第六話
6:
とぼとぼと、兄と一緒に学校から帰る。
いざ二人きりになったら、まったく話す事が無かった。
何で黙り込んでしまうのか、それすらも分からない。
何か話さなければ気まずい空気が続くばかりと思っていても、何を話そうか思い浮かばない。
草履を履いた兄の靴音を聞きながら、やや斜め後ろを歩いていると兄が。
「お、あの車かっこええ」
「あの赤いやつ?」
「うん、そうじゃ」
「そうだね……」
「かっこええのぅ」
…………。
また会話が止まった。
十分くらい歩いただろうか。アパートまでもう半分ほどになるだろう……。
またとぼとぼと、半ば途方に暮れた気持ちで歩いている。
思い切って、切り込むような心持ちで言ってみた。
「お兄さんは、その……今まで、子供の頃とかどうしていたんですか?」
「ん? 俺か?」
兄の龍之介は、少しばかり逡巡して。
「その日暮らしにだらだらしてた、それから武玄組との事があって、それから今までそれっぽいことを、な」
適当な言葉は、なんだかはぐらかされたように感じる。
ふと歩みを止めると、兄も歩みを止めて私と向き合った。
「えっと、でもヤクザって……」
「まぁ世間で言う『暴力団』やな」
――言っちゃったよこの人! 『暴力団追放ポスター』の前であっけらかんと言っちゃったよこの人!
龍之介の背後の建物に、暴力団追放! という、まだ真新しいポスターが貼られていた。ついでに言うと、どこか遠くで救急車のサイレン音がぴーぽーぴーぽーと聞こえてきていた。
仕切り直して――
「まじめに働いたり、まっとうに生きようとか、しないんですか?」
確かB級映画みたいな話だと、恋人とか愛する人との静かな生活を求めて、足を洗って逃亡するという話があった。
「俺の事はええねん」
ぽつりと、こぼれるように言う龍之介。
「俺の事は気にすんなや」
「だけど――」
私の頭の上に、兄の手のひらが乗った。
「俺の事はええねん。俺はおまえのお兄やんじゃき、俺がお前を守るけん」
そう言ってくる兄龍之介の顔は、どこか遠くにいるような顔だった。
「優しいの、お前は」
優しい手つきで、頭を撫でてくる龍之介。悲しく安心したような顔。
「近くに大きいスーパーがあるけ、何か買って行こうや」
「……うん」
アパートまでの帰り道から外れて、二人は大型スーパーへと向う。
私と会うまでの兄は、いったいどうしていたのだろうか……?
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