第2章 高校1年春

第54話 始めの一歩!



俺は中学校を卒業して無事に白星高校への入学が決まった。



蓮司も無事に受かっていた。


これでとりあえず、中学校でやり残したことも思い残すことも無く卒業できた。



俺の周りでなにか変わったというと、姉が去年女子プロ野球ドラフトで全球団1位指名という快挙を成し遂げて、また連日ニュースで姉の姿を見ることになったくらいだ。



3月になるとオープン戦も始まって、早くも大活躍をしている姉に一安心した。


女子選手としてはそこそこの高年齢になっているので、どうだろうと思っていたが心配するだけ無駄だった。



卒業して1週間経って特待生達は、高校の練習に参加することになっていた。


柳生さん、時任さんは早くも入寮をして野球部の練習に参加しているらしい。



それで今日は全員の顔合わせと、親睦を深める為の練習が行われているらしい。



俺はかなり緊張していた。



そもそも今の3年は女子校として白星に入ってきている。


そこに俺みたいな男が入っていって受け入れられるのだろうか?



中学校の野球の部活以来にユニホームに袖を通す気がする。



指導するにはジャージでもいいのだろうが、俺自身がプレーして見せないといけないことも多くなるだろうから、ユニホームを着ることにした。



白星高校のコーチとしてグランドにかなり早めに行くことにした。


あんまりのんびりとしているのも性にあわない。




10時練習開始で9時前にはグランドに顔を出していた。


誰も選手はいないと思っていたが、何人かはグランドに早めに来て練習をしていた。




そこの中には柳生さん、時任さん2人が混ざって練習をしていた。


練習といってもキャッチボールとか簡単なものばっかりだったが、早く練習に来て色々なことを済ませているようだ。




「君が東奈龍くんでいいかな?監督から早く来てるだろうから声を掛けてあげてと言われてね。」




その声をする方を振り返ると、このチームの資料を何回も読み直していたのですぐ分かった。




「末松澪(すえまつみお)キャプテンですよね?はじめまして一応コーチとなる東奈です。よろしくお願いします。」




「ご名答ー。さすがコーチだね。他の人の顔も名前もちゃんと覚えてるのかな? 私達3年生とは長くても半年間かな。多分大変なこと多いと思うけど、頑張ってね。」




「ありがとうございます。キャプテンもなにかありましたらいつでも力になりますので、声を掛けてくださいね。」




「あはは。ありがとうね。まだ君がどんな人か分からないから信頼出来ると思ったら是非指導してくれ。」




末松澪(すえまつみお)。



白星高校のキャプテンであり、3番サードのレギュラーでもある。


2年から3番サードで変わらずに試合に出ており、白星のスタメンの中では1番安定感のある成績を残していた。


バランスのいい選手で、今年のレギュラー選考で彼女がレギュラーを落ちることはまず無いだろう。



サードの他選手は中々このレギュラー争いはきついだろうが、腐ることなく練習を続けて欲しいものだ。



それはそうとして、俺は末松先輩はキャプテンに選ばれた理由がすぐに分かった。


俺の事を信頼していないとしっかりと伝え、信頼を勝ち取れという遠回しの言い方だろう。



女の人だがとても頼もしい感じの人だった。




練習を見学していたらどんどん先輩達が現れたので、一人一人に挨拶をした。



分かっていたことだが、あんまり歓迎ムードではない。


挨拶を返してくれる人はまだいいが、完全に無視してくる人もいた。



無視されるとやっぱり少しは傷つくが、こればっかりは仕方がないし、急に年下の高校生のコーチの話を聞けと言うのもおかしな話だ。



「よぉ。ちょっと遠くから見てたけどシカトされてたな。」



「おはよう。まぁ分かってたことだから梨花はあんまり気にする事はないよ。」




「まぁワシにはどっちみち力になれそうにないわ。その代わりに選手として出来ることはやる。」




そう言い残すとグランドの中へ入っていった。



続々と1年生が集まってきた。

これから本当にスタートするんだなと思った。




「みんな集合!」



天見監督が全員を集合させて、一人一人新入生を紹介して名前とポジションを軽く自己紹介した。



そして俺の番がきた。


俺はコーチとしての挨拶だから、軽い自己紹介だけでは済まないだろう。



2年生からは友好的な視線も多少感じるが、3年生からほとんどが排他的な感情をヒシヒシと感じる。


こういう時は雰囲気を感じるスイッチをオフに出来れば、すぐにでもしたかったが、そういう便利機能はない。




「今年から白星高校のコーチになる東奈龍です。同世代の男子から指導されるのには抵抗があると思いますが、なにか迷ったり躓いたときは学年関係なく相談も指導もしますので、よろしくお願いします。」



言いたいことを簡潔に言った。


あんまりダラダラと長話するとそれこそどんな目で見られるか分からない。




ぱちぱちと拍手が聞こえるのは、1年生たちと2年生の数人からだけだった。


3年生はキャプテンと副キャプテンは拍手してくれているが立場上しないといけないのだろう。




「はい!それじゃとりあえずアップしてきて1年生達に分からないことあったら教えてあげて!」




そういうとキャプテンが先導してランニングから開始した。



俺はグランドにいるとやっぱりランニングしている姿を見ると、俺もあの集団に混ざらないといけないと思ってしまう。



そう思うということは、自分自身がコーチになったと思えていないのだろうか?




「龍くん。思った以上に大変かもしれないね。」




「俺もそう思います…。」




桔梗達1年が希望の1歩を歩みだしたのを俺は見ていたが、俺自身の先行きの不安さに苦笑いをしていた。



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