モナリザは泣いている

ジュン

第1話

「ルーヴル美術館に行って来たわ」

美紀子はそう言った。

「いいわね」

美紀子の親友の幸恵は羨ましそうにそう言った。

幸恵は続けて言った。

「もちろん『モナリザ』がお目当てだったんでしょう」

「そうよ」

「で、どうだった?感動した?」

美紀子は寂しそうな表情になった。

「どうしたの、美紀子ちゃん。『モナリザ』って思ったほどでもなかったの?」

「素晴らしい絵だったわ。でも……」

幸恵はきいた。

「でも、なんなの」

「孤独を感じたわ」

「孤独……?」

美紀子は言った。

「『モナリザ』って、防弾ガラスに密閉されてるの。観に来た人は、一定の距離より先には近づけないの」

美紀子は続けて言った。

「『モナリザ』は、たくさんの観衆がいて、孤独を感じていないようだけど、どの観衆とも親しくはなれない」

幸恵は言った。

「そうね……」

「『モナリザ』の微笑は、きっと哀しみを自身の宿命として受け入れようとしている精一杯の表情なんだわ」

美紀子はそう言った。

幸恵は言った。

「でも、『モナリザ』の微笑には喜びも含まれてると思うわ」

「なぜそう思うの」

「美紀子の哀しみの視線と『モナリザ』の眼が合ったとき、『モナリザ』はきっと救われたと思うの。なぜなら……」

幸恵は続けて言った。

「『モナリザ』の心境に同情してくれる人がいるとわかるのだから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モナリザは泣いている ジュン @mizukubo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ