転生したら未亡人(子持ち)でした〜オタクの子育て日記〜

李卯

序章









 

 エステル・アプリコット、それが現在の私の名前。どういうことかというと、私には前世の記憶というものがある。私は、天野 明日香あまの あすかとして極普通の生活を送ってきた。30歳になる私は仕事して好きなことして、とても充実していたように思う。不満をいえば彼氏がいない…できなかったことぐらいだろう。まぁ、こればかりは私に縁がなかったとしか言いようがないのだけれど。



 私が、明日香が死んだきっかけはただ巻き込まれただけだった。明日香の友人の男問題で。友人は悪い子ではないのだけれど、男関係だけはとても自由だった。まさに来るのは拒まず去るもの追わず。その日は友人と買い物に出かけていて、近場のカフェへと立ち寄ったのが運の尽きだったのではと今ならいえる。

カフェに入った私たちを待ち受けていたのは笑顔で迎え入れてくれる店員さんではなく、思いつめたような顔をしたインテリ系のイケメン。首を傾げる私とは対照にはっとして顔色を真っ青に変える友人。そこからは早かった気がする。俯いて呟いているイケメンが顔をあげた途端、こちらに向かってくる。その手に持っているのは折り畳み式ナイフで、それが見えた私は友人の手を引き後ろに下がらせ向かってくるイケメンの前にでた。次いで襲ってくる痛みとともに私の意識は遠のいた。






 これが明日香としての最後だった。そして、その明日香だったことを思い出したのが、エステルが25歳。最愛の旦那様を病気で亡くし、ショックで気を失った後だった。

エステル・アプリコットは伯爵令嬢であり、旦那様だった人はエステルの幼馴染のグレイス・フェルト。商人の跡取り息子だった。とても仲睦まじい夫婦で、そんな彼グレイスはこの世に忘れ形見の娘、アリスを残しこの世を去ってしまった。だが、明日香としての私を思い出した時からグレイスとの思い出は当然なく、とても変な感じだった。ただ、娘のアリスにだけは母性本能か何か、この子は私の子だと強い想いがあふれ記憶を思い出したその日、笑顔でいる幼い娘を抱きしめて泣いた。





こうしてエステルとアリス(6歳)は実家であるアプリコット家に戻ることが決まった。

未亡人子持ちの伯爵令嬢、誕生の瞬間である。










あれから6年の月日が流れた。

私は相変わらず未亡人のままで31歳となり愛娘のアリスは11歳となった。

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