第二話

 2:

 これはお化け屋敷……なんだろうなぁ。

 なんで入って早々、お化け屋敷なのだろう……。


 遠目で見ると、おどろおどろしいイラストが描かれた入り口に、亡者のオブジェが置いてある。


 本当に小さな子供だったのなら、ここで身震いの一つでもしそうなのだが。

 だが近くに寄ってみると、オブジェがくたびれていて妙に哀愁を漂わせていた。


「よっし、入ろうかの」


 入場と一緒に別売りで販売していたチケット束から、一枚を千切り。兄と一緒に中へ入っていく。


 そういえば、施設でも遊園地に入った事があった。


 あまり覚えていないけど、あの時はまだ本当に小さい頃だったから、お化け屋敷なんて入れなかった。


 施設のみんな……元気かな?


 と、中に入ってみて、すぐさま私の思考は停止した。

 せざる終えなかった。


「…………」


 どうしよう。


「ほー、こんな感じなのかー」


 隣で兄が間延びした声音で、そうぽつりとつぶやいた。


 ……どうしよう。


 まったく怖さが見当たらない。


 通路は薄暗いといえば薄暗いが、左右の壁にゾンビみたいな亡者が立ち並び、たまに血みどろの手の束が。


 ただ『置いてある』ってだけ。

 それっぽい、おどろおどろBGMに……なんだか生臭いにおいがする。

 怖いって言うか……

 気味悪いだけだった。


「怖くなったか?」


 兄の軽口。

 私の引いている様子で思ったのだろう。


「そんなわけないでしょ」


 妙なうんざり感がしつつ、兄へ言い返すと、


「腰抜かすなよ」

「するわけないよ!」


 しないから。こんなんじゃ絶対しないから。


 そのまま、『絶叫! 惨劇の館』という名前のお化け屋敷の中を歩いていく。


 ありきたりな名前だなあ。


 ひゅ~どろどろという、迷ったような笛の音BGMを聞きながら、たまに生ぬるい風が吹き(やっぱり生臭い)――左右の阿鼻叫喚しているオブジェを見ながら。


 不気味な物体を鑑賞して歩いてるだけ。


 ……本当に何にもないなぁ。


 テレビで紹介されるホラーアトラクションでは、スタッフがお化けの格好をして驚かしたり……もっとこう、わーきゃーぁ! な様子を紹介していたが。


 人がいないのかな?

 そんな風にてくてく歩いていると。

 ぷしゅーぁあああ!


「うお!」


 びっくりした。

 真横から白い煙がいきなり吹きだしてきた。


「おおー」


 前方で兄も感嘆めいた声をもらしている。

 離れると、白い煙がすぐに止まった。これは不意を打たれた。


 と――


 兄の笑いをこらえる声が。


「やっぱり怖いんじゃねぇか」


 むかっ。


「いきなりでびっくりしただけです。もう」


 本当にびっくりしただけなのに、『おにい』は怖がっていると思ったらしい。

 兄は口を力ませて笑いをこらえている。


「本当だから!」


 そんな兄の態度に、語尾を強めて言い返すが、この弁解は逆効果だったらしい。


「あー、わかったわかった。いくぞー」


 私が怖がっていると思われている。

 でもこんなところで言い合いなんてしたら、回りに迷惑がかかるし。


「くっ……」


 お化け屋敷『絶叫! 惨劇の館』終了。

 どこに惨劇、があったのかは、

 謎だ……。

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