3.青春


-あの春、華のマクロファージは長い休みをとった。長い長い春休みだった。




「この研究は早海さんが学生の頃から心血注いできたものと聞いていますが…」


「えぇ。高校時代に医学部を志し、猛勉強して入った大学では、ほとんどの時間を研究室で過ごしました。」





-華は感染症に倒れた。そしてあの日のように目を開けてはくれなかった。


俺は華を守ってあげられなかった。華のマクロファージにはなれなかった。





「青春を謳歌する暇もなく、研究に尽力されてきたんですね。」


「青春…そうですね。寝る間を惜しんでも時間が足りないほどでしたが、この技術が誰かの命を救うことを考えると安いものだとさえ思いますね。」






-華はどう思うだろうか。

身体をミクロ化する技術を応用し、患者の体内に入って細胞の修復やウイルスの駆逐を行うこの"潜体"(DIVE)と呼ばれる治療法。これは、華の言葉から着想を得たものだ。従来の手術に比べて身体にかける負担が少ないこの治療法なら、小さな子どもへの様々なリスクも最小限に抑えられる。生まれつき欠損のある免疫細胞に直接アプローチすることで、これから救える命がたくさんあるはずだ。誰かの青春を守ることにもきっとなる。そう信じて、俺は今日も身体に潜る。

こんな俺を見れば「マクロファージみたい」と、華はもう一度笑ってくれるだろうか。





「医療界でも革新的と言われているこの潜体治療技術を、32歳という若さで確立された喜びを、どなたに1番伝えたいですか?」



「それは…」




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