第34話 志願登板!



福岡南中学校が次の相手だった。



この前、こーちゃんに教えてもらった女子選手の王寺凛さんのいる野球部だ。


ここら辺では結構強いみたいで、男子に混ざってレギュラーを取っているのは中々期待が出来そうだ。




しかし、2試合目は投げる投手がおらずボコボコに打たれた。



王寺さんも2打席目にセンター前ヒットを打っており、プレーをずっとチェックしていた。


一勝出来たからなのか、こっちもさっきとは打って変わって打ちまくっていた。



4回終わってまさかの9-6の打ち合いになっていた。



後ろで応援している女の子3人組も打撃戦を楽しそうに応援していた。


やっぱり見ている分には打ち合いをしている方が見応えはある。



凄い投手が投げあっての投手戦は、それはそれで物凄い見応えがあるのだが。




「んー。王寺さんはいい選手だな。」




こっちのピッチャーはほぼ投球練習もした事ない選手だった。


その選手から打っていたが、打撃だけがイマイチ参考にならなかった。



打撃が良ければ三拍子揃った外野手な気がした。



王寺凛。


打撃能力はかなりアバウト


長打力35

バットコントロール55

選球眼60

直球対応能力50

変化球対応能力50

バント技術不明

打撃フォーム

スタンダートなフォーム。 全体的にゆらゆらと揺れて体からは無駄な力が抜けている感じがする。


守備能力


守備範囲 45

打球反応 60

肩の強さ 40

送球コントロール 55〜60

捕球から投げるまでの速さ 65〜70

バント処理 外野手の為不明。

守備判断能力 50〜60

積極的にカバーをしているか 80



走塁能力


足の速さ 65〜70

トップスピードまでの時間 75〜80

盗塁能力 不明

ベースランニング 65〜70

走塁判断能力 50

打ってから走るまでの早さ 85〜90

スライディング 50〜60



全体的にいいセンスをしている。


なにか一芸を持っているわけではなさそうだが、逆に何を任せても無難にはこなしてくれるだろう。




6回終わって15-9でギリギリコールドにならない点数で、最終回までもつれ込んできた。


こちらの攻撃は後攻だったので、7回表の守備のためにみんな準備をしていた。




王寺さんは4打数2安打1四球1打点。


この回は5.6.7番の攻撃で王寺さんに6打席目が回ってくる。



俺はどうしても王寺さんがどれくらい打席で、厳しい球に対応出来るかが凄く気になった。



今は監督としてベンチに座ってるが、スカウトとして王寺さんを試したいという気持ちが段々大きくなってきた。




「こーちゃん。ちょっと理由はまた話すからこの1イニング俺に投げさせてくれないか? 先発ピッチャー140球投げてるし、明らかにバテてるし駄目かな?」





「6点差で最終回だからもうどっちみち厳しいし、高木も投手経験無いのに140球投げてるからなぁ。みんながいいならりゅーちゃん投げさせてもいいか?」




みんな嫌な顔一つせずに笑顔で了承してくれた。



キャッチャーはこーちゃんに代わってもらって、俺が存分に投げられるようにしてくれた。




「ほら、かのん。あなたのコーチがマウンドに上がってるわよ。」



「なにぃー!ししょー!!またなんで出てきたか分からないけど頑張れーーー!」




さっきまでウトウトとしていたかのちゃんは、玉城さんに起こされた瞬間元気いっぱいになっていた。



あのオンオフの感じ、昔買ってもらった玩具みたいだなとちょっと笑ってしまった。




「なんで今更東奈くんがマウンドに上がるの?」



「ん。彼女の力を試したいんじゃない?」



桔梗は玉城さんにそう言うと、相手ベンチにいる王寺さんに指を指した。




「あははっ。なるほどね。確かに東奈くんならそれだけにマウンドに上がってきそう。」




玉城さんは桔梗のバッチリな考察に楽しそうに笑っていた。






「あんなに体格いいのにベンチで最終回に試合に出てくるってどんな選手だと思う?」



「凛に聞かれても分からん。大したことないっちゃない?今更秘密兵器出てきても遅いし。」




相手のベンチは試合に大差で勝っていたからか、体格がプロ野球選手みたいな俺が出てきても、試合の結果にはほぼ関係ないのでどうでも良さそうだった。




俺からサインを出すとこーちゃんには伝えておいた。


出さない時はストレートで行くことだけ決めておいた。




俺の軟式野球3年ぶりの投球はいつもよりもボールが軽くて、全力で投げたボールは高めに浮き上がり、こーちゃんのミットを弾き飛ばした。




「こーちゃんごめんごめん!」




徐々にコントロールを取り戻してきた俺のストレートに相手のバッターは手も足も出ずに2者連続三振。




そして、遂に俺が確認したいバッターの王寺さんと対峙することが出来た。






まずは130キロのストレートをインコースに厳しいボール球から入る。


インコースにくい込むようなストレートに少し腰が引けたものの、一応はボールは見えているみたいだ。



次は意地悪だが、落差の多い縦カーブを投げてみることにした。


相手の脇のラインあたりから、膝くらいまで縦に落ちるカーブに王寺さんは手を出すが空振り。



カーブに対するタイミングの取り方はよかった。


ストレートのタイミングで踏み込んで、カーブだとわかるとギリギリ重心に体重を残してスイングしてきた。



『スイングはしてきたけど、そのスイングじゃまだまだかな。けど反応は悪くなかった。』




次はアウトコースのボール球にさっきよりも遅めのストレート。



125キロ出ていないくらいのボールを投げた。


このボールなら打てないことはない、ボール球のストレートを誘って投げてみた。




「ボール!ボールツー!」



際どいところに投げようとしたけど、思ったよりもボールになってしまった。



これまでのボールよりも打ちやすい球を投げたが、ちゃんと自制をきかせてバットを止めた。




次はど真ん中にチェンジアップを投げる。



カーブはギリギリ体を残してスイングしてこれたが、更に10キロ以上遅いチェンジアップにどういう対応をするか…。




完全にタイミングを崩され、スイングをしようと思っていたのかギリギリのところでバットを止めた。



バットを止める判断はいい。



チェンジアップは遅い球なので狙い打ちするならかなり打ちやすい球ではあるが、直球系のタイミングで、チェンジアップ狙いで打つのはほぼ不可能。



打てるスピードの球が来たからといって、体勢も崩れている。


狙い球でもない球を打ちに行けば稀にヒットになるだろうが、それで打ち損じを誘うのがチェンジアップなのだ。




『うーん。次は何投げようか。流石にフォークは大人げないし、練習してないシンキングファストにしよう。』



俺は曲がらずに打たれても別にいいと思っていた。


そういう失投を絶対に捉えられるならそれも超一流だと思っているからだ。




そして俺はシンキングファストを投げた。


曲がらないと思ったら、思ったよりも結構曲がってしまった。



「ストライクッ!バッターアウト!」




甘いインコースから更に左バッターの王寺さんの膝元に、くい込む様な素晴らしいボールになった。



これは俺が打者でも打てないかもしれないと思えるボールがいってしまったのが少しだけ残念だった。



王寺さんはこの俺の投球にかなり疑問と不気味さを感じていた。



『なんでこんな投手が最終回出て来るっちゃろ?しかも、凛のときだけ堂々と投手がサインは出すし…。打ち取りに来てるというより試されてない?』




彼女の勘はバッチリと当たっていた。


スカウトするだけにマウンドに上がってきて、情報を得るために公式戦に投げてくるとんでもないやつなのだ。




さっきのデータを修正してみた。


長打力35

バットコントロール55

選球眼60→70

直球対応能力50

変化球対応能力50→60

バント技術不明



打撃能力はまだまだ改善の余地はあるが、打つ打たないの判断は立派だった。


この試合が終わったらスカウトしに行こうと思った。




結果試合は15-10で負けた。


なんで相手があんなに失点したか分からないが、最後の試合はもっと酷くなると思っていた。



それが思ったよりも接戦になって、最後まで試合が出来たことに俺自身は満足していた。




そして試合後、王寺さんのスカウトに向かうのであった。




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