第66話 打撃の天才!
あの特守の行われた次の日。
レギュラー、ベンチメンバー候補に入れなかった1.2年生達は午前中から昼まで学校に居残りで練習を行っていた。
一軍のメンバーは今日2試合練習試合をするために少し遠くの八幡区まで行くようだ。
1年生からは桔梗、かのん、梨花、投手として七瀬の4人が一軍に帯同して行った。
特待S.Aのメンバーはほとんど一軍に選ばれていたが、1人だけ選ばれていない氷は相変わらずのんびりと頑張っていた。
「桔梗達はいいなぁー。試合に出たいなぁー。」
今日はあまり出来ない打撃練習を一日中やることにした。
俺の隣で美咲が素振りをしながらブツブツと俺の脳内に刷り込むように呟いてくる。
「美咲、スイングが雑になってるぞ。そんなんじゃまだレギュラーメンバーは遠そうだな。」
2つゲージを用意して、片方はコントロールが悪くない人達が交代交代で投げてもう片方はピッチングマシンで打撃練習を行っている。
打っていない人と、次に打つ人以外は内野や外野で球拾いしている。
少しだけ打撃効率は悪いが、内野ゴロが転がったら捕ってからファーストに送球までをワンセットにしてワンプレーをしっかりと行ってもらっている。
外野フライも捕ったら内野手に中継して、ファーストにボールを投げる。
ファールとかもあるので、ファールを打ったらすぐに片方が打つというのを繰り返す。
バッターが打った打球をしっかりと処理するのも練習のうちだ。
ノックを処理するのと、ちゃんとバッターが打った打球をアウトにするのとでは結構違うものだ。
実力のあるバッターにはある程度指示をしていた
。
内野ゴロを打て、外野フライを打て、センター前にヒットを打てなど、具体的にどこにどういう打球を打てというのは思ったよりも難しい。
フォームを崩して狙って打てば出来なくもないだろうが、自分の理想のフォームでわざと場所を狙って凡打するのは技術がいる。
「美咲ー。内野ゴロは打ててるけど狙いすぎて手打ちになってる。もっと自分のフォームを意識して、尚且つ狙い打て。」
美咲はそんな事言われてもという顔をしている。まぁいきなりやれと言っても厳しいか。
2年生にもやって欲しいと指示を出してるが、やっぱり狙い打つことばかりに意識がいってフォームがおかしい。
「美咲、みんなを集合させて。」
「全員集合ー!!」
その大きなグランドに響く声を聞いて全員がすぐにホームまで集合してきた。
「ちょうどみんな1回打った所で、人によっては指示を出してたけど分かる?出された人は答えたら駄目。」
「わからないッス!」
俺はため息をついた。
分からないというのが早すぎるのもそうだが、最初から考えるのを諦めていたからだ、
「打つ場所を指定してたんじゃないですか?」
そう答えたのは柳生だった。
柳生の打撃力は指示するかギリギリのラインで、打てそうなら2打席目以降に指示出してみようと思っていた。
「柳生、正解。 ちなみになんで分かった?」
「氷がずっと内野ゴロ打ってたからです。」
これまでほとんど打撃練習をしてないので、氷が打撃で非凡な才能があると知らない人が多かったし本人もわざわざそういうことを話さなかった。
「柳生は氷の打撃力を知っていたからか。まぁそれに気づくのも流石って感じだけどね。」
みんなからおーという感嘆の声を浴びても柳生はしれっとしていた。
「氷のいる前でこんな事言うのも悪いと思うけど、体も大きくなくて、足も遅いし守備も上手くない、肩はそこそこ強い位じゃ特待生として疑問を感じる人も居ただろうが、彼女には打撃に非凡な才能がある。」
一斉に氷の方をみんなが見た。
氷は打撃を褒められたことをとても喜んでいた。
「氷は打撃の天才。ぴーす」
そういうと氷は話の語尾にピースと言うと、目の前の氷も綺麗なピースを俺に向けていた。
「打球の打ち分け方を俺が実践してもいいけど、みんなコーチだから出来るとか、私たちじゃ出来ないとか言いそうだから氷に実践してもらって説明していくね。」
マネージャーにバッティングマシンにボールを入れてもらって、ある程度同じところにくる球を打ち分けてもらう。
「氷、引っ張ってくれ。」
そういうと氷はファーストの定位置、セカンドの定位置、ライトの定位置辺りに順番にボールを打っていた。
「す、すごい…。」
ほぼど真ん中に来るボールを順番に守備の定位置辺りに打つのは氷なら難しいことではなかった。
少し打ち損じたりもするが、それでも狙ってる場所には確実に飛ばしている。
「見ればわかると思うけど、打つ位置によって氷のフォームは変わってないよね?ボールがバットに当たる位置を少し前にしたらファーストゴロ、少し後ろに下げてセカンドゴロ、セカンドゴロとファーストゴロの間で、ボールの少し下を叩いて打球を上にあげればライトライナーやライトフライ。」
その後もセンターに打ってもらい、流し打ちもやってもらった。
「センター返しは打撃の基本と呼ばれるが、試合でセンター返しばかり狙わなくても問題ない。なんでセンター返しが基本と言われるかというと、素振りしててみんな無意識に理想のスイングと理想のバットの当たるタイミングがセンターに飛ぶようなスイングをしてるからだ。」
「今、氷は流し打ちをしているが、流し打ちを狙って出来ないという人もいるだろう。」
流し打ちは1番難しいと言われている。
なぜかというと流し打ちをするタイミングが、外に逃げていく変化球をおっつけて逆に打つ、アウトコースのストレートを逆らわずにいつもよりもバットを遅らせてスイングして逆に飛ばす。
この時に流し打ちを意識しすぎて、バットがドアスイング気味になったりバットのヘッドが下がって上手くミート出来ないというのが多い。
ならセンター返しをしたらいいじゃんと言われたらそれでも全然いい。
アウトコースの変化球やストレートは絶対に流さないといけないわけじゃない。
流せないならセンター返ししてもいいし、引っ張ってもいいが外のボールを打つ時に引っ張ろうとしてポイントが前になると、どうしても腕が伸びきってパワーが伝わらずに凡打になる可能性も高くなる。
アウトコースに踏み込んで思いっきり引っ張るのも1つの手だが、パワーがいるしアウトコースと思って踏み込んでインコースに投げられるとまず打てないだろう。
「見てわかるだろうけど、氷は打つ瞬間に少しだけ軸足を下げてアウトコースのボールをミートする位置を後ろにして、イメージ的にはアウトコースをセンター返しして上手く打球を飛ばしてるって感じだな。」
簡単に言っているが、これは相当な練習をずっと繰り返しても打者によっては一生身につくものでは無い。
「ここまで能力を手に入れるのは難しいと思う。だけど、出来る人もこの中に入るかもしれないけどまずはどんなボールが来ても自分のスイングが出来るようしよう。その前に自分のスイングの悪い所をしっかりと直して、それが出なくなったら色んなコースを打てるようになろう。」
「「はい!」」
「今日はもう指示出しをしないから、フォームを崩さないようにとりあえず強い打球を打つことを意識してバッティング練習してね。」
「コーチ。氷は何したらいいですか?」
「氷には俺が投げてあげるからなにか打ちたいボール合ったら言ってみて。」
「とにかく速い球打ちたい。カキーンって。」
俺は氷に130キロくらいのストレートを色んなコースに投げてあげたら満足そうに右に左に打ち返していた。
『ストレートだけじゃ130くらい出ても普通に打たれるな。』
「ラスト一球!」
俺は意地悪に最後にツーシームを投げて氷を打ち損じ誘った。
カキィィーン!!
氷はツーシームと気づくとスイング開始と同時に少しだけバットを寝かせて、少し落ちるツーシームに瞬時に合わせてきて綺麗にセンター前に運ばれてしまった。
「コーチ。流石にツーシームじゃ氷を簡単には打ち取れないです。ぶぃ。」
最後はしっかりと打たれてピースじゃなくビクトリーされてしまった。
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