第3話 結成

「俺は英雄になりてぇ!!」


 大声でそう言ったドンキホーテの近くでジェーンは耳を塞ぎながらため息をついた。そして落ちた、藁でできた買い物カゴを拾うと言った。


「そこまで言うなら、私は何も言わない、でもねドンキホーテもし、夢を追うのが辛くなったり、嫌になったらいつでもこの「冒険者の宿」に来てね! 雇うようにお父さんに口利きするから!」


「じゃあ私、買い物行ってくるから」とジェーンはドンキホーテに別れを告げた。ドンキホーテは手を振り見送る。

 さてと、とドンキホーテは自室に戻ることにした。今日は疲れた、何もしていないと言うのに。

 冒険者の宿のロビーに入るとジェーンの父が「どうしたドンキホーテ、今日は早いな」なんて声をかけてくる。

 ドンキホーテは「クビになっちゃってさ」と軽く言い放つと父は驚きジェーンとほぼ同じこと言い出した。ジェーンの父を「はいはい」と受け流しながら。ドンキホーテは自分の部屋に戻る。

 ガチャリと扉を開けるとそこには騎士道物語しかない巨大な本棚とベット、そして小さな机が備えられたドンキホーテの部屋があった。


「ただいま、マイホーム!」


 ホームというよりルームではあるが、そう言いながら、ドンキホーテはベットの中に飛び込む。枕に顔を埋めて大きく息を吐く。顔が暖かい。

 明日からどうすればいいのだろうか、ジェーンの前ではあっけらかんとできたが、こうして一人になるとやはり不安というものはやってくるものである。

 しかしドンキホーテは自らの背中を押す様に言った。


「俺は……夢を諦めるためにここに来たのか……?」


「違うだろ」と自然に口が動く。とにかく明日こそは依頼を受けなくては。今度は一人でできることを探さなきゃな。

 ドンキホーテはそう思い、今日を休暇の日にして、1日を傷心の慰めに使った。




 次の日、ドンキホーテは朝早くから起き、準備を始める。昨日、寝る前に脱いだ皮鎧を着て、左手に小型の円盾を、左腰に剣を差した。

 なぜ荷物持ちである彼ががこんな装備を揃えているのかといえば、護身のためという理由のほかに、ドンキホーテの目指す英雄というものは、すべからく騎士だからに他ならない。


 ドンキホーテにとって英雄といえば騎士であり、騎士とは英雄の卵なのだ。


 故にドンキホーテも騎士の真似事をすれば英雄に近づけると思っている、荷物持ちの分際で剣と盾を装備してるのはそのためでもあるのだ。

 後はマントさえあればな、などと考えながらドンキホーテは冒険者の宿を出る。目指すは冒険者ギルドだ。




 冒険者ギルドの扉の前に朝早くついたドンキホーテは早速、中に入る。出迎えてくれたのは昨日の喧嘩騒ぎを止めてくれた、若い女性の職員だった。


「あら、ドンキホーテ、今日も朝早くから練習?」

「そうだぜ、アロマさん! あ! そういえば昨日はごめんな!」


 ドンキホーテは昨日の喧嘩を止めてくれたアロマに謝罪の言葉を口にする。


「全く、謝るくらいなら喧嘩を起こさないでちょうだい、止めるの大変だったんだから!」

「う……すまねぇ、俺も最初は口で諭そうとしたんだけどさぁ、どうにもあいつらが失礼なやつで……」


「言い訳はいいの!」とドンキホーテはアロマに言われてしまう。そして彼女は続けた。


「まあ、いいわ! トレーニング場、行ってらしゃい、あ、そうそう今日は先客がいるわよ」


 ドンキホーテは不思議に思った、いつもならこの時間帯で冒険者ギルド内にあるトレーニング場を使うのは、自分だけだと思っていたからだ。

 アロマに分かれを告げてドンキホーテは例のトレーニング場に向かう。するとトレーニング場に近づくにつれて、風を切る音がしてきた。


 ――剣を振る音だ。


 ドンキホーテはそう思うと、トレーニング場の中を覗いてみる。冒険者ギルドの中の広い一室を改造し、剣の稽古や、はたまた冒険者同士のレクリエーションなどにも使える、そんなトレーニング場の中、音の主はいた。


「お前は……」


 剣を振っていた者は、ドンキホーテに気がつくと、そう呟き、剣を振るのをやめた。

 ドンキホーテはその者をみると驚いて、声を上げる。


「あ! あんたは確か、えっと……!」

「レーデンス、レーデンス・ゲクランだ、ドンキホーテ」


 レーデンスはそう名乗った。


「覚えてくれてたのか!」

「恩人の名をそう忘れん」


 レーデンスはそう言うとドンキホーテは照れ臭そうにこう返す。


「恩人?! よしてくれよ、あれは俺が勝手にやっただけなんだ!」

「いや、そう言うわけにもいかん、改めて礼を言わせて欲しい、ありがとうドンキホーテ、昨日は助かった」


 ドンキホーテは「ど、どういたしまして」と照れて言う。

 今まで喧嘩をしてきて、礼を言われたことはあまりない為ドンキホーテにとっては予想外すぎる結果だった。


「そういえば、レーデンスもこんな時間から練習か早いな!」


 照れを隠すためにそう言いながら、ドンキホーテはレーデンスの隣に行き、剣を張り出す。


「ああ、いつもは人のいない深夜にやっていたのだが、今日は気分を変えて、早朝からやることにしたのだ」


 レーデンスの言葉に「そうなのか」とドンキホーテは呟きながら剣を振るう。レーデンスもそれを見て素振りを再開した。


「俺はいつも早朝からやってるんだ、なにせ早朝ぐらいしか素振りする時間がなくてさ、いつも素振りした後、ここの食堂でご飯食ってからすぐ仕事に……」


 そこまで言いかけた後ドンキホーテは、思い出す。自分はパーティから追い出されたことに。剣を振るのをやめ落ち込み、しゃがみこむ。


「あ、俺、パーティから追い出されたんだから、別に無理して早朝から、素振りやらなくてもよかったんじゃ……」


 パーティから追い出されたと言うことは、それにプラスして仕事も無くなったと言うことでもあるのだ。

「はぁ」と思わずため息をついたドンキホーテにレーデンスは話しかける。


「追い出されたのか、パーティから……?」

「そうなんだよなぁ追い出されちまった」


 それを聞くとレーデンスは一瞬、考えるそぶりを見せた後、言った。


「なら……私とパーティを組まないか?」


 ドンキホーテは、レーデンスの顔を見て驚いた顔を見せる。


「え、いいの?」


 それはこちらのセリフだ、とレーデンスは言いたかった。


「ちょうど私も、パーティを組んでいなくてな、仲間が欲しかったんだ」

「おおー俺とおんなじじゃん!」


 ドンキホーテは、喜びに喜んだ後、宣言するかのように言った。


「じゃあ、決まりだぜ! レーデンスと俺の黄金コンビ結成だな!」

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