第3話 元警察官
「さぁて、頑張るか!!」
昨日、華に株主優待券を手渡した男は、名を
父親が坂本龍馬に憧れていたので、その名前を付けられた、ある意味可哀想な男だ。
- 坂本龍馬のように偉大になれ! -
そう言われて育てられたからかどうか分からないが、山野は警察官を目指した。
警察官になる為には、柔道をやる方が得だと聞いたので、中学生の頃から柔道を始めた。
そして高校を卒業して就職したのは、希望通りの大阪府警だった。
警察では、柔道の経験者が優遇される。
警察学校時代は柔道特待に選抜され、警察学校に通いつつ柔道の練習に明け暮れた。
その甲斐あって、卒配時は東署に配属され、初総後は早々と二機に配属となった。
更に、機動隊で実績を積んで刑事となり、本庁の捜査四課、いわゆるマル暴の刑事にまで出世出来たのだ。
が、そこで山野は挫折した。
容疑者と格闘中に左足を痛めてしまったのだ。
それも生半可なケガでは無かった。
「山野さんは若いからら他の道も考えた方が良いですね。」
そう警察病院の担当医から言われて、山野は退職することを決断した。
ケガをしたからと言って、クビになるほど警察組織は人でなしでは無い。
が、残ったとしても、デスクワーク中心の部課に配属されるだけだ。
それは、山野の思い描いていた警官像とは大きく異なる。
彼の意識の中では飼い殺しに等しく、山野にとっては受け入れられないことだった。
ただ、山野が思い切った選択ができたのは、大きな後押しがあった。
それは、生涯収入を大きく超える資産だった。
マル暴担当になる前の所轄の刑事時代に、タマタマ同い年の後輩に出会った。
その後輩は、大学を出ている上に、民間企業に3年もいたから、同い年でも、7年も後輩になる。
警察組織は縦社会だから、先輩後輩の関係は絶対だ。
が、その後輩は、そんなことを気にする素振りもなく、普通に意見を言ってくる。
また、この意見が的を射ているから、山野にとっては堪らない。
大学行って、民間企業を経験してくれば、これほど人のことが分かるものなのかと舌を巻いた。
後輩の機転で、容疑者を確保できたことが度々あったのだ。
ある日、山野は張り込み中の空いた時間にふと聞いてみた。
「なんでそんな容疑者の動きが分かるんだよ?」
「オレからすれば、なんで山野さんらは分からないのかの方が不思議です。」
「チェッ!」
言い返されて、山野は舌打ちした。
これで話は終わりだと思った。
この後輩は、自分が必要と思った意見は遠慮なしに言って来るが、そうでなければ黙っている。
特に、世間話などは殆どしなかった。
が、この日は、違っていた。
後輩は、その後も続いたのだ。
「山野さんにはお世話になったんで、餞別代わりにちょっとだけ教えますよ。」
「なんだよ?」
そう言われて、山野は無愛想に返した。
が、同時に思い出した。
この後輩は、短期間の研修に来ていただけであって、この週末にはいなくなると言うことを。
「容疑者を見過ぎなんですよ。人の行動には法則があります。
「なんだそれ!?」
「それに、投資も始めた方が良いと思います。視野が広がります。」
その後輩と世間話ができたのは、それが最初で最後だった。
そして2ヶ月後、その後輩が次の研修先で腰を怪我して、警察を辞めたと聞いた。
- もったいない・・・・ -
その後輩が教えてくれたことは、その話を聞いた時は気にもしていなかった。
が、辞めたと聞いたことで、なぜか無性に興味が湧いて来た。
そこで、勧められた本を買って読んだ。
が、山野には学がなかったことから、何が書かれているか良く分からなかった。
だから、読みやすいビジネス書として出ている意訳本を読んでみた。
すると、今まで全く興味の無かったことなのに、不思議と面白く感じられた。
そこで、その後輩と同期の者を見つけ出し、連絡先を聞き出した。
そしてLINEを送ってみると、あっさり会うことをOKしてくれた。
ここから、山野の進化が始まったのだ。
以来、山野は知らず知らずのうちに彼を師匠と呼ぶようになっていた。
彼は、山野に諸子百家だけでなく、投資も教えてくれた。
未婚で寮生活だった山野は、給料の殆どを貯金していたので、20代にしては相当の預金額を保有していた。
それをそっくりそのまま長期投資に割り振ったのだ。
山野が始めた時期は良かった。
彼が今は絶好のチャンスだと教えてくれた。
だから、彼の考え方をそのまま踏襲し、長期投資を始めた。
すると、たった2年で10倍になり、今や元の200倍近くになっている。
つまり山野は、世間的に無職。
一部の世界では資産生活者と呼ばれる長期投資家になっていたのだ。
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