四日目 クラスの人気者は俺に名前呼びを要求してきた。

「ばか。朱兎くんのばか。」 

 透き通ったような声での罵倒とともにボフッ、ボフッ――というなにかの音が聞こえたのはほぼ同時だった。

 そしてその音が発せられる度、背中に少しの衝撃が走る。

 つまり俺はクッションで殴られつつ、クラスの人気者で美少女であり俺の許嫁である舞鶴 白華まいづる しらかによって、罵倒されているのである。

 別に学力的には真ん中くらいで馬鹿でもないし、この一瞬で学力が下がったわけはあるまい。円周率も30桁くらいなら言えるし、今なら多くの学生の頭を悩ませてきた、『筆者の思い、考えについて答えよ』という問題にも答えられる気がする。


 なのになぜ。

 なぜ俺は背中を美少女にクッションで攻撃されているのだろう。

 しかも涙目で。罵倒されながら。



 そもそもだ、今日の学校が終わってから俺の日常は突然破壊されたのだ。

 学校が終わったと思って帰宅したら、不法侵入しづらいはずのマンション、しかも俺の部屋に、舞鶴が不法侵入してきた。

 そして舞鶴私は俺の許嫁だと言う。

 その後家に上がり、着替えようとしたら自室まで覗きに来られた。

 その後は、親に電話を掛けた。その結果親は言いたい事だけ言った挙げ句あっちから電話を切ってきた。結果として許嫁は本当だと言ったため、俺はこいつと許嫁になることは確約になってしまった。

 その後、舞鶴がお風呂に入る。ちなみに「お風呂覗いても良いですからね?」と言われたものの、勿論そんなことをする度胸もない。よって俺は覗きはしていない。ていうか今の時代するやつなんているの?...あ、後ろにいたわ。

 そして風呂から出た後、舞鶴は真っ白なパーカーに真っ白なゆったりとしたズボンでリビングへ戻ってきた。名前から服装までパーフェクトに真っ白である。

 そしたら俺の隣に座ってきて、突然クッションで攻撃される。その後、攻撃と罵倒をされつづけて現在へ至る。

 やっぱりわけが分からない。どうしてこうなった。


「朱兎くんのばか。本当にばか。」

 お前はばかとしか罵倒できないのか。罵倒キャラ失格だぞ。少なくともなって欲しいとは思わないが。


 ていうか何この生き物。かわいすぎませんか?

 思ったのだが神様はこの子に色々与え過ぎではないのか?なんなの?過保護なの?天使のような美しさを持っている舞鶴のことだから神様が親とかマジでありそう。

 てか最近知ったんですけど神様の仕事って大変なんですね。オーバーワーク気味って聞きましたよ。毎日お疲れ様です。

 そんな事は置いといて何故、この可愛さの塊もとい舞鶴は罵倒しつつ攻撃してくるのか?その目的とは一体何なのか?

 その謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向か――っても意味はないため、俺は会話での解決に挑む。


突然だが賢者と化した俺は本当にどうでもいい事と今すぐ解決しなきゃいけないことを混ぜる癖は直さねばなるまいとまた思った。


「あのー舞鶴さーん?」

考え事をしていたら、攻撃が止んだ。これは早期解決も簡単か?

「返事がないただの屍のようだ。ばか。」

「お前そういうの知っているんだな。ちょっといが...おい攻撃しないでくれ」


 早期解決するのは簡単だと思っていた時期も私にはありました。早期解決する問題なんて問題じゃない。しないと身体が持たない気がする。

「舞鶴さーん?」

「...ばか」

「なんで罵りながら攻撃してくるんですかねぇ...」

「ばか。関係性を思いだしてください」

「そりゃ...許嫁...あぁ、そういうことか」


 なんだこいつかわいすぎるだろ...!!

 理由の可愛さで思わず口角が上がりっぱなしである。

明日は筋肉痛確定だろう。


 ともかく彼女の怒っている理由は単純であった。


 そう。である。

 彼女は俺に対して朱兎くんと名前で呼んでいる。

 しかし俺は彼女に対して舞鶴と名字で呼んでいる。

深い関係であればあるほど、呼び名は親しくなっていく。例えば名字→名前orあだ名のように。


 つまり簡単だ。という事だ。

「わかったよ。ごめんな。白華。」

「...っ!!!」

 舞鶴はりんごのように顔を赤くしてリビングを去っていった。

 訂正。白華はりんごのように顔を赤くしてリビングを去っていった。

 その姿は本当に可愛らしい。これはモテるわけだ。

駒鳥 朱兎という要塞は一日目にして陥落された。


 結局、八時過ぎになるまで俺の自室は白華によって占領されていた。


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