「でも、父さん!」
「いいから、いけ!」
ドンキホーテは父の怒号に従い、父を置いて走った。「ごめん、ごめん」と言いながら。村に戻ったドンキホーテは叫んだ。
「だれか父さんを助けて、僕のせいで、父さんが!」
ドンキホーテは叫びながら心の中で、どこか都合のいい英雄を求めていた。ここにもしかしたら、この状況を、自分の罪も、自分の後悔も洗い流し、父を助けてくれる英雄がいるのではないかと。
結果そんな英雄はいなかった。
父はその魔物と戦い、負った傷が原因で死んだ。
「ドンキホーテ、お前が殺したんだ」そんな声が聞こえてくるようだった。
ドンキホーテは思う。自分が馬鹿だったせいだと、自分に力がなかったせいだと。そして何より都合のいい英雄などいないということを身を以て実感した。
そして同時に決意した。
「僕が、英雄だったら……父さんは死ななかった……だったら僕は、俺は、英雄になる! 都合のいい英雄がいないのなら俺がなるんだ、英雄に!!」
その決意から果たして、お前はどれほどの変わったのだエヴァンソ?
再び、自問自答したドンキホーテ、目の前で再び命が失われようとしている。
――俺は、また繰り返すのか……何もできないまま……!!
立て! 立て! 立て! 頭の中で誰かがそう呼びかける。それは頭の怪我からくる幻聴か、はたまた過去の決意がドンキホーテに呼びかけているのか。
その言葉に従いドンキホーテは立った。
淡い青い炎を纏いながら。
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