第39話

「クルミが,

教室の前に来て,

僕を呼んだんだ.

力を貸して欲しいって.


もう,何か…

そこまでされて,

逃げ続けるの駄目だと思って.


多分,聴くことによって,

僕の贖罪.


僕が今出来る事をしたい.」


「八雲,すげぇな.」

肩をポンと叩いたら,

クシャッとした顔で俺を見た.


「胸貸してあげてもいいぜ.」

と言ったら,


「泣かない.


泣きたいのは,

きっとクルミの方だ.」

と八雲が言った.


自分の時間が流れるように,

他の人も他の人の

真剣な時間が流れているんだなと思えた.


「あっ話し込んじまって,

昼休み終わるわ.」


「はい.」

と言って八雲は階段を下りてった.


上がると,サクラが待ってた.


どうだったとも聞かず,

黙って教室まで歩いた.


今の音色は,

どうなのって,

八雲に

聞けば良かったか,

聞かなくても良かったのか,

ぐるぐる考えたけれど,

例え聞いたところで,

俺が出来る事は

さらさらないような気がして,

これで良かったんだって思い込んだ.





「サクラぁ.

知らない人がパラパラいたけど,

どこで何やってる人たち?」


「多分,木管パートと金管パートで

分かれてると思うけど…


教室もう少し細かく分かれてるかも.

あっちの教室.」

俺たちの教室がある棟をサクラが指さした.


「ちょっと,八雲の事コノハ先輩に聞いてみる.

だめだったら,同じ3年の先輩がいたよね?

その人何か知ってそう?」


「仲がいいから知ってるかも.

でも,何て話すの…?

首突っ込んでいい事ないわよ.」


「分かるけど…

あん時,サクラの表情が読めなさ過ぎて.」


「知らぬ存ぜぬが良い時もあるわよ…」


むぅ.

確かにね…





飽きずに,

毎日ループで音楽聴いて,

自分と曲が

マーブル模様.

このまま,混じって溶けて,

同じ一色になっちゃわないかなとか,

絵具みたいに.


何色になるんだろう.

絵描き終わって全部絵の具混ぜたら,

黒が強くて全部黒になる.

真っ黒になるのだろうか.


あの色がいい.

スカッと抜ける空の色.

爽やかな青と,透明な色と,白と…

混ぜ込んで.


だけど,

結局は

自分は自分で,

音楽は音楽なんだ.


どっかで,分かってる.

多分,

何かから逃げたいだけなんだ.


逃げて,引き戻されて,

逃げて,引き戻って.

きっと,

苦しくなった時,その繰り返しで,

いつか逃げなくなって,

多分,

真っ直ぐ歩ける.


ふらついたり,

ぐらついたり,

1人で歩いてるように見えても,

誰か隣で歩いている人がいたり,

全然違う人が歩いていたりするように見えても

交差したり,

きっとそうやって,

生きていく.








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