白く白く白く黒く

エリー.ファー

白く白く白く黒く

 オセロを一緒にした時のことを思い出してしまう。

 確か、あれは子供の時だった。高校生、いや中学生。小学生だったかもしれない。

 とにかく、そうまだ誰かに教えられる立場であった頃の話だ。

 僕は、君と、オセロをしていた。

 負けてばかりだった。

 勝ったことなどない。

 いつも君が、かつ。

 いつも君が盤面を支配していた。

 僕は、それが悔しくて。

 それで。

 憎かった。

 君のことも憎かったし、こんなオセロなんていう遊びを開発した人も嫌いだった。

 力なんていうものを、こうやって見える形にしてしまう。そういう文化が、遊戯が嫌いだった。

 勝てればよかったわけだけれど、僕からすれば、そんなことは重要な要素ではなかった。分析もしなかったし、目の前の事象をただ受けいれるだけで精一杯だったのだ。

 嘘をついたこともあった。

 そういうルールがあるからそれは反則だ。やってはいけない。君の負けだよ、負けを認めろよ。

 でも、二回目の時には、君はちゃんとそのルールを覚えていて僕にしっかりと勝ってきた。作られたルールを、正攻法で利用することもできたし、そのルールの穴を見つけて戦ってくることもあった。

 オセロが強いとかしういう話ではなかった。

 僕からすれば君という存在は、僕の上位互換だった。似ているなんて思ったこともない。正直、同じ人間なのかと考えたこともあったくらいだ。

 静かに、一人で静かに。

 オセロをやりたいと何度思ったことだろう。

 でも、オセロは一人ではできない。

 だから、君と遊ぶしかない。

 ほかにもオセロをやってくれる人はいたのだろうが、僕にとってはオセロの相手というのは君しか存在しておらず、この世界は余りにも狭かった。

 僕にとっても、君にとっても、一つのコミュニケーション手段に一人の存在という不文律があったのかもしれない。自分では、それが完全な条件として人生に突き付けられているような気がしていたから、窮屈でもなかった。

 僕にとって、オセロは苦痛だったのだ。

 白も黒も嫌い。結果的にチェスも嫌いだし、囲碁も嫌い。白黒つける、という考え方も嫌いになっていった。

 そして。

 気が付けば。

 僕はオセロをやめて。

 走りだしていた。

 長距離をやっていた。

 どうやら僕には、その方面の才能があったようだった。自分でも気づかないうちに繰り返された、努力は僕の中の何かを引き出し、結果として僕を遠くまで運んでくれた。

 会いたかった人がいたわけでもない。会えないような状況に自分を追い込みたかったわけでもない。

 重要なのは、僕だけが遠くにいて、皆が僕の背中を見ていることだった。

 僕は。

 僕はもうオセロに執着することはなくなった。

 たまにオセロをやって、勝った負けたを感じている。しかし、そこまで強い感情が湧きがあってくることはない。

 寂しいということもない。

 嬉しくもない。

 不安もない。

 そのまま数年間。

 僕に残ったものは、長距離だ。

 ただ走るという単純なものだったが、僕は少しだけ自分のことを好きになっていた。

 君は今、どこにいるのか。

 オセロが得意な君はどこで何をしているのだろうか。

 知りたくなって探したが、見つからないままこの歳になってしまった。

 オセロをしたいわけではない。

 ただ、君を殺すためだけに、今宵も白黒つけたいがために会いたいのだ。

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