第26話 文花編集長、同性刑事の嫉妬にさらされる
文花の思いをよそに、遠藤刑事はぐいっと踏みこんで来る。
「では、お訊きします。本日の午後4時ごろ、あなたはどこで、なにをしていましたか?」「映画の打ち上げパーティで、関係者のみなさんとご一緒していました。どなたに訊いてくださっても大丈夫ですので。わたしのアリバイ、完璧ですよね」
訳知り顔にアリバイを持ち出したのが癇に障ったのか、平安美人のような切れ長の目をすっと細めた遠藤刑事に「みなさんとはだれとだれですか? 会話を交わした人の名前を、漏れなく、具体的に挙げてください」ぴしゃりと決め付けられる。
「では、申し上げます。わたしがお話したのは、シネマビレッジの清田社長、佐藤プロデューサー、日日新聞の鷹野記者、高砂ローカルの立石記者、通信社文化部の上原記者です。でも、みなさん、殺人には関係ないと思いますよ」「訊かれたことだけを過不足なく答えてください。判断の可否を下すのはわれわれ警察ですから」
「申し訳ありません」つい余計なことを付け加えた文花は、叱責に率直に詫びる。
――どうやら、ここでもわたしは、いい印象を持たれていないらしいわね。
少女時代から付きまとわれて来た宿命を、文花はさびしく認識せざるを得ない。
幼少期はまだ穏やかだったが、中学、高校と思春期が深まるに連れ、なぜか女子から疎外されるようになった。とくに高校では、図体、態度、声、すべてにおいて大きい女ボスの支配下、10人足らずのクラスの女子の、だれひとりとして文花と口を利いてくれなくなった。40人近くいた男子は、遠巻きに見守るだけだった。
小賢しい生徒によるいじめは、担任教師の目の届かない場所を選んで行われる。
休み時間は文庫本を友とし、昼食はいつもひとりで食べた。教室の移動のときもぽつんとひとりだった。唯一の駆けこみ寺は剣道部の部活で、脚や腕に
言葉に棘を含ませる遠藤刑事もまた、いわれなく文花を敵視する同性のひとりであるらしい。「でも、1時間半にわたるパーティのあいだ、ただの一度も席を外さなかったわけではないでしょう? お手洗いとか、お化粧直しとか、いろいろあるでしょう? イケメン俳優さんの手前、顔の脂も気になるでしょうし……」ノートパソコンのキーボードに向かっていた女マッチョが大仰に噴き出してみせる。
――ほおら、来なすった。先刻から、それこそ孔の空くほどわたしの顔のパーツパーツを睨んでいたから、そろそろ来るころかなと思っていたら、やっぱりね。
同性の顔にありありと浮かぶ嫉妬をいやというほど見せられて来た文花は、遠藤刑事の挑発に乗らず、さらりと受け流す。「そういえば、たしか二度ほど……」
「それは何時と何時ですか? 会場へもどったとき被害者は会場にいましたか?」「最初は午後3時ジャストです。携帯電話で確認してから抜け出したので、間違いありません。二度目はそれから30分ほどあとです。林美智佳さんは、そうですね二度とも会場にいらしたような気がします。自信はありませんが……」
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