第8話 孤独な歯車の戯言

 ぼくは、歯車なんだ……小さい頃はそう思い込んでいた。


 ぼくは、この大仕掛けの歯車の一つなんだ。


 この大仕掛けが何を動かしているのか知らない。


 そこには色んな歯車が回っていて、きっと大きい何かを動かしている。


 何を?……地球とか世界とか……歴史とか?


 だから、ぼくも、それを動かす一つの歯車として周りに合わせて、調律しないとならないんだろうなとか……


 だから、親とか先生とか周りの声に従って……ただ歯車を動かした。


 そんな、周りの声が聞こえなくなって初めて気づいた。


 この歯車をただじっと眺めていた人間が居た事。


 それがぼくなんだ……って事。


 周りで僕と同じように歯車を眺める人たち。


 ぼんやりそれを眺める僕と違い、懸命に自分の歯車に何やら手をくわえては、


 どこか別の場所に運びそれを嵌め変える。


 興味ない……僕はただ……大人たちが弄ったぼくの歯車をぼくは黙ってそれを眺めていればいい……それでぼくはこの大仕掛けの一つとして機能しているんだから……


 そう思っていた。


 だけど……理由は覚えていない。


 ただ、黙って眺めていたその歯車を一歩下がって眺めた。


 自分の歯車をまじかで見ていたぼくは初めてその事実に気がついた。


 あれ……?


 ぼくの歯車……他のどの歯車とも噛み合ってないわ……


 そんな小さなショックと同時に……


 あぁ……ぼくがいなくてもこれって動いてるんだ……そんな事を今更思い知らされる。


 むしろ……周りの邪魔をしていた空気を読んでいなかった自分にようやく気がつく。


 知っている。


 周囲を見渡した跡、虚ろな目でぼくは再び自分の歯車を見る。


 改めて見っとも無く空回りを続ける歯車。


 選択肢は二つ。


 皆の邪魔をしないようにこの歯車を外して粉々に壊してしまうか……


 このまま、周りの迷惑を顧みずこの大仕掛けで回り続けるつもりでいるのか……




 泣言くちをひらいているなら、足を動かせ。

 

 眺めているだけなら、手を動かせ。


 結局、自分のためにも誰のためにも動いていないその歯車。


 どうせ壊れるなら……


 ぼくはその歯車にぼくの戯言もじを刻む。


 その歯車がそこにそぐわなくても構わない。


 例えその結果が誰の目に止まらなくてもかまわない。


 やがて、それは誰よりも早く壊れるのだろう


 なら、せめてぼくはぼくとして壊れろ。

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