第100話 2人の女の子!



昨日の練習の後に何故だか、上木さんと三海さんと一緒にお洒落なカフェに連れていかれてた。



カフェでは筆談交えながらみんなで楽しく珈琲を頂いて、上木さんも中学生ながらコーヒーにミルクという結構通な飲み方をしていた。




そこで三海さんが上木さんと二人で話したいと言ってきたので、カフェを出た後にその近くに総合公園みたいな所があったのでそこで二人で話していた。




俺はその様子を遠くから声の聞こえないところで2人の様子を伺っていた。


何を話しているかは全く検討がつかなかったし、まさか白星には来ない方がいいと言ったりしてないだろうなと少しだけ不安になっていた。



10分以上は二人で話しているだろうか?

こちらを二人が気にする様子もなく、かなり話に集中している感じだった。




20分経ってやっと二人は座っていたベンチを立ち上がってこちらの方へ歩いてきた。

上木さんは可愛いと言われる系統の顔だが、なぜかどこか寂しそうな顔をしているように見える。



隣を歩いている三海さんは基本的にいつも堂々としているが、こちらに向かって歩いてくる顔は少しだけ曇っているようにも見えた。




「待たせちゃってごめんね。ちょっと話が長くなっちゃって。」




「全然気にしてないよ。上木さんは三海さんと二人で話すことはもうない?」




「…こくり。」




少しだけニコリとして頭を軽く下げた。

二人が何を話したか分からないが、俺は二人がお互いにしっかりと話し合ったのが分かったのでそれ以上何も言わなかった。





「それじゃ、そろそろ帰ろうか。まだ明るいけど朝からだったし早めに帰った方がいいと思う。」




「そうね。和水ちゃんはその自転車で帰るの?送らなくても大丈夫?」




「…こくり。」




さっきよりも更にニコリとして頭を下げてこちらに手を振っていた。

解散と分かればすぐに帰るタイプの女の子のようだ。




「それじゃ上木さんまた今度ね。」

「和水ちゃんいつでも連絡してね。」




さっきから気づいたが、いつの間にか上木さんから和水ちゃんと呼ぶようになっていた。

親しみを持つならそれがいいのだろうが、三海さんが初対面からここまで親しくしようとするのにびっくりした。




上木さんはもう一度俺たちの方を振り返って手を振って、軽快に自転車に乗りあっという間に視界から消えていった。





「東奈くん。今日も送ってくれたりするのかな?ちょっと家まで遠いけどね。」



少しだけ遠慮がちに俺に笑いかけてきた。


俺はその仕草に恋に落ちかけたが、どうにか踏ん張ることが出来た。

朝の桔梗のビンタがなければ俺は恋に落ちていたかもしれない。




「いいよ。福岡に慣れていないだろうし、付き合うって言ったからには最後まで付き合うよ。」




「ふふ。ありがとう。」




俺たちは駅に向かって歩いていたが、妙な感覚もあった。

恋なのかもしれないと自分でも少しだけ思ったが、野球に関係ない女の子とこうやって歩くことがなかったから実際のところ自分の気持ちがよく分からない。




「ねぇ、東奈くん。今日の野球部の練習試合の結果気になるのかな?さっきからチラチラと携帯見てるから。」




「バレた?やっぱり休みとはいえどんな試合したかとかは気になるね。意外な人が結果出してたり、今日でいえば桔梗が全く打てなかったりしたらどうしてか原因とかも気になっちゃうね。」




「本当に野球部のコーチなんだね。私もスポーツしてきたけど、そうやって選手のことを1番に考えてくれるコーチに出会ってみたかったね。」





「別に俺じゃなくてもいつかそういう人に出会えるといいね。俺にはそういうコーチは居なかったけど、近くに姉ちゃんがいたからよかったよ。」




三海さんは少し寂しそうな顔をしているように見えた。

夕日で表情が分かりずらいというのもあるが、今日は一段と表情豊かな気がした。



俺は改めて三海さんがどんな人か分からなくなっていた。

別に普通に付き合えばいいのだろうが、俺が普通の女性と付き合ったこともないのが原因で結局雰囲気はわかっても女の子自体は分からないんだろう。





「難しいこと考えてる?私といて疲れちゃうかな?」




「そんなことないよ。俺は楽しいけどね?」




「楽しいっての鵜呑みにして頼み事してもいい?」




俺は何も言わずに頷いた。

これまでちょこちょことお願いされてきたが、無理難題を言われた訳でもないので今回も黙って聞くことにした。





「明日も付き合ってくれる?休み最終日だろうけど、野球部の試合一緒に見に行かない?」




「いいけど、強い訳でもないし観戦するような対戦相手でも無いけど別にそれでいいなら。」




「プロ野球じゃないんだし大丈夫。同じ学校を応援しにいくって言えば納得してくれる?」




俺はそれ以上何も言わなかった。

俺も試合は気になるし、三海さんと話しながら外から野球を見るのも悪くないなと思った。





「それじゃ、明日白星に10時に来てね。多分試合開始は10時くらいだと思うから。」




「わかった。今日は送ってくれてありがとうね。それじゃまた明日。」




俺に軽く手を振っていつもの家の近くで別れていた。

家の前まで送ればいいのだろうが、親御さんがいた時に俺も三海さんも気まずくなるのが目に見えている。




俺は家路に着く前に少し遠回りして、白星高校前を通って電車に乗って帰ろうと思いのんびりと歩いていた。




「ん?あれは夏実か?」




まだそんなに遅い時間ではない。

7月で日も明るいし、試合終わってとっくに解散してる時間と思っていたが1人で残ってティーバッティングをやっていた。




「夏実。お疲れ様。」




俺はグランドに入る前に近くの自販機で買ったスポーツドリンクを渡した。




「東奈くん!お疲れ様ー。今日は2試合目スタメンで出たんだけど散々で…。明日の為にちょっと打ち込んでおきたくて1人で居残り練習中なの。」




夏実は自分に対して厳しいから散々というのは多分ノーヒットで終わったんだろう。

三振しまくったとかエラーしまくったとかなら多分こんな雰囲気じゃないと思っていた。




「そう言う日もあるさ。明日も試合に出れるといいけど出れなくてもしっかりと練習はするんだよ。やりすぎも体には良くないからあと少し練習見てあげるから30分くらいで終わろう。」




「30分…。わかった。東奈くんがそういうならそうするけどちゃんと指導してよー?」




夏実は少しだけ不満そうな顔をしたが、すぐに笑顔で俺との練習を始めた。


夏実にマンツーマンで指導するのはかなり久しぶりな気がする。



俺は夏美にやるべき事を高校に入ってすぐに伝えた。


1年目は試合で結果を残すとかレギュラーを取るとかそういう気持ちはまず捨てるように言い聞かせた。


もちろんすぐに夏実はレギュラーを取れるとは思っていなかっただろうが、はっきりそう言われると複雑な顔をしていたのを思い出した。




「どうしたの?」




「夏実は当たり前だとレギュラー取って試合に出たいよね?」




「うん、もちろん。だけど、レギュラーを取るためにレギュラーを諦める。私は誰よりも東奈くんを信頼してると思う。多分桔梗よりもずっと信頼してるよ!」




真っ直ぐ目の前の俺を見ている。

流石にそこまではっきり断言されて見つめられると恥ずかしい気持ちの方が大きい。




「そこまで言われると嬉しいけど恥ずかしいよ。」




「あっ!ごめん!けど、プレッシャーかける訳じゃないから。何があっても最後まで信じて着いていくよ。下手くそだった私を1番にスカウトしてくれた東奈くんにスタメンを取るという形で恩を返したい。」





「そんなこと気にしなくていいよ。夏実には誰でも出来るような事だけどそれを人一倍出来たし、その姿勢が素晴らしいと思ったから。俺が思ってる以上に夏実は体力とか筋肉も付いてきてるし、地味なトレーニングとか基礎トレを腐らないでやってるし大丈夫。」




「本当に?私もスタミナついたってよく分かるし、体つきも変わったよ。トレーニングメニューやる前はかなりぷにぷにしてたけど、今はかなり筋肉質になってるかも。」





力こぶを作って筋肉がついたことをアピールしてきた。

中学生の頃と体重変わっていないらしいが、ちょっとだけ丸かった顔も今は肉が落ちて愛らしい顔をしている。




「なんか変なことを考えて私の事見てる気がするー!あ、あんまり話してると時間無くなっちゃう。」




俺は久しぶりに夏実のバッティングを手伝ってあげた。


こうやって見ると中学生の時よりもずっといいスイングになっている。

技術的なものはまだまだ改善の余地があるが、地道にやって来ている練習のおかげか下地が完成に近い。




「あと少しだね。夏実は今のフォームで振りにくいとか、パワーが出ずらいとか、タイミングが取りにくいとかそういうのは無い?」




「ないかなぁ。ボールがバットに当たらないとか飛ばないっていうのは技術的なものだよね?東奈くんと中学生の時に色々と試行錯誤して、理想のフォームのムービーの通りに何時でも振れるようにしてきたし、しっくり来てるから大丈夫だと思うよ。」





「俺もそのスイングは夏実の身長とか体格にも合ってると思うし大丈夫ならこのまま行こう。」





夏実にボールを投げてあげて、いい打球音で打ち返している。


ちょこちょこアドバイスをしてあげながら30分間集中して練習に取り組んだ。


夏実自身もかなり高い集中力でトスバッティングを繰り返して、終わるころには汗でびっしょりになっていたがかなり充実した練習になったと思う。




「ふー。30分でも東奈くんが指導しながらだと何日分の練習よりも身につく気がするなぁ。出来れば独り占めして練習付き合って欲しいくらい。」




「あはは。もう1人指導できるコーチが居ればもっと一人一人に教えやすくなるんだけどなぁ。ノック打ってたりすると指導しずらいからノッカーが欲しいね。」





「うーん、東奈くんのノック上手いからね。変わりのノッカーとなるとハードル高い気もするよー。とりあえず着替えてくるから待っててくれたら嬉しいな。」




そう言うと駆け足で部室の方へ夏実は着替えに行った。


夏実は俺の事を見習って練習してる時は歩いたりせずに、キビキビ走って動くようにしてるらしい。


野球もそこまで走り回る競技ではないし、スタミナはそこまで要らないと思うが高校野球は過密日程でとんでもない暑い中で連戦をしないといけない。



冬の間に身体を作るのは試合で使うスタミナもそうだが、夏の連戦や練習で途中でバテて練習できないとなると技術の向上もない。




あまりにハードトレーニングし過ぎても怪我もするし、選手寿命も削ってしまうのでハードトレーニングをするとしても連日ではなく、次の日は他の練習で身体に均等に負荷をかける。





「ごめん!待った?あ、私服なのに後片付けまでさせてごめんね。」




「いやいや。いつも練習終わった後走り回ってトレーニングしてるみたいに積極的にやってるから今日くらいは気にしないで。」




そう言うと最後の片付けが終わって夏実と二人で帰ることにした。

さっきまでは三海さんを送って行って、その1時間半後くらいには他の女の子と帰っている。




「三海さんとのデートは楽しかった?」




「え!?」




「桔梗ちゃんから聞いたよー。中学生の上木さんも居たってのは知ってるよ?桔梗ちゃん今日変化球を狙い撃ちしてたみたいで2試合で全打席出塁してて凄かったよ。」




「楽しかったというかなんというか。上木さんと二人で話してたのが気になったけど、それ以外は普通に女の子と出かけたって感じだよ。」




「ふーん。今度私が試合で活躍したらその日は東奈くんの奢りでなにか食べに連れて行ってよー!」




「そうだね。けど、最初の1回だけだよー?他にはホームランとか打ったらその時も連れていくよ。」





「えー!それって無理だと思って言ってない?!」





「そりゃ今は無理だろうけど、ホームラン打つのはそんなに難しい事じゃないよ。だから無理と決めつけずに狙わなくても打てるようになれると思ってたらいいよ。」




夏実は本当に打てるのかなという感じで俺の方を見てきたが、目を瞑って何かを想像しているのか目を開ける頃には満面の笑みでこちらを見ていた。





「打てるって言うなら信じてみるよ!けど、まだまだ先だろうから今は地道に頑張るね。」




彼女は女性には珍しいというか自分の立場をしっかりと理解して、理想はあるだろうがそれを我慢出来る心の強さを改めて感じることが出来た。




中学時代の時よりも少し背が伸びたのだろうか?

それともほんの少しだけ丸かった印象の夏実が、1年でここまで鍛えられた身体になったのは彼女の努力の賜物だろう。




顔つきも前は柔らかくて優しいという感じの見た目だが、それが大きくは変わらないが少し顔も締まって、大人っぽくなったような印象を受ける。




「なーにー?人の顔ジロジロ見て。1年で私も少しは大人っぽくなったかな?」





「一番最初に会った時よりもずっと大人っぽくなってるよ。」




「そう言われると恥ずかしいな。あ、そろそろお家つくからここまでで大丈夫だよ!送ってくれてありがとうございます。また来週から指導よろしくお願いします!コーチ!」




俺に向かって笑顔で敬礼して駆け足で夏実は自分の住んでるであろうマンションへ帰って行った。



俺は夏実の少しずつ成長している姿を再確認してまたコーチとして1から頑張ろうと思った。




「明日は夏の大会以来の試合を見れるのか。新チームのスタメンも知らないし楽しみにしておくか。」


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