エピローグ キョウダイふたり

第一話

 1:

「お前、本当に石頭でよかったの」

「…………」


 龍道は龍之介に背を向けたまま。


「俺は、お前に謝らなきゃならん」


 お互いに、顔は見えない。龍之介の前には龍道の背中だけが見えていた。


「親子の絆は何よりも深いという考えは、もう古いのかもしれんの……」


 龍道がため息をつきながら、小さく首を振った。


「世知辛ぇ、世知辛ぇな。龍之介よぉ、本当に泣けてくるぁ」


 龍之介は黙ったままだ。龍道が続ける。


「何信じたらいいのか分からなくなりそうや……信じれなくなりそうや」


 龍道の背中は自信なさ気に小さく見えて、龍之介は大きな背中に感じていた。


「龍之介よ。俺もお前も秦太郎のやつも、女の子一人に振り回されっぱなし。大の大人が揃いも揃って、情けねぇや」


 龍道の言葉を聴きながら、龍之介が鼻をすすった。


「暴れ龍言うたかて、俺のただのあだ名や。それ以上もそれ以下もない。二代目とか言われても、まったく誇らしくもなぇやな。そうだろう? 少なくとも、俺にとっちゃあ昔の青かった頃の、恥かくだけのあだ名だ。たったそれだけや」


 龍道のため息。


「馬鹿は休み休みにやりやがれ。お前は本当に……馬鹿で気が短くて、難しいことも分からん。泣くにも泣けんような――」


 龍道が首を動かして、背後にいる龍之介を見る。龍之介は確かに後ろにいた。


「馬鹿めが……何がそんなに悔しい」


 後ろにいた龍之介をちらり見て、呆れがちに呟いた。


「もし、お前が全うに人生歩んでいても、そうでなくても……あの子はお前の妹で、あの子にとって、お前はたった一人の兄貴や」


 龍道の叱咤は低い声ながらも、静かで温かみのある声音だった。


「馬鹿息子……青子には話を通してある。羽織の破れた所、繕って直してもらえ」


 龍道は龍之介の声を受け止めるように、一度間をおいて、


「泣き止んだらとっとと行ってこい」


 龍之介は拳を震わせて、垂れてくる鼻水を何度も何度もすすり、ぼろぼろと止まらない涙を流しながら、必死にしゃっくりを抑えて、


 すすり泣き続けた。

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