どんな私でも愛して

栫夏姫

第1話

 私は今日この学園に転校する。




 つい1年前、部活で帰りが遅くなってしまったから早く帰るために細い近道を使って帰ろうと思った。

 しかし、思いつきでとったその行動が悪かった。

 気づいたときには私は複数の男に囲まれ、抑えつけられ、輪姦されていた。


 男達は自身の性欲のままに私のことを好き放題に犯した。大切に残していた私の処女はニタニタと笑った男達に簡単に奪われた。最初は抵抗してみたが、すぐにそれが無駄なことだと察して男達に好きなように私の体を触らせた。

 一通りやり終え、私がなんの反応もしなくなると、私をその場に放置してどこかへ逃げるように去っていった。

 私は、乱れた制服を直してそのまま帰宅した。

 当然帰ると母に帰りが遅いことを問い詰められたが、そんなことはすぐに母の頭から消え去った。

 明らかに異臭のする私の体や髪を見て何があったのかを問い詰めたのだ。

 そこで、私が先程輪姦されたことを淡々と伝えると、母はすぐに警察に通報し私は病院で心の治療を受けることになった。

 そして、1年の療養を終え私の転校の手続きをしてくれた。




 1年経ったが、当然の如く私を輪姦した男達は見つかることはないが、私にとってもうそんなことはどうでも良いのだ。

 こんなことが起きたから私にも運が回って来たのか、私が本当に好きな幼馴染と同じ学校に転校できるのだ。

 入学の際は偏差値が少し足りず入学できなかったが、それから猛勉強をしたおかげで見事偏差値が合格点に達し、晴れて幼馴染と同じ学園に通えることになったのだ。



 彼は昔の約束を覚えているだろうか。

「大人になったら結婚しよう!」

 小さき日に約束した。私と彼の初めての契約。

 彼は汚れてしまった私を受け入れてくれるだろうか。

 こんな複数の男に凌辱され、彼のために残しておいた処女を失った私を愛してくれるだろうか。

 ううん、彼はそんなこと気にしないだろう。優しい彼はまた私のことを抱きしめてくれる。愛してくれるだろう。

「待っててね。今会いに行くから」






 秋が終わり冬になり始めた頃。

 俺のクラスに時期外れの転校生が来るというのだ。

 しかし、あまり興味も湧かず人が増える程度の興味しか抱いていなかった。

 そのくらいの認識だった。そう、彼女に会うまでは。


 教室に入って来た彼女は長めの黒い髪を2つに結んだツインテール、暖色系のメガネをかけたカーディガンを羽織った女の子。


 クラスからは可愛い女子が転入してきたと歓声が上がる中。

 俺だけが彼女を知っていた。


 田村初美たむらはつみ、幼馴染の初美だったのだ。


 子供の頃毎日のように遊んでいた幼馴染。俺が親の仕事の都合で引っ越してから全く連絡を取っていなかったが、ひと目見て初美だとわかった。

 しかし、初美の瞳はどこまでも遠く、引きずり込まれてしまいそうな黒い色。だけど、その瞳には光がなく何かを探しているように教室を見回しているのだ。

 だが、俺と目が合った瞬間彼女の瞳に光が灯り、表情も瞬時に明るくなった。

「初めまして、田村初美と申します。時期違いに転校してきましたが、皆様どうぞよろしくお願いします」

 ツインテールの見た目とは裏腹に柔らかい物腰で自己紹介を済ませ、質問をするために男子生徒大勢が手を上げた。

「加藤、質問しろ」

 挙手した生徒を担任の教師が指差し、男子生徒が勢いよく起立する。

「彼氏はいますか!?」

 他の男子が聞きたかったと言わんばかりの質問をして、回答を待つ男子生徒達。

「彼氏はいません」

 その答えにクラス中の男子がまたもや歓声をあげる。

「でも、心に決めた人がいます」

 はっきりとそう答えた彼女は教師に指定された席まで移動しホームルームが再開される。

「やっと会えたね…… 迎えに来たよ……」

 自身の机に向かう途中、俺の机の横を通る際に俺にしか聞こえないような、小さな声でそう呟いた彼女は恍惚な表情を浮かべていた。

 俺はその表情を見た瞬間背筋が凍る感覚を覚えた。

 頭の中で何かがおかしいと思っているのが何がおかしいのか分からず、ずっと考えていた。

「おい、小野おの。小野!何してんだよ!集会始まるぞ!!」

「あ、すまん。今行く」

 肩を叩かれて意識が現実に引き戻される。あの瞳、あの表情を見た時に、昔の彼女とは違う見えない深い闇のような物を感じたのだ。

 クラスメイトに声をかけられた時、教室には俺とそのクラスメイトだけとなっていた。

「教室鍵閉めないと行けないんだから早くしてくれよ」

「悪い悪い、すぐに出るから許してくれよ」

 俺は言葉通りすぐに教室を出て集会の会場である体育館に早足で向かった。

 集会中も先程の表情がずっと頭の中で思い出されて、集会の内容は半分も頭の中に入っていなかった。

 


 集会が終わり教室に戻ると担任がまた戻ってきた。

 今日は授業がない少し変わった日程なのだ。

「とりあえず提出物集めるから出席番号順にもってこい」

 担任がだるそうな声でそう伝え、生徒らは各々提出物を教卓に向かう。

「田村さんはちょっとこれから必要な書類と軽く面談があるから一緒に職員室まで来てください。先生が戻ってくるまでは自習をしててくれ。くれぐれも騒ぐなよ」

 提出物をまとめ終え、担任が彼女を指名し一緒に教室を出た。

 二人がいなくなった途端、教室は彼女の話題でもちきりとなった。

「田村さん本当に可愛くね!?俺狙っちゃおうかな!」

「いや、でも心に決めた人がいるとか言ってなかったか?」

「関係ねぇよ。惚れさせちまえばこっちのもんだろ」

 クラスでは彼女をどう落とすかを男子生徒たちが話し合っている。

 なぜ、誰も彼女のあの瞳に疑問を持たないのだろうか。

 俺には理解ができない。






 私は担任の教師に連れられ職員室に向かっている。

 正直言って面倒くさい。しかし、彼と同じクラスになれたのはやはり運命なのだろう。

 彼と目が合った瞬間の興奮は今でも忘れられない。

 やっとスタートラインに立てたのだ。

「改めて、俺は担任の後藤だ。と言っても一年も終わりに近づいてきているからあまり長く付き合うことはないと思うが、田村の前学校での話は聞いている。何かあったらいつでも言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

 こんな話早く終わらせて彼のいる教室に戻りたい。

 それから、この学園のことや特徴。行事や各教室の利用規則などをの話を聞いた後、私は担任から開放された。

「俺は、提出物などをまとめてから戻るから先に戻って自習してなさい。クラスの奴らと親睦でも深めなさい」

「わかりました。失礼します」

 教室に近づくと自分のクラスから声が漏れているのが聞こえた。

 どうやら私のことを話しているようだ。

 どうやって落とすだとか、振り向いてもらえるかだとか、本当にくだらない。

 やはり彼以外の男はみんな1年前の男と変わらない。

「お!帰って来た!!」

 私が教室に入った途端、一人の男子生徒が声を上げた。

 転校初日だ、こうなることは当たり前だとは思うが少し鬱陶しい。

 瞬時にクラスメイトに囲まれ、質問攻めに合う。

 それに愛想笑いをしながら答えている時、彼の席で彼と楽しそうに談笑している女を見つけてしまった。


 誰だあいつは。私の彼と何を話しているんだ。彼は私のだ、お前みたいな女が近づいて良い男性じゃない。

 ボディタッチまでして親密そうにしている。彼もその女もまんざらでもなさそうな顔をして楽しそうにしている。

 私の彼に触れるな

 離れろ……離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ……!


 私の思いが通じたのか、彼が私に気づいて目が合った。

 私に気づいた瞬間、彼の顔が変わったのだ。

 彼はあの女に付きまとわれて困っているんだ。それで今私に助けを求めてるんだ……

 助けなきゃ。私が彼を助けないと……





 彼女が教室に帰ってきてからまた目が合った。

 彼女は先ほどと同じような恍惚な表情を浮かべており、何を考えているのか全く検討もつかない。

 だが、確信できたことはある。彼女は俺が子供の時に遊んでいた田村初美ではない。

 違うということが分かったところで何が違うのか分からない限り、俺の疑問は晴れることはない。

「ねぇ!圭太けいたってば!!話きいてる!?」

「ああ……聞いてるよ。クレープが食べたいって話だろ?」

「違うよ!!ハンバーグ今日作ってあげるから今日一緒に私の家に行こうって話をしてたの!圭太もあの転校生に釘付けなの!?」

 頬を膨らませて起こるのは俺の彼女の杏奈あんなだ。

 一年以上付き合っている彼女で、将来結婚しようという甘い約束までした人物だ。

「ちがうよ、ちょっと考え事してたんだ。ところでハンバーグはちゃんと焦がさないで作れるんだろうな?」

「ちょっと!馬鹿言わないでよ。こんなでも調理部なのよ?自身たっぷりよ」

 胸を張るようにそういう彼女を見ながら、本当に愛おしいと思った。

 この他愛のない日常を失いたくない。

 そんなことを考えていると担任が教室に帰ってきた。

「おら、席につけ〜!今日は知ってると思うがこのホームルームが終わったら学校は終わりだ。各々テスト勉強や部活の自主連に励め。以上だ、解散」

 だるそうに言いながら担任は教室を出た。

 集会だけと言っても集会とホームルームだけでもう時刻は14時を回っている。

「じゃあ私ちょっと調理室に材料を取ってから友達と少し話してくるから15半に昇降口で待ち合わせね!」

 そう言って杏奈は教室を出ていった。

「少し図書室で時間でも潰すか……」







 あの女と彼の話を盗み聞きした。

 彼と一緒にご飯を食べるなんて許さない。

 今日でしないと……

「ねぇ杏奈さん。ちょっといいかな?」

「ん?どうしたの?確か田村さんだよね。私に何か用かな?」

 不意に話しかけられた女は振り返り驚いたように私を見た。

「あの、私調理部に興味があって……杏奈さん調理部だって聞いたから話とか調理部のこと聞きたくて」

「そうだったんだ!私今からちょうど用があって調理室に行くところだから一緒に行こうか」

 私はこの女と一緒に調理室に向かうことにした。

 今から殺されると言うのにのんきな女だ。

「ここが調理室だよ。今日は部活動はないけど調理部のメンバーだったら放課後いつでも使えるよ」

「そうなんですね。ところでさっき話してた人は?」

「ああ、圭太?私の彼氏だよ」

 彼氏?今この女、彼が自分の彼氏って言ったの?

 そっか……彼はこの女に弱みとかを握られているんだ。それで仕方なく彼氏を演じてるんだ。

 許せない。やっぱり私が彼を助けてあげないと。

 気づいた時には私はこの女の首を力いっぱい締めていた。

「なっ……!?なに……するの……!!離して……!!」

 彼を貶める女は私が排除する。

 ずっと首を締めているとだんだん白目を向いてついには泡を吹き始めた。

 首がだらんとしたので手を話すと、そのまま力なくその場に倒れた。

 一応脈を確認したが、大丈夫だ。死んでる。

 そういえば冷蔵庫に食材があるって言ってたな。

「材料はハンバーグね」

 私は調理室の鍵を締めて、ハンバーグの食材を調理台に並べた。

 そして、死んだこの女も。

「さて、お料理しようかしら」

 包丁でまずは四肢を切断する。切断面からは死んだばかりだからか、血液大量に吹き出した。

 腹を裂き、内臓を取り出し使える肉だけをボウルに移した。

 使えない部位などはゴミ袋に捨てて、血液が吹き出して汚れた調理台を綺麗にしてから女の肉とひき肉を混ぜ合わせ、形を作る。

「彼、喜んでくれるかしら。彼の大好物のハンバーグ♡」

 じっくりと焼いて盛り付けて、彼が来るのを楽しみに待つことにしよう。






 遅い、15時半を過ぎても杏奈が来ない。

 友人と話してて遅れるなんてことはよくあったが、その際には必ず一報がいつもあった。

「調理室に行ってみるか」

 俺は上履きに履き替え、調理室を目指す。

「ん?鍵が閉まってる……?おーい!誰かいないのか?」

 中から少し物音が聞こえるから誰かいるのは間違いない。

 足音共に調理室の扉が空いた。

 ゆっくりとその扉が開かれた。

「田村……」

「圭太待ってたよ。ほら、早く入って圭太のために料理作ったんだよ」

 子供のときのような明るく元気な声ではしゃぎながら。彼女は俺の手を引っ張り調理室の中に入っていく。

 なんだ……この妙に生臭い匂いは……

 何かがおかしい。本当に何かがおかしい……前に来た時はこんな匂いしたことがない。

「お、おい田村……久しぶりだな。ところで杏奈って子を見なかったか?」

「圭太……私の前で他の女の名前を出さないで。怒るよ?」

 ギロリと俺を睨んだと思えば、すぐにニコニコと笑顔に戻り。彼女が用意したという料理の準備をし始めた。

「ほら、圭太。これ食べて…… ハンバーグ!」

 彼女が俺に出したのはきれいな焼き色をしたハンバーグだった。

 食べなければ何をされるか分からない……

 俺は恐る恐るハンバーグを口に運んだ。

「う、美味い……」

「本当!?うれしい!頑張って作ったかいがあるよ!

 は……?今、なんて言った……?俺に食べられて杏奈が喜ぶ……?

「あ、言ってなかったね。そのハンバーグね。使?」

 その瞬間、俺はこの部屋の生臭い匂い、杏奈がいない理由、俺がこの女に抱いていた恐怖が全て分かった。

「おえええええええ!」

 口に含んだハンバーグを流し台に吐き出し急いで口の中をすすぐ。

「杏奈に杏奈に何をした!幼馴染の革を被った殺人鬼!!」

 俺は女の肩を掴んで思い切り揺らす。

 こいつが何をしたのかなんて分かりきっている。でも、現実を受け入れたくないんだ。






 なんで彼はあの女が死んだのに涙を流しているんだろう。

 なんで私が一生懸命作った料理を吐き出すんだろう。

 なんで私の肩を掴んであの女の名前を何回も叫ぶんだろう。

 

 ……分かった。きっと彼はあの女に心まで毒されてしまったんだ。

 あの女のせいで正常な判断ができなくなっているんだ。

 きっと、少し時間が経てばまた私を愛してくれる。

 妻として、彼をしっかり支えないと。

 でも、今の今まで彼の体にはきっとあの女の料理が吸収されているだろう。

 そのせいでこんな毒に侵されているんだ。

 なら、私がその毒を取り除いてあげないと。

「ぐ……なにを……!」

 私は、近くにあった包丁で彼の腹を刺した。

 一回じゃない。何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も刺した。

 最終的には彼は動かなくなり、あの女の名前も文句も涙も言わなくなり、冷たくなってしまった。

「ふふふ……圭太。だめだよこんなところで寝てちゃ風邪引いちゃうよ?」

 抱きしめて温めても彼は何も言わない。

「体が冷たいよ?最近寒いから夜とか風邪ひかないか心配だよ」

 彼の体から溢れた血液で私の体はどんどん赤くなっていく。

 けど、今本当に幸せだ。

 私はやっと彼の元にたどり着いた。

 本当に愛してる。彼もきっと同じはずだ。

 これからはずっと一緒に過ごせる辛い時も悲しい時も、楽しい時も嬉しい時も全部共有して一緒に過ごそう。

 何があっても離さない。

 モウ……二度ト離れナい……

「やっと二人っきりになれたね。これからもずっとずっとずぅぅっと一緒だよ」

 最後に始末しないと人がいる。

 そう、モウ分かっているでしょ?

 私達二人の世界には邪魔なんだ。

 だから、

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